第82話 ロリにモテる

「エドさんやったー!」


「やはりエド様は凄いですわ!」


「ぐぇ!?」


 聖骸化したラグールカが消滅し、危機の去った大聖堂謁見の間。

 ラグールカの核――〝聖使徒の涙〟をクナイによる直接攻撃で破壊したエドワードは、武器をしまって振り返る。

 すると全速力で突撃してきたルカとマリアンヌのタックルを食らい倒れ込んだ。


「エドさん! エドさん! ウチの魔法どうでした!? ウチ、エドさんのために強くなったんですよ!」


「わたくしも頑張りましたわ! わたくしのMPを攻撃魔法に転用することが出来るのであれば、どんな魔物でもイチコロですわ!」


 金髪美少女と金髪美少年は、じゃれ付く大型犬のようにエドワードの腰に乗っかり、久方ぶりの再開を喜んでいる。

 今までは国の今後を左右する一大事だった故、再開の喜びを分かち合っている暇もなく、ラグールカによる脅威がなくなって、せき止められていた感情が爆発したせいだった。


「分かった分かった! 2人ともよく頑張ったな! ルカはここまで強くなるのに沢山の苦労があったことは分かる。俺もそうだったから。そしてマリーも、今までよく頑張った」


「「えへへ~」」


 エドワードは押し倒されたまま2人の頭を撫でる。


「王子様!」


「会いたかった!」


「33番だけズルい!」


「わたしも!」


 その光景を見ていた〝シスターズ〟もまた、念願である本物の王子様(エドワード)の姿を見て、なだれ込むように飛び込んでくる。

 総勢32人の少女(+少年)におしくら饅頭状態になるエドワード。

 いかにステータスで肉体が強化されているとはいえ、無視出来ない重量である。


「ぐぇ……!」


「重い……っす」


「潰れますわ……! アルティアナ、助けて……!」


「〝シスターズ〟の方々! こ、これではマリアンヌ様が圧死してしまいます! どうかどいて上げて下さい!」


 ファナティックキャリバーで陥った致命状態から回復したアルティアナが〝シスターズ〟をどかそうと奮闘するが、そこに〝シスターズ〟の1人がやってくる。


「あなたが、アルティアナ?」


「はい、左様でございます」


「33番から聞いた。アルティアナは少し厳しくて口うるさいけど、凄く強くて、頼りになって、いつも感謝してるって。だから、わたしもアルティアナのこと好き」


〝シスターズ〟22番がアルティアナの腰に抱き付いた。


「なななななっ!? マリアンヌ様と同じ顔の少女が私の腰に……!? しかもマリアンヌ様、普段私のことをそんな風に思って下さっていたとは……!! これは、刺激が強すぎるっ!?」


 マリアンヌを溺愛し過ぎているアルティアナは、同じ顔をした〝シスターズ〟に抱き付かれた衝撃で鼻血を噴き出し倒れ込む。

 とてもマリアンヌを救出出来る状態ではない。


「ここが……天国か……」


 1人くらい持ち帰ってもバレないだろうかと、アルティアナが第2の〝聖使徒計画〟を企てようと妄想している一方、エドワードの方もなんとか〝シスターズ〟の群れから脱出するのに成功する。


「分かった! 分かったから! 皆1列に並んでくれ! 順番にするから!」


 激闘に続く激闘の末生き残ったにも関わらず、、〝シスターズ〟にもみくちゃにされて死ぬのは勘弁願いたいエドワードは、彼女達を並ばせて順番に対応させる。

 エドワードの左右に〝シスターズ〟が並び、左右の手で頭を撫でて握手を交わすというアイドルの接触会じみたイベントが臨時開催され、マリアンヌとルカが「最後尾はこっちでーす」と列を整理している。


 ちなみにマリアンヌは22番に抱き付かれた衝撃でまだ妄想の世界から抜け出せずにいた。


「なんか全然減らないんだけど……?」


 しかしいくら列を捌こうと〝シスターズ〟の列は全然割けない。

 もしやと思って鑑定眼で彼女達の名前を確認すると、どうやら接触会が終わった後、再び列の最後尾に並び直していることが発覚。

 これではいつまで経ってもこの無限頭撫で地獄から抜け出すことが出来ない。


「君は19番ちゃんだよね? さっきも来たよね?」


「王子様は、わたし達が何番か分かるの? すごい」


「本当? じゃあわたしは何番か分かる?」


「わたしは?」


「ねぇわたしは?」


「エド様! ちなみにわたくしは何番か分かりますか!?」


 同じ顔の〝シスターズ〟の判別がつくと言うことで、やはりエドワードは特別なのだ彼女達は再確認し、「王子様」「王子様」と子猫のようにじゃれ付いてくる。

 もはや整備した列は意味を成していない。


「そもそも王子様ってなんなんだよ……マリアンヌ、一体この子達に俺のことなんて説明したの?」


「ありのままのことを、ありのままご説明しただけですわ」


「絶対脚色してんじゃん……こうはならないだろ……そもそも俺王族じゃないし……」


 マリアンヌは彼女達に様々なことを教えた。

 外の世界のこと、神の教えのこと、そしてエドワードの冒険譚のこと。

 生まれて間もない彼女達にとって、それらの教えは全て同列として扱われ、神話時代のエピソードとエドワードの冒険譚もまた同じ位置に存在した。

 信者が神話時代の英雄と対面したら歓喜するのは当然のことであり、彼女達がエドワードを異様なまでに神聖視するのも無理もない話と言えた。


「いやはやモテモテですなぁエドワードさん。流石は代行者、魔物だけでなく幼女の扱いのお手の者って感じですかね」


「っ!? あんたはピエールカ!?」


「師匠!? 生きてたんですか!?」


 謁見の間の奥半分で〝シスターズ〟達が握手会を開いていた傍ら、手前半分では生き残ったブラックロータスと小聖女聖騎士団の面々が、死傷者や被害状況の確認を行っていた。

 それらの人混みをかき分けて現れたのは、ラグールカの灰色の触手で心臓を貫かれたはずのピエールカ・ルカノーヴァであった。


「愚弟が〝聖使徒の涙〟という奥の手を隠し持っていたように、私も『セカンドハート』と言うアーティファクトを取り込んでおりました」



【セカンドハート】

 レア度SS

 HPが0になった際に自動的に発動する。

 所持者のHP1にする。

 再使用不可。



「てことは、最後の奴が放ったビームを防いだ光の壁は、あんたがやってくれたのか」


「その通りです。セカンドハートが起動するまで数分の時間が必要でして、参戦が遅れてしまい申し訳ありません」


 ピエールカの胸部のローブは表も裏も破れており、大量の血で汚れているが、その奥の白い肌に傷痕は確認出来ない。

 1度のみとはいえ、死後自動的に蘇生魔法が発動するアーティファクトで難を逃れていたラグールカであった。


 しかしピエールカのことを知らない面々は、彼の顔を見て疑問を顔に浮かべる。

 特に彼と同じ顔をしている、ラグールカのことを知っている者の反応は顕著であった。


「ラグールカああああ! 貴様まだ生きてたかああああ! 今度こそぶっ殺してやる!!」


「アルティアナ!?」


「ちょ、待って下さい! まずは話をっ!?」


 ピエールカのことをラグールカと勘違いしたアルティアナは、長剣を抜いて問答無用で斬りかかる。

 アルティアナにとって信仰の対象は母神ではなくマリアンヌのみに向けられている。

 故に教皇への忠誠心は元よりなく、挙句〝聖使徒計画〟を企て小聖女に非人道的な行為を行ったラグールカに対し容赦なく剣を叩き込むことが出来た。


「アルティアナさん待って下さい! 師匠は教皇猊下ではありません! 兄のラグールカさんです!」


 ピエールカは真剣白刃取りでもってアルティアナの剣をギリギリで防ぎ、その間にルカが割って入って事情を説明する。


 彼が15年前の教皇候補の1人であり、ラグールカの双子の兄であること。

 教皇選別に敗れ、権力の分散を嫌ったラグールカに、隣国であるラン王国へ国外追放されたこと。

 しかし同時に彼の息のかかったスパイを忍ばせており、教皇の動向を常に把握していたこと。

 そして教皇が〝聖使徒計画〟という大量破壊兵器の開発に着手し、他国との戦争の末に大陸の宗教を統一した後、両隣国の王都にあるダンジョンも教会の手中に収めようとしていたことを、スパイを通していち早く察知し、故郷であるザーベルグ王国に戻ってきたこと。

 そして最後に、教皇の隠し子であるルカを次の教皇とすることで、このクーデターを穏便に収束しようとしたことを説明する。


「なるほどな。確かに猊下、と呼ぶのも不愉快だ……あのカス(ラグールカ)に双子の兄がいたことは知っているし、ラグールカが教皇になった際に、その兄が国外追放されたことを知っている。教会を則ってどうするつもりかは分からんが、マリアンヌ様の安全を確保できるのであれば、今は信用してやろう」


「ありがとうございます。小聖女聖騎士団団長殿の寛大な処置、まこと痛み入る次第でございます」


 隣国ラン王国での礼儀作法なのであろう。

 握りこぶしを逆側の手の平で包むようにして前面に構え、一礼をするピエールカ。


「んで送り込んでいたスパイというのは誰だ? 〝聖使徒計画〟のことを知っていたということは、中央教会の中枢に位置する地位の聖職者だと思うのだが、皆目見当もつかん。私の記憶では貴殿が国外追放された際、貴殿の派閥の司祭位以上の神官ならびに聖騎士団員は根こそぎ地方教区の閑職に飛ばされたと聞いているが」


「既に呼んでおります。ご紹介します」


 ピエールカの合図を受け、1人の聖騎士団員が謁見の間に入室する。

 その人物を見て、アルティアナは再び全身に殺気を纏わせ剣を抜いた。


「ど、どうも……なんちって」


 そこにいたのは、アルティアナにとって因縁の相手。

 第1聖騎士団が副団長。

 偏屈の騎士。

 アイザック・アイスバーンであった。

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