101 久方の再会

「え……⁉ ちょっと待って、レイ達が何処にいるか知ってるのイヴ!」

「当たり前さ。ブラックホールの場所ぐらい誰でも知っているわ」


 得意のドヤ顔でそう言い放ったイヴ。そしてローラとリエンナの2人は奇しくも同時に同じ事を思っていた。


 知ってるなら早く教えてよ――と。


「場所知ってるなら早く教えなさいよイヴ!」

「こらローラ! 私に偉そうな態度を取るでない」

「どうしてもっと早く教えてくれなかったのよ。場所が分かれば全員で集まれるじゃない。何よ、これなら一先ず問題は解けッ……「――死ぬぞ」


 ローラに皆まで言わせずイヴがそれを遮った。しかもあろう事か、聞き間違いでなければとても物騒な言葉……。一瞬の沈黙が場に生まれたが、直ぐにローラが聞き返した。


「え、イヴ今何て……?」

「だから“死ぬ”ぞと」

「「……」」


 死ぬと言う単語は理解出来た。だが、何故そうなるのか全く分からない。イヴの言葉に2人はただただ固まる事しか出来ずにいる。そして彼女達の疑問をイヴが氷解するのだった。


「ブラックホールはドラゴンの住処。まぁ住処と言っても勿論全てのドラゴンがそこにいる訳ではない。数こそ多くはないものの、大小含めればドラゴンは世界中にいるからねぇ」

「それは前に何となく聞いたけど、それが何で死ぬ事になるのよ……」

「今言ったが、ブラックホールは正真正銘ドラゴンの住処。人間には人間の、妖精には妖精の、そしてドラゴンにはドラゴンの秩序というものが存在する。簡単に言えば、どの種族にも少なからず“トップ”という者がいる。それはドラゴンにもまた然り――」

「言ってる事は何となく分かるけど、だからそれがどう死と関係してくるの?」


 先程から話すイヴの雰囲気が、何処となく重く感じているローラとリエンナ。今からイヴが何を言うのかは分からない。だが、今しがた口にした“死ぬぞ”という言葉が決して冗談などではない事が2人にはひしひしと伝わっている。


「ブラックホールという場所が唯一他の種族と異なる事があるとすれば、それはトップの入れ替わりが激しい事にある」

「トップの入れ替わり?」

「本来であれば、種族の王や長はそう簡単に代わるものではない。妖精王と呼ばれる私や、アンタ達の敵であるロックロス家の様にね。だがブラックホールはそれが異なる。あそこは世界中のドラゴンが集う、世界で1番荒くれている場所なのさ。

ブラックホールではその日その時その瞬間……最も強い者が王となる完全な弱肉強食の世界――。


寿命が長いとされるドラゴンにも関わらず、王に君臨出来る期間は長くて5年~10年。入れ替わりが激しい挙句、仮に王になれる程強いドラゴンであったとしても、大概の王達は1年もその座を守れぬとまで言われておる」

「嘘……何それ……。聞いただけでヤバそうな場所……」

「で、でも……そこにいるんですよね?レイさんとドーランさんは……」


 余りに現実離れした世界の話に、ローラとリエンナはまるで実感が湧かなかった。そもそもドラゴンの住処などが存在していた事にも驚きだが、ドラゴンが毎日争っている様なそんな危険な場所が実際に存在するのかと……。そしてそんな場所に本当にレイ達がいるのかと、考えても考えても全く想像が出来ない2人であった。


「そうさ。それにブラックホールはそもそも“入り口”で8割のドラゴンが殺られると言われるが、まぁレイと黒龍が

ブラックホールにいると連絡をして来たのならば、少なからずそこは突破して生き延びているという事だろうねぇ。

だが最後の連絡が半年前となると、もしかしたら死んでる可能性も大いにあるが。フッハッハッハッハッ!」


 縁起でもない事を言いながら、イヴは大笑いし始めた。


「全然笑えないわよそれ。まさか本当に死んでるんじゃ……」

「冗談でも言わないで下さいよローラさん……! でも、確かドーランはそのドラゴンの中の王なんですよね?だとしたらそんな心配はッ……「ハッハッハッ、それは分からないよリエンナ」


 イヴは自分で言って余程面白かったのか、まだ笑いながら話を続けた。


「確かに黒龍は“王だった”。古魔法で封印されるまではな。フハハハッ!だがあんな奴でも腐っても王。黒龍が絶対的なドラゴンの王とされる所以は、奴がブラックホールにて初めて王となったその日から、優に“2000年”は君臨していたからさ。

しかし、その長きに渡る王が1000年前封印された事により、突然王の座が空いた。それからというもの、今日に至るまでブラックホールでは次に王を目指すドラゴン達の熾烈な争いが繰り広げられる様になった。


長年のブラックホールの歴史の中でも、ここ100年は特に大荒れしているらしい。超激龍時代だねぇ。ドラゴンの平均寿命は個体の大きさによるが、黒龍の様な大型で約4000年。伝説の黒龍も決して若くはない。何時どこぞの若いドラゴンに殺られてもなんら不思議じゃないんだよ。フハハハ! 面白いだろう。


やっぱ死んでるかもしれないねぇ。フ~~ハッハッハッハッ!」


 何が面白いのかはイヴにしか分からない。話しの冒頭からつくづくそう思うローラとリエンナ。改めてブラックホールという場所の危険さを認識されたローラは直ぐに気持ちを切り替えた。


「成程。それじゃあレイの所に行くのはやっぱり無しにしましょう」

「ロ、ローラさん……⁉」

「フッハッハッ! 切り替えが早いねローラ。まぁ普通の人間ならばその考えが正解だよ」


 少し冷たいのではないかと思うリエンナであったが、いざ冷静に考えればローラが普通である。誰がそんな場所を好き好んで訪れたいだろうか。一瞬ブラックホールに行く事を想像したリエンナも、直ぐに非現実的で危険であると察知したのか、胸の奥で静かにレイとドーランに謝るのだった。


「――⁉」


 次の瞬間、気のせいでないのならば、イヴは僅かに眉を動かし視線を“とある”方向に向けた――。


 僅か一瞬の出来事。

 それは直ぐ近くにいたリエンナでさえ気が付いていない程のごく僅かな時間であった。


 だがその一瞬の出来事により、今まで愉快に笑っていたイヴが突然普通に戻った。……いや、寧ろどことなくつまらなそうにも思える。そしてそんなイヴが、溜息を付きながら再び口を開いたのだった。


「ふぅ、何だい……。本当に殺られていたら面白かったのにねぇ――」

「どういう意味? 本当に殺られていたらって……」

「さっきまでの面白さが一気に冷めちまった様だ。“噂をすれば何とやら”ってかい?えぇ」

「……?」


 また急に意味の分からない事を言い出したイヴに対し、ローラとリエンナは困惑している様子。


「ねぇイヴ。急に何の話ししてるの?」

「まだ分からないかい? そんなんだから何時まで経ってもSランクに上がれないんだよ」

「どういう事ですかイヴさん」

「全く世話が焼けるねぇ。ほら、“来る”よ――。」

「「……?」」









 ――ブワォォォォォォォォンッ!!


 





「キャッ……⁉」

「え、ちょっとどうしたのリエンナ⁉」



 大きく広大なツインヴァルトの山に、突如凄まじい暴風が吹き荒れた。それは時間にしてほんの瞬き程であったにも関わらず、まるでツインヴァルトの山々を吹き飛ばす様な勢い。その場所にいたリエンナは勿論、通信機の向こう側にいたローラにも凄い風音が届いていた――。


「大丈夫リエンナ⁉ 今の音何? もしかして敵じゃないわよね⁉」


 音しか分からないローラは、手にしている通信機に焦りながら訴え掛ける。


 状況が分からない。突然凄い音が響いたと思いきや、リエンナからもイヴからも応答が返ってこない。ローラの脳裏には様々な事が駆け巡り、全身に嫌な汗を掻いていた。しかし、そんなローラの思いとは裏腹に、次に通信機から聞こえた言葉は想像だにしていないものだった。






「あ、あれは……。“レイさん”ッ……⁉」

「――⁉」











「――よう! 久しぶりだなリエンナ!」

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