第13話
本日は二話連続投稿になります。
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領主の城はコトクサの街の中心近く、小高い丘の上にあった。
城壁もあるにはあったが、高さ2メートル程で、戦争の役に立ちそうにない。
体裁を整えただけにも見えた。
城の入り口でケイランたちと合流したオレたちは、ケイランの案内で小ホールと呼ばれる場所に通された。普段はちょっとしたパーティーなんかを行う場所らしい。
昨日の剣士を残し、ケイランが伯爵一家を迎えに行く。
しばらく待たされた後、現れた伯爵を見たオレは──
「ぶふぉっ!……っく、ごほごほっ……ぐふぅ……」
締まった! ここの領主は、あのケイランの上司だった。この事態は予想してしかるべきだったのだ!
伯爵の格好はケイランの遥か上を行っていた。
かつらは全方向をカバーする縦巻きロール、化粧は左右に色分けされた紅白のセパレート。
首には道化師が着けるような蛇腹の襟巻きをつけ、シャツは着ていない。
地肌に直接巻き付けられたコルセット姿は、乳首丸出しのストロングスタイル。
やや控えめのカボチャパンツは極彩色を放っており、二本の脚には緑色のタイツを履いて、その先のブーツの先端は膝まで届きそうな大渦を巻いている。
そしてなにより目を引くのが、股間から生えた胸まで届く勢いの黒光りすはペニスケースだった。
もちろんそんなものをイチモツの膂力では支え切れないのだろう。先端から伸ばされた細い紐を首にかけ重量を支えていた。
いつの間にか背後に回っていた剣士がこれでもかと太ももをつねってくれたので、なんとか誤魔化すことが出来た。出来たと思う。だが正直かなり危うかった。
「貴様が”渡り”の宮城か。ずいぶんと奇妙な咳をしていだが、体調は問題ないのであろうな」
伯爵の心配は尤もだろう。これから身内の治療を任せようと言う相手が病気であれば、躊躇いたくなるのも頷ける。気持ちはよく分かるので、その格好でこちらを覗き込むのはやめて戴きたい。オレの腹筋が限界突破してしまう。
オレは伯爵の言葉に一礼して、視線を逃がす。
この後難病の治療というシリアス展開が待っていると言うのに、空気読めない人間と思われるのは納得しかねる。
「失礼いたしました。”渡り”の宮城寿延でこざいます。緊張して無様を晒しました。どうか御容赦を」
「うむ。ダンカン・サモンディールだ。隣に居るのが妻のエレン、娘のカレンはもう知っているのだな」
伯爵の隣にはまだ二十代半ばに見える美しい女性がいた。この女性がカレンの母君か。
「……」
オレと視線が合うと、僅かに顎を引いた。会釈なのだろうか?
気にせず隣りのカレンを見ると、何故か物凄い目で睨まれた。
はて? なにかしただろうか?
「宮城、貴様のギフトで娘の病気を癒せると言うのは真であろうか?」
一通り面通しが済んだので、伯爵が本題に入る。つか、イゼルナってカレンの姉妹だったのか。初めて知ったよ。
「真でございます」
答えたのはナコルト婆さん。
「ナコルトか……もともとは貴様の考えというのは間違いないのか?」
「その通りでごさいます」
「ふむ。確かに以前と比べて顔色が良くなっておるな……」
言って、隣のエレン夫人を見る。
「……ナコルト、あなたの今までの貢献には感謝しています。ですが、此度のこの推挙は如何なものか。素性の知れぬ”渡り”にイゼルナの治療を任せようなどと……あなたは、私達がどれだけあの子こと思っているか知った上で──」
「母上! 私もこの者を推挙致しました! この者のギフトがイゼルナを助けてくれると確信したからです! 母上は私のイゼルナを救いたいという気持ちまで疑うのですか!?」
「騙されているのです!! これまでだって、どれだけのペテン師が我が家に取り入ろうとデタラメを吹き込んできたか!! それでどれだけイゼルナを苦しめたことか……」
エレン夫人の顔が苦悩に歪む。
「此度の治療に危険なことはありません。私自らが一度試しています。例え治療の効果が無くともイゼルナが更に体調を崩すことは無いと思われます」
「それはあなたが健康だからです!! 病に伏しているイゼルナにも害が無いと、あなたに言い切れるのですか!?」
「そ、それは……」
カレンが言い淀む。
まあ、これには反論出来んだろうな……
カレンはまだ風呂に効果があると思ってる様だし、普通風邪引いてるときには風呂は避けるものたから。
エレン夫人も散々騙され、これ以上娘に負担をかけたく無いのだろう。
だが……
「あ~~……一つ聞き捨てなら無いことが有ったので訂正させて貰っていいすか?」
口調は普段通りに戻した。ぶっちゃけめんどくさくなってきたので。
「貴様!! 貴人に向かってなんと言う口の聞き方を!!!」
横にいた剣士がえらい勢いで噛みついてくる。
「うるせぇよ、オレが話してる最中に邪魔すんな」
オレの物言いに一同が固まる。剣士に至っては、腰の剣に手を掛け今にも斬りかかりそうな様子だ。
「悪いがオレは爵位なんぞに微塵も敬意を持ち合わせちゃいない。貴族のいない国からきた”渡り”なんでな。だから、あんたらにすり寄る意味も魅力も感じていない。ペテン師呼ばわりは不快極まる。訂正しろ」
伯爵とエレン夫人はオレの豹変に驚き、ケイランはどこか楽しげにこちらの様子を窺っている。
「今オレがここに居るのは、カレンと婆さんに頼まれたからであって、オレの望みじゃない。正直、今回の件で一番迷惑を被っているのは間違いなくオレだ」
言ってエレン夫人を見る。
「エレンさん、あんたは今回の件に反対なようだが、だったら、もっと頑迷に抵抗してオレか呼び出される前に方を付けておいて欲しかったな。こんな所にに呼び出されてからゴネられたんじゃ、いい面の皮だ。こっちはわざわざ自分の時間を割いてここに来てるんだ、さっさとどうするか決めてくれ」
「な……」
オレの言いぐさに、エレン夫人は言葉を失う。
そして、遂に剣士の堪忍袋の緒が切れたようだ。
剣士は無言で剣を抜くと、目にも止まらぬ素早さでオレを斬りつけてきた。
因みにオレは武道経験者でも無ければ、運動神経に優れたスポーツマンでも無い。
なので──
ぶしゃあっ、とホールに血が飛び散る。
剣で斬られるのはメチャクチャ痛いと思った。思ったが、苦しみという点ではグーちゃんにやられたインプラントの植え込みの方がよっぽど苦しい。
オレは横にいる婆さんを掴むと”人をダメにするダンジョン”に逃げ込んだ。
「なにやっとんじゃ、このバカタレが!!」
くずおれるオレを岩風呂に引きずりながら婆さんが怒鳴る。
「や、いろいろめんどくさくなって」
「めんどくさいって……」
呆れて言葉を失いつつも、婆さんはオレを湯船に叩き込んだ。
みるみる内に背中の痛みが消えていく。
湯のなかで腰を捻ったり肩を回して調子を確認するが、問題は無さげ。
や、ホントに効くんだなぁ、この風呂。初めて実感したわ。
「ったく、この馬鹿は……あそこまで言う必要は有ったのか」
「や、無いな。ムカついたんで咄嗟に口走っちまった。こっちはめんどくさいのを押して善意できてやったんだ。それでペテン師扱いされたらムカつくに決まってんだろ。つか、どうせ無礼打ち喰らうんなら思いっきり笑っておけば良かったよ」
「こ………この考え無しの大馬鹿もんがっ!!」
狭い”人をダメにするダンジョン”に婆さんの怒鳴り声か鳴り響いた。
残響でぐわんぐわん言ってる片耳を押さえ、オレは湯船から上がる。
「さてどうするか……」
「なにがじゃ? 逃げ出すにしても、一度外に出ないと移動出来んのじゃろ?」
「いや、イゼルナの治療」
「………」
婆さんが唖然と口を開き言葉をなくした。
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