第二部 ~2年と再会~

100 ~2年後~

~火の王国・ポロン村~



「――全く、どういうつもりなのよ本当に!」

「フフフ。まぁ便りが無いのは元気な証拠とも言いますから」


 通信機から激しい声が聞こえている。


「無さ過ぎでしょ! 最後に連絡きたのもう“半年”近く前よ?別れる前にあれだけ連絡取り合うって約束したのに」

「もうそんなに経つんですね。毎日があっという間でとても早く感じます。最後に連絡した時もとても元気そうでしたし、レイさんにはドーランさんが、ランベルさんには騎士団が一緒ですから大丈夫ですよ」


 ポロン村とツインヴァルトから、それぞれ通信機で会話をしているのはローラとリエンナだ。何やらローラはご立腹の様子である。


「そう言う問題じゃないのよリエンナ! あれから“2年”もの間、運良く1度も奴らが現れていないからいい様なものの、何時また攻撃してくるか分からないのよ? 気が緩んだ時に限って起こるものなんだから。トラブルって。しかもあの2人なら尚更」

「そうですね。常に気は引き締めておかないといけません。それにしても、早くまた皆さんにお会いしたいです」

「確かに。本当なら1年前に会う予定だったけど結局なくなったからね。それも原因はやっぱあの馬鹿2人だし!離れてても振り回されるって最悪でしょ本当に」


 どうやらローラの怒りの原因はレイとランベルらしい。


「レイさんもランベルさんも頑張っているみたいですからね」

「リエンナ……アンタは本当に良い子だねぇ。私には真似出来ない。会ったらまず文句言ってやるわ絶対に」

「フフフ。でもランベルさんは2カ月程前の連絡で、来週には任務が終わって“水の王国”に戻ると言っていましたから、帰れば連絡が来るんじゃないでしょうか」

「となるとやっぱり問題はレイね。アイツだけ居場所も何をしているのかもよく分からないわ」

「黒龍の巣穴ブラックホールという場所も聞いた事がありませんし、何処にあるかも詳しく聞いた事なかったですねそういえば」

「取り敢えずドラゴンの住処でまともに連絡もしてこないって事は分かってる。我慢の限界よ。向こうがその気ならもうこっちも無視しましょう」


 身勝手なレイとランベルにストレスを溜め込んでいたローラは遂にへそを曲げた。ランベルは2カ月ほど、そしてレイとは半年近く連絡が取れていない状況らしい。


 当初の再会の予定であった1年前――。

 レイ達は再び集まろうかと話しをしたらしいのだが、レイはまだブラックホールでの特訓が終わっていないからもう少し待ってほしいとの事で、ランベルもランベルで思った以上に騎士団の任務が忙しく、まだ動けないと言っていた。


 そしてそこから1週間、1ヵ月、3ヶ月、半年と経ち、定期的な連絡は取り合っていたものの、レイは半年前、ランベルは2カ月前を最後に、この2人とは音信不通となっていたローラとリエンナであった。ローラが怒るのも十分に頷ける。


「こうなったら私達だけ先に会いましょうよリエンナ。もう“準備”は出来ているでしょ?」

「ええ。まだまだ完璧ではありませんが、2年前の自分と比べればそれなりに」

「イヴにも久々に会いたいわね」

「きっと喜びますよ。何だかんだ皆さんの事も気になっている様ですから」

「――馬鹿な事言ってるんじゃないよリエンナ!」


 ローラの持つ通信機の向こうから、突如リエンナ以外の声が響いてきた。明らかに納得していない声色だが、確かに聞き覚えのあるその声。久しぶりに聞いたはローラは嬉しそうに返答した。


「久しぶりねイヴ!」

「何を馴れ馴れしい。勝手に私の事を話すんじゃないよ」


 声の主は他でもないフェアリー・イヴ。2年前、レイ達から全ての事情を聞いたイヴとツインヴァルトの妖精達は晴れて仲間になってくれたのである。だが、“友達”や“仲間”と言う響きがどうも照れくさいのか、イヴだけはそういった類の呼び方を未だに認めようとしていないのである。


「相変わらずね。もう友達なんだから仲良くガールズトークでもしましょうよ」

「それが馴れ馴れしいって言ってるんだよローラ!相変わらずの小娘だね全く」


 イヴの態度は昔のドーランに良く似ている。素っ気なく文句も言うが、何だかんだ面倒を見てくれる上に、何時からかイヴはしっかりとレイ達皆の事を名前で呼ぶようになっていた。


「レイと黒龍はまだ遊んでるのかい?」

「ええ、そうみたい。もう半年も連絡がつかないから」

「仕方のない連中だねぇ。人間だろうがドラゴンだろうが所詮“男”と言うのはそういう生き物さ。呆れるわ」

「同感」


 何だかんだ1番気が合うローラとイヴであった。


「そんな事より、アンタ達ハンターランクとやらは上がったのかい?」

「私は変わらずBランクのままよ。ドロン婆さんとの特訓がかなり厳しくてね、あまりクエストに行けてないの」

「そうですよね……私もなかなかクエストに行けてませんから」

「何だい、揃ってまた言い訳かい。リエンナもあれから上がっていないからBランクのままだろう? ランベルとか言う小僧ですらAランク。一体何時になったらSランクとなってリバースダンジョンに行くのだお前達は」


 的を得ているイヴの的確な発言。これには流石のローラも返す言葉がなく、2人は若干落ち込んでいる。


「まぁ特訓ばかりで全くランクを上げていないレイと馬鹿黒龍に比べればマシだがねぇ。アイツらはちゃんとその事も考えて……いる訳ないか。取り敢えず力だけ付けて後で一気にランク上げすればいいとか考えているだろうねぇきっと」


 図らずも、このイヴの考えが的中していると分かるのは数分後――。


「絶対そうだわ。確かにロックロス家や護衛王団とやり合うには強くならなくちゃいけないけど、私達の最終目標はあくまで異空間。そこに封印されているドーランとレイのお母さんを見つけ出す事なんだから。

あの古魔法にはロックロスと魔女の呪術が絡んでいるし、ここだけは絶対に避けて通れないのよね」

「私も少しは成長出来たかと思っていますが、やはりSランクの道のりは険しいですね……。より特訓してクエストを受ける度に、その現実を突きつけられているかの様です」

「それは私も同じよリエンナ。でも正直、結構大変な2年を過ごしたからAランクまではいけるわ。ランベルだけAランクなのも何か嫌だし、クエストを受けさせてくれる時間さえあればね」

「そこは同じですローラさん」

「何だいリエンナ。私の特訓が邪魔だと言うのかい?」

「い、いえッ!決してそういう訳ではありませんよイヴさん」


 ローラとリエンナの会話から察するに、2人の日々の特訓は相当厳しいものだったのだろう。だがそれ相応に、ローラとリエンナはこの2年という歳月で着実に力を身につけていた。


「取り敢えずどうしようかしら? 本当に予定通りなら、ランベルは一応来週王国に戻って来る筈だけど、レイがさっぱり分からないわ。一先ず私達3人だけで集まるのはどうリエンナ」

「私は大丈夫ですよ。兎も角レイさんと連絡が取れない事には他に動きようがありませんしね」


 2人が通信機でそんな会話をしていると、見かねたイヴが困っているローラ達に手を差し伸べた。


「ランベルとか言う小僧が揃うならば、3人まとめて私が“飛ばして”やろう。黒龍の馬鹿に付き合っていたら埒が明かんよ」

「え?飛ばすって一体どこに……?」


 イヴの急な申し出に、ローラは眉を顰めながら聞いた。横で聞いていたリエンナもきょとんとした表情でイヴを見ている。


「そんなの決まっておるだろう。黒龍とレイのいる“ブラックホール”にさ――」

「「……⁉」」


 まさかのイヴの発言に、ローラとリエンナは目を見開かせて驚くのだった。

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