102 異常事態
突然の事に頭が追いつかないリエンナ。
戸惑いながらも、上を見上げているリエンナのその瞳には、他の誰でもないレイの姿が確かに映っていた――。
「レイさん……ッ!」
「生きていた様だねぇ」
空に浮かぶレイの体。
髪も背丈も伸び、見覚えのあるドラゴンの翼を背中に携え、その大きな翼が羽ばたく度に強い風が吹いては木々が揺れている。リエンナとイヴからは僅かに逆光となる位置であったが、屈託のないレイの笑顔がはっきりと確認出来たのだった。
「イヴも久しぶりだな! 元気にしてたか?」
何処からともなくいきなり現れたレイは、そう言いながらゆっくりと地に降りた。実に2年ぶりの再会である。
「アンタも相変わらず元気そうじゃないか」
「レイさんッ!」
「うおー!久しぶりだなリエンナ!」
久々の再会に感極まっている様子のレイとリエンナ。積もる話があるのだろうか、2人は再会した途端矢継ぎ早に会話を繰り返していた。とは言っても、およそ興奮しているレイが一方的に話をしているだけにも見える。優しいリエンナはそれを笑顔で聞いてくれている様だ。
そしてそんなレイとリエンナを横目に、イヴはドーランと話していた。
「フハハハ、おっ死んだかと思っていたがしぶといねぇ」
<――勝手に殺すでない。我は黒龍ぞ>
ドーランとイヴにとって、2年という歳月は大した事のない時の流れであろう。今更多く語る仲でもない。
「久々の“家”はどうだったんだい?」
<ああ、思った以上に荒れていたな色々と>
「で? 当然また王にはなったんだろうねぇ?」
<それは愚問であるぞイヴ>
「フハハハハ。歳なんだから無理すんじゃないよ」
「――おーい、イヴ!」
何気ない話をしていると、元気なレイの声がイヴを呼んだ。
「何だいうるさいねぇ」
「久しぶりだなイヴ!ハハハ、 全然変わってねぇ」
「本当に騒がしいねアンタは……。静かなツインヴァルトが一気にうるさくなっちまったよ」
「とか言って嬉しそうじゃないかよイヴ~」
「そんな訳あるか!」
イヴのプライドの高さから絶対に認める日がくるとは思えないが、久々にレイ達と会ったイヴの表情はまんざらでもない様子である。素直に口に出す事は決してないが……。
「――ねぇちょっと! どうなってるのよそっちは!」
会話に花を咲かせて完全に蚊帳の外であったが思い出してほしい。リエンナが今しがた使っていた通信機はまだ繋がったままであるという事を。
「おー、ひょっとしてその声はローラじゃねぇか!」
「え……今のレイ? そこにいるの⁉ 何で?」
通信機越しで一切状況の分からないローラは1人更に困惑中。敵が襲撃でもしてきたかと思った矢先、事もあろうか聞こえてきたのは最も予想外であったレイの声。
「一応修行が“キリのいい所”まで終わったから直ぐに飛んできたんだよ。悪いな、待たせたみたいで」
困惑しているローラであったが、通信機から聞こえてきたのは確かにレイの声。相変わらずのレイの口調や態度に懐かしむと同時に、まるで2年という歳月がなかったかの如くローラは瞬時に怒号を発したのだった。
「アンタ何時までも何やってのよ馬鹿ッ!」
「え⁉ 何で怒ってんだ……?」
<これはマズいな……>
流石は察しの良いドーラン。この後直ぐにローラの怒りがぶちまけられると判断し、ドーランは静かに眠りについた。
そして何故ローラがこんなに激怒しているのか全く分からないレイは、初めて2人が出会ったあの日と同様、ローラの怒りが鎮まるまでその怒号は数時間続いた――。
♢♦♢
~ツインヴァルト~
「――よし。私の言いたい事は理解してくれた?」
「は、はい……」
さっきまでの元気が嘘かの様に、レイは心身共に枯れ果てた……。
「大丈夫ですかレイさん……?」
「ありがとう……リエンナ」
「そんな奴の事気に掛けなくていいわリエンナ。 全部自分が悪いんだから」
こればかりはローラが正論である。万が一の為に連絡を取り合うと皆で決めた事なのにも関わらず、いざ蓋を開ければ連絡は徐々に取れなくなるし集まるタイミングも延長。そして遂には自分勝手な事をした挙句に半年近く一切の音信不通ときた。
ローラが怒るのも無理はない。寧ろ当然と言ってもいいだろう。リエンナが優し過ぎるのだ。
ずっと前から溜めに溜めていたイライラを全て解放出来たローラは、ここ最近で1番スッキリした清々しい気分になっていた。
「ブラックホールでの修業とどっちが辛い?」
「愚問だぜイヴ……」
地面に項垂れているレイの耳元でイヴが静かにそう聞いていた――。
「取り敢えず現状も分かったでしょ?レイ。アンタが来てくれたから話が一気に進んだわ。先ずはこのまま3人で集まって、ランベルを迎えに行きましょう」
「そうですね。やっと皆にお会い出来ます!」
「ローラは今ポロン村にいるんだよな?」
「ええ」
「じゃあ俺とリエンナがそっちに向かうとするか。ランベルのいる水の王国もそっち方面だし。リエンナ旅の支度は?」
「大丈夫ですよ。何時でも行ける様、荷物はまとめてありますから」
「流石リエンナだな」
それだけ確認したレイは、徐に魔力を練り上げ再び翼を出した。
「じゃあ私も直ぐに支度して待ってるわね。気を付けッ……『――ブワォォォォンッ!』
まだ話の途中であったにも関わらず、またもローラの通信機から凄まじい風音が響いてきた。
「また凄い音なんだけど……!ちょっと聞いてる? こっちまで来てくれるなら私も直ぐに支度するから、リエンナと一緒に気を付けて来てッ……『――ブワォォォォンッ!』
「キャァァッ……⁉ え、何ッ⁉ 」
通信機から響く風音に声を掻き消されてしまったローラは、再度伝えようとまた通信機から呼び掛けていたのだが、その次の瞬間、なんと今度は通信機からではなく、ポロン村にいる“ローラに直接”凄い風が襲い掛かって来ていたのであった。
そう――。
あの瞬間、翼を出して飛び立ったレイとリエンナは、一瞬にしてローラのいるポロン村まで来ていたのだ。
「え、ちょッ……⁉ 嘘でしょ⁉」
「よぉ! 久しぶりローラ!」
「お、お久しぶりです……ローラさん」
ツインヴァルトからポロン村まではそこそこの距離。幾ら飛行能力ガあると言っても、たかが“数秒”で来られる距離では無い。特殊な転移魔法でも使えば勿論話は別であるが、レイはシンプルに飛んできただけ。その余りの異常事態さに、ただただ呆然とする事しか出来ないローラとリエンナであった。
「どうしたんじゃローラ……って、アンタは確か……」
「お、ドロン婆さんじゃねぇか! 久しぶり!」
「やっぱりそうかい。何時かの黒龍の少年ではないか。まだ“別れて”いない様じゃな」
「だからそもそも付き合ってないって言ったでしょ!」
ローラの叫び声を聞いたドロン婆さんが家の中から出て来た。そしてレイを見るや否や、ランベルや黒龍や孫のローラの彼氏やらと、一気に思い出がフラッシュバックした様である。未だにレイがローラの彼氏だとドロン婆さんとお爺さんは思っているらしい。
「別に恥ずかしがる事はない。そんな事よりも……確かレイという名だったね。レイ、兎に角アンタもお茶でも飲んでゆっくりしていきな」
「ハハハ。ありがとうドロン婆さん」
「そういえばランベルはいないのかい? 騎士団が忙しいのかねぇ」
「ランベルは今任務で王国を出ているみたい。まぁもうすぐ帰って来るけどね」
「そうかいそうかい。何でもいいけど取り敢えず休んでいきな」
ドロン婆さんにそう促され、再会したレイ達は家の中で再び話しに花を咲かせるのであった――。
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