12時発、1時着。
三題噺トレーニング
Can you keep a secret?
「12時発、1時着。」
はっつーさんからのメッセージはいつだって短すぎる。これでまだ長いほう。普段は5文字とかだから。
もう何度もリアルしてるわけだし、愛の言葉の一つでも囁けないもんだろうか、というのは贅沢な希望だと理解はしている。
僕は毎日ふらふらしているだけのフリーターで、はっつーさんは妻子ある誇り高きリーマンである。
で、土曜日に休日出勤だと家族に嘘をついて僕と会う。
既婚ゲイってダルそうだなと思う。がんじがらめっていうか?自業自得っていうか。
アプリで知り合って初めてリアルしたのが半年前くらい。
なんといっても身体の相性が良かった。
僕も決して小柄ではないのだが、それを見下ろすひょろりとした高身長が、僕の求めるところと完全に一致してるのだ。
これで結婚さえしてなければ文句なし!
「そう言われてもね」
メッセージは短いけど会うとおしゃべり♡なんてはっつーさんではない。ちょっとウザそうな顔で起き上がってベッドに腰掛ける。現実でも無口な人だ。
別に僕だって既ゲイにそんな本当の恋人みたいな関係は望んでいない。
今は特定の人と付き合おうって気もしないし、まずは見た目さえ良ければそれでいい。
「お子さん何歳なんだっけ?」
半分嫌がらせで聞いたことを後悔する。
彼は確かに無口な人だけど、娘のことを話す時は別、という注釈が入る。
目を輝かせながら小学校で運動会がどうの言われて今度は僕が目を逸らすしかない。
そうして、じゃまた、とやっぱり短く言って帰っていく。
……ひどくプライドを傷つけられた気分です。不倫女の哀愁ってやつだ。女じゃないけど。
はっつーさんと会った後はいつも力が抜けてしまう。だらだらYouTubeを見て1時間。もう7時だ。
はっつーさんの帰り道はいつも18時発、19時着。
7時半を狙って通話をかける。
連絡先こそ知ってるけれど、通話をかけたことなんてない。
通話に出たらこう言うって決めてある。
「お疲れ様です。タカハシです。明日の会議の件でどうしても確認したいことがあって」
配慮ができるタイプの人間なのだ、僕は。
当たり前のように通話は一度切られて二度切られて、三回目でブロックされた。
マッチングアプリの方も一瞬でブロックされていた。
家でアプリ見てんのか?それはいいのか?
「やっちまった〜」
ベッドに飛び込んで足をバタバタしてみる。
別に嫉妬するとかそういうタイプじゃない。
ちょっとイラっとしただけ。それだけなのだ。
台無しにしたくなった、それだけ。
スマホを見ながら考える。来週の土曜日はどうしようか。
12時発、1時着。 三題噺トレーニング @sandai-training
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます