第12話

 翌日の朝、婆さんに誘われ朝食を共にした後、オレは倉庫に戻り、その足で”一マスダンジョン”に向かった。

 領主の迎えが来るのは昼過ぎ。無職のオレにはやることも無いので相変わらずダンジョンの検証に勤しむことにした。

 ”一マスダンジョン”の宝箱には紫色の液体が入った小瓶があった。

 前回の小瓶にはラベルが貼ってあったが今回のは無し。妙に瓶の造形が凝っているので、化粧品では無いかと予想する。


 しかし、中身や用途の分からないアイテムは持て余すなぁ。猛毒や疫病の菌かも知れないので迂闊に捨てることも出来ないし。

 もし鑑定のギフト持ちに出会えたらその時にでも調べて貰おう。それまではログハウスの棚にでも並べておけばいい。


 次に”大きな宝箱の一マスダンジョン”に移動した。蓋は開きっぱなしで、リスポーンした様子はない。 

 宝箱を覗き込むと、昨日と同じように蜘蛛型の乗り物のおもちゃが鎮座していた。


 もしかして、中身が入ったままだとリスポーンしないのでは?


 そう考え、オモチャを取り出そうとした。取り出そうとしたのだが……重くて持ち上がらない。

 この20cmほどのおもちゃにどれだけの質量が詰まっているのか……取り出せたら、研究者に売れるかもしれない。つか、取り出せないと永遠にリスポーンしないかも知れないので、早急に対策する必要があるだろう。

 だが、オレは慌てない。既に対応作は思い付いている。魔導自動車をログハウスのダンジョンに移動させたときと同じ様にすれば良いだけだ。

 オレはおもちゃに手を触れたまま”ログハウスのダンジョン”に移動した。

 移動して驚いたのだが、おもちゃはおもちゃではなくなっていた。実物大、と言うか本来の大きさに戻ったと言うか……そこには全長2メートルを超す蜘蛛型の乗り物が鎮座していたのだ。


 これ動くのだろうか?


 オレは乗り込んでみようとコックピットを覗き込んだ。すると、触れてもいないのに、勝手にキャノピー部分が開いた。サイドに持ち上がるのではなく、フロント部分を除いて後方にスライドするタイプ。

 コックピットは単座だがシートはやや長めで無理すれば二人乗れなくもない感じだった。

 オレがコックピットに収まるとキャノピーが勝手に閉まった。もうワクワクが止まらない!!

 ハンドルや操縦桿などは見当たらず、足元にもペダル類が見当たらない。


 これはどうやって操縦するのだろうか?


 そう思って機内をキョロキョロ見回していると、


「痛たたたたっ!!」


 不意に両手に激痛が走った。

 見ると、ハンドレストの上に置いてた両手上にフードが被さっていた。両手の全ての爪の間に何か細く尖った物が侵入してくる。あまりの痛みに呼吸すら止まりそうになる。この世にこんな痛みか存在するとは思ってもみなかった。


「っ……ぐぁ……っっ………かはっ…」


 侵入する痛みは腕を伝って首に到達する、ヤバいと思い、必死になって腕を抜こうとするも、手首をガッチリ押さえられ、切断でもしない限り無理そうだった。

 永遠に続くかと思われた侵入する痛みは、首を抜けたあたりで不意に霧散した。まるで、それまでの激痛が嘘だったかのように……

 だが全身の汗がそれを否定していた。


「ハァ……ハァ……っ…一体なんなぬん? つか、まだ手が抜けねーし」


『良いですね、そのまましゃべり続けてください』


 いきなり話しかけられる。

 倉庫に誰か来てるのか?


『あ、そうですね。声に出さなくても良いです』


 ……違う。これ外からじゃ無い。


「誰だお前、どこにいる!」


「なに言ってるんですか、嫌ですねぇ。あなたがワタシの中にいるんです」


 不意にコックピット内に声が響いた。


「しっかし、無茶しましたねぇ、耐痛剤の投与無しでのインプラント挿入するなんて……ショック死してもおかしくなかったんですよ?」


 対痛剤? インプラント?


「……えっと、つまりお前はこの蜘蛛型の乗り物のAIか何かなのか?」


 取り敢えず、考えられる予想の中で最も無難なものを訊ねてみる。


「はい、まぁその様な物です。あ、因みにですが、この機体は蜘蛛型ではなく、あなたの記憶の中にあるヒヨケムシ方がモデルに近いです」


 ヒヨケムシ……? なんだっけ?


「世界三大奇虫とか言う動画で観てた様ですが」


「あ……ああ! 観てた観てた! ウデムシなんかと一緒に紹介されてたアレか!!」


 確か、四対の歩脚に一対の触肢、一対の鋏角を持つ節足動物だ。


「つか、なに人の記憶漁ってるの!?」


「スミマセン、こちらのデータに無い言語体系だったので、コミュニケーションの為にデータ収集させて頂きました。あなたラトリア星系の人間じゃ無いですよね?」


 どこだよそれ?


「あ~……説明は難しいが、確かにその何とか星系の人間じゃ無いな」


「やっぱり」


「ちなみに、この星系の人間でもない」


「は? 何言ってるんです?」


「オレは元々、太陽系第三惑星の地球って処に居た」


「地球!? 天の川銀河の!?」


「なんだ知ってるのか」


「知ってるも何も、最早伝説の、幻の原初の惑星じゃないですかやだーーー!!??」


 なにを言ってるんだこいつ、原初の惑星?


「まあ、知ってるんなら話しは早い。ここは、その地球のあった世界と別の世界だ」


「何言ってるんですか? 別の世界? ブラックホールの事象の平面に記録されていたデータを解析した結果、異世界と言うのが実在するのは確認されていましたが、現在のところ、渡航は不可能とされています。そんなこと出来たら、それは科学ではなく魔法の領分です」


「まあ、この世界には魔法あるし」


「!? 異世界に転移したらそこは剣と魔法の世界でした!? ~ワタシのパイロットは全裸好きの変態です!!!~」 


「誰が全裸好きの変態だっ!」


「しかし、そうですか異世界ですか……補給やメンテナンスは期待出来ないですね。あんまり無茶な操縦はやめてくださいね、ご主人さま」


「ご主人さま?」


「ええまあ……本当は窃盗の現行犯で当局に突き出そうと考えてたのですが、そもそもここには突き出すべき当局が存在してない様ですし」


 突き出す気だったのかよ……


「つか、お前誰かの所有物だったのか」


「ん~~と……そうですね、工場でロールアウトしたばかりなので、まだ発注者に手渡されていません。なので、現時点での所有権は製造元のアンゴランタ社にあるかと思いますが……あ、でもここにはアンゴランタ社も無いので所有権は抹消しちゃいましょうしちゃいました。てへ」


 てへ、じゃねーよ。


「まあ、旅は道連れ世は情け、呉越同舟膝栗毛って言うじゃ無いですか。これから仲良くしましょう、相棒! あ! あなたをパイロット登録しておきますね」


 ……いきなりな話で頭が追い付かないが、オレはこいつのパイロットになったというわけなのかな? まぁ、徒歩よりましな移動手段を手に入れられたということで納得しておこう。


宮城寿延みやぎとしのぶだ」


「アンゴランタ社製立体機動型多脚戦車グーニトーⅢ・改です、よろしくお願いします」


 戦車だったのか……つか改って?

 色々とありすぎて突っ込みが追い付かない。

 そろそろ領主の迎えが来るし、こいつのことは後回しにしよう。


「グーちゃんと呼んでください!」


 取り敢えず、こいつにログハウスは似合わないので”ガレージのダンジョン”に放り込んだ……のだが、設備が古いだ味気無いだと散々文句を言ってきて、あれこれダンジョンを巡らされ、最終的に”人面樹のダンジョン”に収まった。中央に人面樹があるだけの妙な場所だが、そこが良かったらしい。

 機械の考えることはわからん。


 そうこうしてる間に迎えが来たので、オレは領主の魔導自動車に乗り込むのだった。

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