87 気の合う二人

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~オペラタウン近くの森~



「――何で僕まで」



そう呟いたのはジャック。


レイ、ローラ。ランベル、リエンナの四人とついでに、ジャックも一緒にコノトキ草を採りに森まで来ていた。今レイ達がいる森はオペラタウンの近く。


「しょうがないだろ。博士がジャックさんもって言ったんだから」


博士の依頼で森に来たレイ達だが、出発前に博士に言われた“若者達”という言葉の中に、どうやらジャックも入っていたらしい。


確かに博士から見ればジャックもかなりの若者。本人は納得いっていないのか、終始ブツブツ文句を言っていた。


そんな事をしている内に、早くも目的地の森まで来た一行は、早速コノトキ草の探索を始めるのだった。


「で? コノトキ草って何処にあるんだ? 見た目は?」


「コノトキ草はそこら辺にあるわ。ただコノトキ草は、特別な蝶が受粉する事で初めて花を咲かす魔草なの。通常はただの草だけど、咲く花は真っ白で手のひらサイズ。茎が螺旋状に伸びているのが特徴の魔草なの。ラッキーな事に、見た目にかなり特徴があるから、詳しくない人でも見れば直ぐに分かるわ。

危ないモンスターが出る訳でもなければ、危険区域に指定されている様な物でもないけど、花が咲いているコノトキ草を見つけるには完全にタイミングと運ね」


「へ~。そんな魔草があるのか。じゃあ結局どうするんだ? ただその蝶が来て花咲かすまで待つって事?」


何だか退屈そうなクエストになりそうだと察したレイとランベルは、明らかにやる気がなくなっていた。


「マジかよ。最後のクエストがこんな退屈なものだとは」


「しょうがないじゃない。アンタが入団試験控えてるからって、皆で安全なクエストにしたんでしょ? それにどっかに咲いている可能性だってあるわよ」


「そりゃそうだけどよ、まさかただ探して待つだけって……退屈過ぎるだろ」


「何言ってんのよ! 他にも珍しい魔草を見つけるチャンスじゃない!」


「お、流石ローラ! 君研究者に向いてるよとても」


また意気投合し始めたローラとジャック。目当てのコノトキ草を探しつつ他の魔草も探せるという、この二人にとってはかなり都合の良い展開になった。


「ローラ、お前もしかして初めからそのつもりで……」


「よし! 時間はたっぷりあるから、皆でコノトキ草を見つけましょ! 久々にゆっくり魔草探索が出来るわ! 楽しみ~!」


「やっぱりそれ目的じゃねぇか」


「フフフ。ローラさん気合入ってますね」


入団試験前のランベルを気遣うと言う口実を巧みに使ったローラの技あり。


盛り上がっているのはローラとジャックだけだが、最早どうする事も出来ないレイ達は諦め、大人しく皆でコノトキ草を探すことにした。


「はぁ~。一気に気が抜けたぜ」


「いいじゃないですか。ローラさんも楽しそうですし、森林浴は体にも心にも良いと聞きますから」


「リエンナもある意味凄いな。よく怒らず何でも受け入れられるよ」


「そうですか? 別に怒る事でもありませんからね。皆さんといられるだけで私は毎日楽しいですから」


そう言って仏の様に微笑むリエンナ。

この時、レイとランベルには光り輝く後光まで見えたという。


「フフフ。話している間にローラさんとジャックさんがどんどん行ってしまってますね」


「おいおいマジかよ」


「俺達も急ごう。あの二人ペースが異常だ。はぐれたら余計面倒くさいぞ」


諦めたレイとランベルが仕方なくローラ達を追おうとしたその瞬間、図らずも、この展開に風穴を開けたのは他の誰でもない仏のリエンナであった。


「――あら?あそこにあるのって……」


「ん?」


リエンナは徐に、ローラ達がいる方向とは真逆を指差した。


レイとランベルがリエンナが指差す方向を見ること数秒――。

“それ”に気付いた二人が同時に声を上げた。


「「――あ!!」」


静かな森に響いたレイとランベルの声。


どんどん森の奥へと進み、少し距離が出来ていたにも関わらず、ローラとジャックまでその声が届いた。


気付いたローラが振り返り、大声でレイ達に向かって言った。


「ねぇ! 何してるのよ! 早く行きましょ!」


遠くから叫ぶローラに反し、レイ、ランベル、そしてリエンナまでもが、少し反応に困っている様子。


「早く行こうってば! どうしたのよ!」


返事が返ってこないレイ達に、ローラが再び大声で呼ぶも反応は同じ。全く状況が飲み込めないローラとジャックは訝しい顔つきで首を傾げていた。


そして……。


ローラとジャックがその事態を飲み込むと同時に、絶望とまではいかないが、これから楽しもうとしていたローラ達の心を折るには十分すぎる程の出来事だった。






「――“あった”ぞ! コノトキ草!」


無情に森へと響いたレイの声。


ローラとジャックがこの言葉しっかりと受け入れるのに、暫く時間が掛かったのは言うまでもない――。

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