金の切れ目が家族の切れ目 こぼれ話

有栖悠姫

義伯父の話



ここでは書ききれなかった義伯父について書こうと思う。


義伯父については前回書いたとおりだ。ウォーターサーバーを伯母を通りて売りつけ、義理の父親を借金の連帯保証人にする。あまりいい人間とは言えないだろう。


幼い頃の私の義伯父への印象は、いつもニコニコしている地味な人、だった。だから高校生になり義伯父の所業を知るまで普通に良い人だと思っていた。


だが母はウォーターサーバーの一件から義伯父に対し不信感を抱いた。このまま放っておいたら伯母が不幸になると考えた母は離婚を強く勧めた。行く場所がないなら一緒に住んでもいいから、と伯母を説得した。


結局伯母はその時離婚しなかった。何故しなかったのかは分からないが、当時従兄弟は私と年が近く小学生だった。小学生の子供を抱えた状態で離婚することへの不安が強く、踏み切れなかったのだと思う。


だが一番の障害になったのはやはり祖母だった。母の言うことを「余所者の嫁の言うこと」と軽んじ一切耳を傾けなかった。さらに悪いことに溺愛している伯母の選んだ相手に問題があるわけがない、とはなから信用しきっており母が何を言っても無駄であった。このときもっと強引にでもことを進めておけばよかった、と後悔するがもう遅い。


さて、ウォーターサーバーの件が小学生の時、連帯保証人の件が高校の時の出来事なのは前回書いたとおりだ。実はこの二つの事件の間にもう一つ伯父の金がらみも問題が発生している。この二つと違いあまり騒ぎにならなかったため、前回は割愛したが義伯父を語る上で欠かせないためこここ記すことにする。


ある日、酒に酔った父が母にポツリと零した。今まで黙っていたがこれ以上は良心の呵責に苛まれ、限界だと。その父の普段からは考えられないほどの弱々しい様に母は身構えた。


父が言うには義伯父に50万貸してしまったと。しかもそれは私に学資保険にと貯めていたお金だったと。


ある日、義伯父が父にコンタクトを取った。明らかに様子のおかしい義伯父を心配した父に、義伯父はこう言った。


「50万貸してほしい。50万がないと家族全員首を吊ることになる」


涙ながらに訴える義伯父に父は面食らったが、最終的に同情し貸してしまった。実際、こんな「お前が金を貸さなければ家族全員死ぬぞ」と脅しとも取られることを言われた場合突っぱねることが出来るのだろうが。勿論金を借りるための方便の可能性も十分になる。死をちらつかせれば比較的簡単に金を借りれる、と人の心に付け込む人間もいるだろう。しかし、要求を突っぱねた結果本当に人が亡くなってしまったら。


父は普段は情に欠けており、正直言って冷たい人間だが自分の姉を含めた複数人の命がかかっていると訴えられ、断ることが出来なかった。当然母には黙っていたが、これ以上秘密を抱えることが出来なかった。酒に力を借りて全てぶちまけた。


それを知った母はすぐ伯母に連絡し、どういうことか、伯母は知っていたのか説明しろと要求した。伯母は義伯父の所業について土下座し謝罪した。祖父母の耳にも入り、私を除いた家族全員で話し合った。


結局のところ50万今すぐ必要なほど義伯父一家が切羽詰まった状況だったのかは謎のままだ。母はこれ以上義伯父に関わりたくないと詳しく聞くことを拒否したし、父にこのことを訊ねると明らかに機嫌が悪くなるため、これ以上の事を知ることが出来なかった。


要するに義伯父の金の問題に振り回されるのは三回目なのだ。仏の顔も三度までと言ったもので、普通なら伯母は離婚するし祖父母も義伯父に関することは聞く前に拒否するだろう。



しかし、伯母も祖父母も正直頭が足りていなかった。だからずるずるとこんな義伯父と一緒にいたし、義伯父の連帯保証人の欄にホイホイサインした。


母の怒りを察するに余りあるだろう。


そして数年前、とっくにうちの関わりのなかった義伯父が家に来た。今までの謝罪と父を脅して借りた50万、そして肩代わりさせた数百万を返したいと言ってきた。


父はそれらを全て断り、金何てどうでもいいからもう自分たちに関わらないでくれ、と怒鳴り散らした。伯父は暫く食い下がったが、渋々帰った。



現在義伯父がどこで何をしているかは不明だ。流石に死んでいたら連絡が来るだろうから、生きてはいるのだろう。


まあ、もう関わることのない人であろう。このエッセイを書くために久しぶりに義伯父のことを思い出した。私の中の義伯父は常に笑っている人のままだ。

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