第80話 聖骸化
「ファナティックキャリバー!!」
後方――謁見の間の出入り口の方角から、特大の光属性魔法が放出される。
それは眩い輝きを纏い、触手を焼き焦がし、バケモノの本体に着弾した。
その魔法攻撃に見覚えがあった。
自身のHPを1だけ残し、残りを全てエネルギーへと変換する最終奥義。
小聖女の騎士、アルティアナであった。
「マリーん所の騎士!」
「総員突入! 陣形を構築した後、魔法銃斉射!」
「「「「うおおおおおお!!」」」」
「「「「うおー」」」」
次いでアルティアナが作った隙を利用し、なだれ込むように多数の人間が入り込んできた。
それはサラが率いるマリアンヌ救出班員、そしてアルティアナの部下である小聖女聖騎士団。そして無事に救出された〝シスターズ〟達であった。
サラ達は自分の任務を完遂すると、教皇確保班であるエドワードとサーニャの援護を行うため、道中の聖遺物などを保管する宝物庫に大胆にも侵入してエリクサーを回収。
それをマリアンヌに飲ませてMPを完全回復させると、道中で瀕死になっているアルティアナを回復させつつ謁見の間まで駆けつけた次第であった。
〝シスターズ〟を含めた面々は各々が魔法銃を装備しており、かつてラグールカであった触手の塊へ発砲していく。
第1聖騎士団が脱走した〝シスターズ〟を処刑するために用いられた魔法銃を奪還し、逆にブラックロータスの戦力にした形である。
『オオオオオオオオオオ!!』
「サラ隊長! 触手が来ます!」
アルティアナが放つ超高威力を持ったファナティックキャリバーは確かに触手を焼き焦がし、胴部にある修羅の面に直撃し身を削り取った。
だが削れた内部から触手が湧きだし損傷箇所を修復し、触手での攻撃を再開してきたのである。
〝シスターズ〟も馴れない魔法銃で応戦しているものも、殆ど効果があるようには見えない。
「リフレクト!」
触手が飛来する直前――団員を守るように障壁魔法が展開される。
障壁は楕円半球型の構造を取ることで、衝撃を受け流すことで触手の攻撃をうまい具合に捌いていた。
「エド様! 申し訳ございません。お待たせしましたわ!」
「マリー!? 本物か!?」
「はい! オリジナルです!」
障壁魔法を展開した主、マリアンヌもまた謁見の間に到達。
ファナティックキャリバーの反動で、致命状態になっているアルティアナを回復させてから、エドワードに駆け寄る。
「こっちこそすぐに助けに行けなくて悪い。大変だったろう」
「確かに大変でした。でもお友達も沢山出来ましたし、それなりに楽しかったですわ」
「お友達って〝シスターズ〟のことか……確かにこうして揃っている所を見ると圧巻だな……」
マリアンヌと同じ顔をした無数の少女達を見やりながら答える。
「でも〝シスターズ〟も助けることが出来て良かった。ナナの頑張りも報われる」
「ええ……ですがナナちゃんは、わたくしの身代りになって……」
7番を含み、合計4人の〝シスターズ〟が魔法銃での戦闘で死亡したことを告げる。
マリアンヌにとって〝シスターズ〟は1人1人が家族であり、別々の存在。
同じ遺伝子から産まれたクローンではあるが、それぞれに個性があり、マリアンヌはここまで来るのに散って行った姉妹達を憂う。
「そうか……全員は無理だったか……そういえばサーニャの姿が見えないが」
「サーニャ様も危ない状況ではありましたが、わたくしが治療しましたわ。ですが傷がかなり深く、今は眠っておられます」
「そっか……良かった……」
サーニャの生存も確認が取れた。
そして頼もしい仲間達も集結した。
ならば後は、神になろうとした結果醜悪な魔物へ堕ちた愚かな聖職者を片付けるのみ。
そう決意してエドワードはラグールカに向き合う。
「隊長! 障壁破られます!」
「衝撃に備えて!」
「私がもう一度触手を焼き払う! ファナティックキャリバー!!」
「リフレクト!!」
だが今は、サーニャの無事を安堵している場合ではない。
マリアンヌの張った障壁も触手の度重なる攻撃の末突破される。
しかし回復したアルティアナが再びファナティックキャリバーでもって触手を焼き払い、再度マリアンヌが障壁を張り直すことに成功する。
そして死にかけのアルティアナをマリアンヌが上級回復魔法でもって即座に治療する。
「これなら何度でも打てるな……本人の負担凄そうだけど」
「なんてことはない……マリアンヌ様のことを思えばこれしきの苦痛、屁でもないわ!」
「すみませんアルティアナ、もう少しお願いします」
かつてはマリアンヌが魔法を行使するだけで反発していたアルティアナであるが、61層の階層主討伐戦では過保護なまでの信仰で、逆にマリアンヌの命を落としかけている。
それ以降アルティアナも多少丸くなり、こうしてマリアンヌが回復魔法を使うことにとやかく口を挟まなくなっていた。
「ええい! そもそもあれはなんなんだ! おいジジイ! 貴様に言ってるんだ!」
「あたた、乱暴にせんとくれ……」
アルティアナの隣には、腕が拘束され逃げられないよう腰を紐で結ばれた老人がおり、彼女に怒鳴りつけてられていた。
彼は枢機卿の1人であり、〝聖使徒計画〟に加担して数々のアーティファクトを製造してきた研究者、ボルボルス・ボロス。
日頃から薬品が染み込んでシミが出来ていた法衣を着ていたが、現在は泥遊びでもしてきたかのように汚れている。
元々彼は〝聖使徒の聖石〟――ゴーレムをアルティアナにけしかけたのだが、返り討ちに遭った。
ゴーレムがコアを砕かれ機能停止した際に、ゴーレムを構築していた土が崩壊して生き埋めになっていた所を、利用価値があると判断してアルティアナが渋々救出してここまで連れてきたのであった。
「ほほう……猊下、そのお姿……まさか〝
「だからその〝聖使徒の涙〟がなんなのかと聞いているんだハゲ! 殺すぞ!!」
捕虜となったボルボルスに剣を突き立て、髪の毛を引き千切らんばかりに掴み上げ問いただすアルティアナ。
「ひえぇ……暴力反対じゃ! 老人虐待!」
「ゴーレムけしかけてきた貴様が言うか! 急にひ弱な老人ぶるんじゃない!」
「言う! 言うから離しとくれ……老人の残り少ない資源(かみのけ)を乱暴にしないどくれ……」
ボルボルスは生粋のアーティファクト研究者であり、研究者としての実力を買われて〝聖使徒計画〟に加担したまでのこと。
教皇への忠誠心よりも自身の知識欲や探求心を満たす方が重要であり、信仰心もそこまで厚くない。
今の地位も研究の実績で得たものである。
そのためボルボルスはアルティアナの剣幕に負けて素直に情報を吐露した。
「ワシはあれを〝聖骸化〟と呼んでおる。〝聖使徒の涙〟という〝シスターズ〟の魔力を濃縮したアーティファクトを取り込み、肉体を聖女クラスのステータスへと昇華させるものじゃ。聖女はMPと魔力のみに特化することで人智を超越したステータスを生み出すことに成功した血統じゃが、〝聖使徒の涙〟は全てのステータスを聖女クラスに強化させ、人間を更に上のステージへと昇華させるものじゃ」
「その果てがバケモノの姿ってことか……」
「テスト時はあそこまで醜悪な姿になることはなく、自我も残っていた。恐らく猊下はかなり追い込まれた状態で使用されたのじゃろう。取り込むはずの〝聖使徒の涙〟の濃縮魔力に逆に飲み込まれ暴走状態になっておられる」
「それでどうすればあいつを倒せるんだ!?」
「ゴーレムと同じで核を壊せばなんとかなるじゃろうな。こうなってしまえば猊下も元の姿には戻れまい。どうか猊下を楽にしてやってくだされ……」
「楽にしてやってくれと言われてもどうすりゃいいんだよ……」
「私のファナティックキャリバーでも触手と本体の表面を少し削ることしか出来なかったし、奴の肉体は常に再生し続けている。中心部にあるであろう核には届かん」
ボルボルスから解説を受けるも、現状の打破には至らない。
「ダメです隊長! 障壁持ちません!」
「魔導銃も殆ど効いてません!」
「くそっ! せめて団長がいてくれれば!」
「構いません! とにかく撃ち続けて! 少なくともアレをここに貼り付けておく効果はあります! 〝シスターズ〟の皆さんもこのままお願いします!」
マリアンヌは破れた障壁を張り直したり、触手の攻撃でダメージを負った団員に回復魔法をかけていく。
「このままではジリ貧というやつですわ」
「今から地下室の魔宝石の所まで行って魔力供給を断てば、少なくとも再生能力は無効化出来たりしないか?」
「その場合魔宝石を弄れるのはこのジジイしかいない。それにいつ逃げるか分からないこいつに見張りの人員を割く余裕もない」
「万事休すか」
「へいきだよ。だってここには、王子様がいるもん」
「ぬわっ!?」
サラの部隊と〝シスターズ〟が時間を稼いでくれている貴重な時間を使い、作戦を練っている4人の輪に、〝シスターズ〟の1人が割り込んできた。
「
〝シスターズ〟19番はエドワードの袖を掴み、上目遣いで彼を見つめる。
「33番から、王子様のお話は沢山聞いた。どれだけピンチになっても絶対に諦めず、どれだけ強い魔物でも絶対に倒しちゃうって。だから王子様、わたし達を守って?」
「マリアンヌ……ナナちゃんの時も思ったけど、この子達にどんなこと吹き込んだの?」
「そうですわ! エド様はどのような状況でも諦めたりしませんわ! エド様! どうかわたくし達を導いて下さいませ!」
「マリアンヌまで……そうは言ってもMPがもう……」
エドワードは少女達に期待の満ちた眼差しで見つめられながら突破口を探る。
「(ラグールカだったものを倒すには、核を壊さなければならない。だがアルティアナのファナティックキャリバーの威力でも、表面を少し削る程度のダメージしか与えることは出来ない。そして触手を含み、奴の肉体は再生し続ける。その再生エネルギーは、地下室の魔宝石から無尽蔵に供給されるので、MP切れは期待出来ない……)」
エドワードは鑑定眼をフル活動させ、周囲に無数の窓(ウィンドウ)を出現させ思考の海に潜る。
仲間と敵のステータス。スキル構成。この組み合わせ。1度しかないチャンスを最大限に生かす最良の策を模索する。
こうしている間にも、ブラックロータスと〝シスターズ〟は懸命に足止めを続けている。
彼らの努力を無駄にしないためにも、エドワードは強者として彼らを勝利に導く義務がある。
考える。
考える。
考える。
――そして、結びつく。
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