第68話 聖使徒計画
「どきなさい! 【空刃】!」
「ぎゃああああ!?」
サラがマリアンヌと合流した一方。
エドワードとサーニャは大聖堂本堂へ続く中庭を、最短距離で駆け抜けていた。
「サーニャ、前方に庭園らしきものがあるけどどうする?」
「突っ切るわ」
「マジかよ」
「【空刃】」
庭園の入口を斬撃で吹き飛ばし、背の高い生け垣をなぎ倒し一直線に駆け抜ける。
サーニャの予想通り庭園の中の警備は薄く、周囲は生垣で遮られていることもあり、警備の騎士に発見されることもない。
「庭園を抜けたら本堂はすぐそこよ!」
頭の中に大聖堂の図面の描き、目的地が近いことを相方に伝える。
再度サーニャが出口の門を【空刃】でなぎ倒し外へ出ると――
「マリアンヌさまああああああ!!」
「っ!?」
――斬!
教会の白い鎧を装備した女騎士が斬りかかってきた。
エドワードは忍者の研ぎ澄まされた反射神経で反応し、正宗を重ねることで受け止める。
「って!? あんたはマリーん所の!?」
「アルティアナね」
「マリアンヌさまああああ――む、貴様らはブラックロータスの!」
「そうだよ! 今は多分味方だ! だからその剣を納めろ!」
長い金髪を馬の尾のように高い位置で結んだ女騎士、アルティアナはアイザックを打ち倒した後、マリアンヌを救出するべく地下室のある別棟へ向かっていた。
狂戦士のような雄たけびを上げ、目に入る邪魔者を選別なくなぎ倒しながら。
「先ほどは失礼した」
「俺やサーニャじゃなかったらの今の無差別攻撃で死んでたまであるぞ」
「生きているのだからぐちぐち言うな! それで貴様らもマリアンヌ様の救出しようとしていたのか?」
「そうよ。けれどそれは部下に任せている。私達の目的は教皇の身柄を押さえること。ついでに生きていればテティーヌの救出」
「ついでなんだ……」
「もし生きているなら、多少後回しにしていても簡単にはくたばらないわよ、アレは」
果たしてそれは信頼の証なのか、雑に扱っているだけなのか……。
「それは僥倖だ。〝聖使徒計画〟が既に完成しているのであれば、今の猊下を止められるのは貴様らを置いて他にいない」
「どうやらあなたは〝聖使徒計画〟について私達より詳しいようね。教えてもらってもいいかしら?」
「私もアイザックから断片的にしか聞かされていないのだが――」
そうして明かされる、〝聖使徒計画〟の目的とは……。
「――全ての始まりは、ダンジョンの魔石やアーティストの回収を活動目的としている第3聖騎士団が、巨大な魔宝石を持ち帰った所から始まったらしい」
「わりぃ、魔宝石ってなんだ?」
「人の魔力を閉じ込めることが出来る特別な魔石よ。これによって冒険者のMPをそのまま魔石エネルギーとして扱うことが出来るの」
「そうだ。そして持ち帰られた魔石の大きさは、過去例を見ない程巨大であり、マリアンヌ様のMPを全て注ぎ込んでもなお、満たすこと叶わない内容量があったのだ。それに目をつけた猊下は、とある計画を思いついた」
2人が固唾を飲んで聞く中、アルティアナは続ける。
「それは膨大なエネルギーを溜め込んだ魔宝石のエネルギーでもって大量破壊兵器を造設し、それを用いて両隣国であるラン及びスぺイサイドを征服。大陸に3つあるダンジョンを全て教会の手中に納める――それが〝聖使徒計画〟だ」
「なっ!? それって戦争を仕掛けるってことか!?」
「だが私が1番解せないのは、魔宝石に魔力を貯めるため、元聖女ラファエラの身体を苗床にし、マリアンヌ様のクローンを作るといった非人道的な行いだけでなく、マリアンヌ様本人までもを魔力供給のための道具として扱っている点だ!」
その計画の副産物として製造されたのが、装着者に常時HP回復効果を付与させる〝聖使徒の心臓〟。
そしてあらゆる攻撃を受け止め無力化する〝聖使徒の天輪〟といった強力な人工アーティファクト達であった。
「しかし分からないわね。あなた達の神の教えでは、ダンジョンとは人間同士が争わないために、神によって授けられた恵みということになっているのでしょう? にも関わらず教会のトップが戦争を仕掛けるなんて、教義に反するんじゃないの?」
「その辺りは適当な理由を作って周囲を納得させるんだろう。ラン王国ではグアト神宗、スぺイサイド王国ではヴァルデウス聖室が国教として定められている。それらの他宗教を解体させデュミトレス教で統一するための聖戦とでも嘯けば聖職者共は従うしかなくなる」
「教会内部の人間にそういうぶっちゃけ発言されると、ろくでもない感が増すな……」
このままでは、大陸全土を巻き込んだ大戦争が勃発する危険性がある。
想像以上の事態になっていることに2人は戦慄しながらも、どちらにせよ元々の目標が大きく逸れる訳ではないことにとりあえず安堵し、再び教皇の元へ向かおうとするのだが……。
――そのとき、突如地面が揺れる。
「なんだっ!? こんな時に地震か!?」
「あれを見ろ!」
アルティアナが指差す先は、本堂前に設置された人工池。
庭園に並び、大聖堂の内観を美麗なものにするため作られた綺麗な池である。
その池から巨大な腕が伸びているのを3人は見た。
「ダ、ダンジョンの外に魔物だと!?」
池から伸びた腕は池の縁を掴むと、果たしてザバザバと水をしたたらせながら現れたのは身の丈10メートルを超える巨大な人型魔物。
先月討伐された階層主、ミノタウロス・ウルの2倍近い巨体だ。
外皮は岩のようなもので覆われ、足は短いが手は長く胴は太い。
顔に当たる部分はあるものも、鼻や口は見当たらず、目に当たる部分のみが緑色に光っている。
しかしそれ以上に驚いたのが、魔物はダンジョンの外に出ることはありえないという1000年間続く常識が崩れ、地上に魔物が出現したことであった。
「あれも〝聖使徒計画〟の一環と見ていいだろう。ここでこんなデカブツを投入するということは、既に猊下は計画を隠すつもりがないらしい」
「……ダメだ、鑑定が出来ない。ダンジョン由来のものじゃないからか?」
エドワードは持ち前の鑑定眼でもって人工魔物のステータスを確認しようとするも、魔物や人ではないものに対して効果を見せる素振りはない。
「しょうがねぇ、やるぞサーニャ!」
「素通りさせてくれる様子もないものね」
2人はそれぞれ握った刀を構えるが、アルティアナはそれを制止する。
「ここは私に任せろ」
アルティアナは2人の前に出ると、長剣を雄牛の構えでもって巨人を見据えた。
「いいのか?」
「勝てる見込みはあるの?」
「あるわけないだろうあんなデカいもんに。だが時間稼ぎにはなるはずだ。その間に貴様らは猊下を捉えて事態を収束させろ。マリアンヌ様の救出も貴様の部下が行っているのだろう?」
アルティアナは目線を巨人からそらすことなく言葉を続ける。
「私にとってマリアンヌ様は、替えのきかない尊きお方であることに変わりない。だがマリアンヌ様にとって私は無数にいる護衛の1人でしかない。マリアンヌ様を救い出すのは私ではなくとも良いし、例えここで私の命尽きようとも、マリアンヌ様が生きてさえ下さればそれでいいのだ。であればこそ、ここで私がコイツの相手をするのが最も合理的だろう?」
「あなたのことは嫌いだけど、出来れば死なないでね」
「安心しろ。私も貴様のことは好いてなどおらん。とっとと行け」
「全く石頭なんだから。行くわよエドワード」
「ああ、ここは頼んだ!」
「任された」
アルティアナを残してエドワードとサーニャは大聖堂本堂へ向かう。
対するアルティアナは、巨人を見上げ、マリアンヌの無事を祈って決意をみなぎらせるのであった。
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