第64話 中央突破
王都の中心には王城がそびえ立ち、その周囲には貴族や豪族の類いが居を構える高級住宅街が広がっている。
ザーベルグ大聖堂もまた王都の中心地区に存在している。
大聖堂の周囲は背の高い塀に囲われており、四方の入り口には常時教会所属の騎士が門番をして大聖堂内の出入りの管理を行っている。
「さ、ついたわ」
「マジで真正面から行くんだな……」
大聖堂の正門前に到着したサーニャは馬から降り、後ろにぞろぞろと部下を引き連れながら門に近づいていく。
「エドワード、彼等を無力化できる? 出来るだけ無傷で」
「やってみよう」
エドワードとサーニャは2人で並んで門番の騎士に近づいていく。
「ブラックロータスのギルドマスターですね。大聖堂にはどういった用件で?」
丁寧な口調ではあるが、門の中央に立ち塞がるようにして2人を止める門番。
「ええ、人と会う約束をしているの。門番の方には既に話が通っていると思っていたのだけれど」
「いえ、そう言った話は特に聞いてませんが、確認を取ってくるので少しお待ちを」
門弾の騎士はそう言って背を向ける――その瞬間。
「エドワード!」
「スリープ!」
忍者の俊敏性を駆使して、一足で門番の背を捕らえると、至近距離からの【状態異常魔法】で眠らせた。
「ありがとう。それじゃあ行くわよ」
サーニャはサラに支えて貰いながら、無銘刀を抜くと門に向かって振りかぶる。
すると錠が切断され、後ろに続く団員が門を限界まで開く。
「サラ、やって頂戴」
「承知しました」
サーニャの合図を受け、サラはいくつかの小さな結晶を取り出して魔力を込める。
――ドカーン!!
「なっ!?」
すると門の向こう、大聖堂の敷地内で複数の爆発が起こった。
窓が割れ、壁が爆ぜ、瓦礫となって至る所へ降り注ぐ。
「テティーヌに爆弾を仕掛けさせておいたの。連動している結晶に魔力を込めることで遠隔起爆出来るのよ」
「もう後には引けねぇな」
「後に引けないのは最初から。でも勝てば小聖女の身柄はこちらに渡る。であれば首をすげ替えればこっちが官軍よ」
「……だよな、覚悟は決まってる。勿論、人を斬る覚悟もな。行こうぜ」
「ええ」
サーニャは頷くと、伝達魔法を使って各員に指示を出す。
「総員に達する。作戦通りプランAを発令。サラ率いる小聖女救出チームは件の地下室へ、陽動チームは各班ごと指示通りの場所で可能な限り中央教会の奴らを貼り付けて。そして私とエドワードは教皇の身柄を抑える」
〝聖使徒計画〟そのものを企てたのが教皇である可能性が高いことを、テティーヌが決死の思いで送り届けた報告書から読み取った。
故にサーニャは少数精鋭でもって教皇を拘束する手段を選んだのであった。
「電撃作戦よ。もし外部からの介入があったり、作戦が長引けば権力の差でこちらが負けて私達は全員処刑されるわ。そうなる前に暴力でもって全てを終わらせる。突入!」
「「「「はっ!」」」」
サーニャの命で本作戦に参加した60人のブラックロータスのメンバーが、大聖堂の荘厳な空気を壊しながらなだれ込む。
先の爆発が作戦開始の合図でもあり、残り三方の入り口に潜んでいた団員も突入を開始するのであった。
■■■
ザーベルグ大聖堂は広大な敷地面積を誇っており、複数の建物に分かれている。
教皇捕縛チームであるエドワードとサーニャは、教皇がいるであろう本堂目指して中庭を突っ切る。
「お前等止まれ! 何者だ! さっきの爆発は貴様等の仕業か!?」
2人の前に姿を見せるのは、第1聖騎士団の記章を付けた6人の教会騎士。
まだ爆弾の起爆から時間も経っておらず、指揮系統がバラバラであり、彼等にも困惑が見て取れる。
有能で地位の高い者が、教会騎士を統率する前に、可能な限り先へ進みたいというのがサーニャの思いである。
「〝聖使徒計画(エンゼルズプラン)〟」
騎士達に向かってサーニャは呟く。
「なっ!? どうしてそれを!?」
「ビンゴよ。こいつらに遠慮はいらない。死なないギリギリまで痛めつけるわよ」
「了解!」
中央教会でも一部の者しか知らないはずの単語を耳にし、反応を示したことで2人は遠慮なく騎士達を鎮圧する。
人類最高クラスのステータスを誇る2人の冒険者にかかれば、例え相手の数が3倍であろうと事を終えるのに数秒もあれば十分だ。
サーニャはヒューマンサイズの無銘刀で、エドワードも既に抜いて精神支配を耐え終えた正宗でもって彼等を切り捨てた。
教皇直属の近衛部隊であるエリート騎士団が呆気なく戦闘不能となる。
致命状態に入っており、これでは回復魔法を使っても復帰することは出来ないだろう。
「本堂が見えてきたわ!」
「あの一際デカいやつだな!」
走りながら同時に刀を構える。
「「【空刃】!!」」
2本の斬撃が本堂の門を木端微塵に吹き飛ばす。
人類最強とその相棒、2人の勢いは誰にも止められない。
■■■
一方。
小聖女救出チームもまたマリアンヌが捕われている地下室へ向かって突き進む。
既に大聖堂の図面はテティーヌの手によって書き記され保管されており、それを頼りに進めば地下室のある別棟を判別するのは容易い。
「止まれ! 貴様等は一体何者だ!?」
小聖女救出チームの行く手を阻むのは、大聖堂の警備を司る第2聖騎士団。
そして先頭に立つ、一際凝った鎧を着けた騎士には団長章が見受けられる。
「(第2聖騎士団の団長ですか、こりゃ厄介ですね)」
先導するサラは立ち止り、ブラックロータスと第2聖騎士団が睨み合う。
「待ってください、どうやら誤解があるです」
「誤解だと!?」
サラは両手を広げて無抵抗の意を示すも、騎士団長が警戒の色を解く気配は見えない。
しかし彼女は続ける。
「先程の爆発は私達が行ったものではありません。中央教会に潜む反教皇派閥の者が行った謀反行為なのです。私はブラックロータス魔法部隊の隊長、サラ・フィーンです。教皇猊下の応援要請に馳せ参じた次第であり、小聖女マリアンヌ様の指揮で動いております。ここで仲間同士戦力を減らしてしまえば敵の思う壺です!」
サラは真剣な顔付きで口八丁に虚偽を並べると、最後に一歩、横へズレる。
果たして、サラの後ろから出てきた人物は、黄金の髪を足首まで伸ばし、この世の者とは思えない程の美貌を携えた、豪奢な法衣を纏った絶世の乙女であった。
「しょ、小聖女様……!?」
長年大聖堂の警備を務めあげてきた第2聖騎士団団長の目に驚愕が走る。
教会に所属する者であれば、誰もが小聖女マリアンヌの顔を知っている。
そして同時にその尊き身分であるマリアンヌの顔をまじまじと直視してはならないことも知っている。
同時に第2聖騎士団は、〝聖使徒計画(エンゼルズプラン)〟の所轄外であり、マリアンヌが地下に囚われていることも、マリアンヌのクローンが大量に造られていることも知らなかった。
故に――法衣を纏った7番のことを、マリアンヌだと勘違いしてしまった。
7番は彼らの前に立つと、懐から教典を取り出し、その上に手を置く。
「彼女が今言ったことは、本当です。彼女達は味方です。小聖女マリアンヌ・デュミトレスが、天に召す母神と、教祖デュミトレスに誓って、虚偽ではないことを、誓います」
「お、おお……! 小聖女様、先程の不躾な行為、どうかお許し下さいませ……!」
誰よりも厳しく、だからこそ誰よりも敬虔である団長は、だからこそ教会の権威を示されれば、それに忠実に従うことに疑問を抱かない。
片膝を付いて7番へ頭(こうべ)を垂らし、部下も倣って膝を付いた。
「構いません。共に剣を取り、教会に仇を成す背教者に天誅を下しましょう」
「はっ!」
彼らは完全に警戒を解く。
「先程は失礼した。私は第2聖騎士団、団長を務めるギルバードだ」
「私は先程も申した通り、サラと言います」
代表者2人は共同戦線を張るに当たって握手を交わす。
そして――
「「「「「スリープ!!」」」」」
――サラの部下である魔法部隊が一斉に【状態異常魔法】を発動。
第2聖騎士団を1人残らず眠らせた。
ガシャンガシャン、と鎧を打ち鳴らしながら倒れていく騎士達。
彼女達は魔法のエキスパートであり、警戒を解いて抵抗力が落ちた彼らが彼女達の魔法に耐えられるはずもない。
現在その場に立っているのは、ブラックロータスの面々のみであった。
「嘘ついちゃった……神様に怒られちゃう」
「いいえ、ナナちゃんは嘘なんてついていませんよ。私達は小聖女の仲間であることに変わりないのですから。それに手を下したのは私です、ナナちゃんが神様に怒られることなんて1つもありませんよ」
うな垂れる7番に目線を合わせて頬を撫でるサラ。
「じゃあ、サラは神様に怒られちゃう?」
「そんなのへっちゃらです。だって、私達が信じるのはただ1人。人類最強、サーニャ団長のみですから」
教会とブラックロータスの1番の相違点。
それは団員が強い団結力で結ばれており、サーニャの圧倒的カリスマにより完全なる一枚岩を実現出来ている点である。
サラはローブ越しでもはっきりと分かる豊乳を揺らしながら、自信満々に答えるのであった。
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