第81話 神を斬る刃

「1つだけある。マリー、ルカ、耳を貸してくれ」


「はい!」


「分かりましたわ」


 作戦――と呼べる程、立派なものでもないが、それでもこの状況を打開し得る方法を説明すると、2人は二つ返事で賛同した。


「そんじゃ行くぞ!」


 エドワードがクナイを構え、その背中にルカが手を添える。


「MP譲渡!」


 ルカが【MP譲渡】を発動し、残りのMPを全てエドワードに差し出すと同時に、ルカの背に手を置いたマリアンヌからMPを譲渡して貰う。


【MP譲渡】のスキルを持っているルカを中継機に使うことで、エリクサーでMPを全快させたマリアンヌのMPを、エドワードに送り続けることに成功する。



――MP3300/3300



「【魔力圧縮】――【空刃】」



――MP0/3300



 MPを全回復させたエドワードはそのMPを全てつぎ込んで、クナイに【空刃】を纏わせた。

 だがまだ放出はしない。

 マリアンヌからルカへ、ルカからエドワードへと供給されるMP。

 それを【魔力圧縮】でどんどんクナイへ送り込む。



――MP3300/3300



――MP0/3300



――【空刃】の蓄積MP6600



 だがそれを黙って見ている聖骸の教皇でもない。

 エドワードが抱え込む莫大な魔力に反応すると、胴部に張り付けられた悪鬼の面から、極太のビームを撃ち放った!


「触手以外にも攻撃方法があんのか!?」


 エドワードの見立てでは、まだラグールカを屠る程の威力をチャージ出来ていない。

 せいぜいファナティックキャリバーと同程度と言った所。


「邪魔させるかあああ! ファナティックキャリバー!!」


 エドワードとの間に入り、本日6度目の狂信の剣の奥義が火を噴く。

 狂信の剣が聖骸のビームを受け止める。


「ぐぅ……押される……!!」


 だがビームは問答無用でファナティックキャリバーを食い破っていく。

 このままではアルティアナがビームに飲み込まれるのも時間の問題。


 だが――


「〝聖使徒の天輪エンゼルズリング〟!!」


「ジジイ!!」


 ――見かねたボルボルスが懐から人工アーティファクト、あらゆる魔法攻撃を吸収する〝聖使徒の天輪〟を起動させ、アルティアナから引き継ぎビームを受け止めた。


「ワシはあと50年は生きる予定じゃ。こんな所で死んでられるか!」


 こうして2人が時間を稼いだおかげで、マリアンヌの8万あるMPの内、3万(エドワードの全MPの10倍)のMPを注ぎ込んだ極大の【空刃】が完成した。

 エドワードの見立てではファナティックキャリバーの10倍の威力はある。


「な、なんだこのバカげた魔力は……!?」


 ファナティックキャリバーの反動で全身の力が抜けたアルティアナは、剣を杖のようにして身体を支えながら、エドワードが蓄えた尋常ならざる魔力の塊を見据え驚愕する。


「エド様! やっちゃってください!」


「お願いします! エドさん!」


「これでどうだあああああああ!! 【空刃】――――《神斬》!!」


 莫大な魔力を圧縮に圧縮を重ね、神さえも斬らんとする魔力の刃が、解き放たれる!


「「「いけええええええ!!」」」



――――斬!!



 3人は同時に叫ぶ。

 それは吸収許容量を超えて粉砕した〝聖使徒の天輪〟の代わりに、ビームを切り裂き、そのまま殆ど威力を殺すことなく、聖骸化したラグールカの巨体を縦に裂いた!!


「やったか!?」


「いえ、まだですわ!」


 ラグールカは頭部に乗った鳥型の頭と、胴部に張りついた悪鬼の顔を纏めて左右に切断した。


『オオオオオオオオオオオオオオ!!!!』


 鳥の頭と悪鬼の面は共に苦悶の表情を浮かべ、大聖堂全体を震えさせる程の雄叫びを上げる。

 だがラグールカはまだ浮力を失っておらず、切断面から触手が伸び、別れた肉体を繋ぎ止めようと反対側の肉体へと伸び、ゆっくりと左右の肉体を繋ぎ合わせようとしていた。


「だったらもう1度だ!」


 本体に甚大なダメージを負い、再生に全リソースを割いたため触手の攻撃が止む。

 エドワード達は再び魔力を練り上げて、ラグールカの左右の半身が完全にくっ付く前に、2度目の渾身の【空刃】を放つ。



――――斬!!



『オオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』



 今度は悪鬼の面を横に裂く軌跡。

 四等分されるラグールカの巨体。

 その4つに切り分けられた肉体の中心に、緑色に輝く小さな宝石が現れた。


「あれが核じゃ!」


 設計者であるボルボルスが確信を持って叫ぶ。

 まだ核は体内から排出されただけで、砕けてはいない。

 核が地下室に溜め込んだ魔力を使って爛々と輝く。

 核に導かれるように、4つの肉体が元に戻ろうとする。


「す、すみませんエド様……わ、わたくし魔力が……もう」


「いや、十分だ。あとは俺が片を付ける! ルカ、マリーを頼んだ」


「了解です!」


 エドワードは駆ける。

 断面から生えた触手が隣の半身に突き刺さり、縫い合わせるように互いの肉体を引っ張り合っていく。

 グチュグチュと水音を鳴らしながら露出した核が閉ざされていく。

 だがまだ、人間1人が入り込む隙間が残っていた。


「うおおおおおおお!!」


 もうエドワードにもMPは残っていない。

 だが足がある、腕がある、クナイがある。

 絶対に倒すという意思がある。


 しかしラグールカの方も、四つに肉体が切り分けられているにも関わらず反撃を試みる。

 分裂した肉体の上二つ、悪鬼の面の眼球に当たる部分がそれぞれ輝きを帯びると、エドワードめがけてビームを打ち出した!


「くそおおおおお!」


 しかし――突如として出現した光壁が、ビームを受け止めた!


「なんだかしらんがチャンスだ! うおおおおおおおおお!!」



 雄叫びを上げながら床を蹴り上げ、空中に浮かぶ核目掛けて――



――斬!!



「エド様!」


「エドさん!」


 エドワードはラグールカの背中から飛び出して着地する。

 果たして背後の核は――――2つに砕け、その光を失った。




『オオオオオオオオオオオオオオ!!!!』




 人の言葉を失ったラグールカは、魔物の如き断末魔を上げる。

 触手は力を失い、浮力を失った4つの肉体は重力に則りズシンズシンと落ちていく。

 それらが再生することなく、溶けるように魔力へと還り、空気中に霧散していった。


「やりましたわ!! わたくし達の勝利です!!」


「「「「「うおおおおおおおお!!!!」」」」」


 マリアンヌが勝鬨を上げる。

 それに続き、謁見の間に結集したブラックロータスと〝シスターズ〟も面々も歓喜の雄叫びを上げるのであった。

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