第56話 イチモツ壊死させてやるからこっちこい

「7番! 今日はなんだか魔力が足りねぇんじゃねぇか? お仕置きが必要みてぇだな」


「やだっ! 痛くしないでっ!」


 今日も〝シスターズ〟から魔力を吸い上げるために2人の騎士が地下室にやってくる。

 彼女達は部屋の奥にある魔力を蓄積する魔導装置に繋がった管を手足に突き刺し、無尽蔵のMPがなくなるまで吸い上げられる。


 そこでサディスティックに歪んだ性癖を持ち合わせた騎士が、7番の細い腕を掴んで怒鳴りつけた。

 騎士達にはどの〝シスターズ〟からどの位の魔力を吸い上げたかを知る術はない。

 あくまで彼らは上官であるアイザック・アイスバーンからの指示通りに動いているだけであり、そのアイザックでさえ更にその上官からの指示で動いているだけなのだから。


 故に彼が行っているのはいちゃもんであった。

 てきとうな〝シスターズ〟を捕まえてお仕置きと称して歪んだ欲望を満たそうとしているのだ。


「へっへっへ! 教育を受けてねぇお前らは、痛みで理解してもらうのが1番手っ取り早いからよぉ!」


 彼は焼きごて型のアーティファクト、“天使の徴”を持ち、手に魔力を込める。

 魔力に反応し、印の部分が熱を持って赤く光りだす。


〝シスターズ〟は漏れなく身を持って焼きごての痛みを理解しているため、7番はより一層暴れ、他の少女達も蜘蛛の子を散らすように部屋の隅へと逃げ出す。


「へへへ。なぁに、ちょっと痕が残らねぇ程度に加減してやるからよぉ」


「ああ、俺も我慢出来ねぇ。おいお前、しゃぶれ!!」


 もう1人の騎士も相方のような性癖は持ち合わせていないものも、毎日絶世の美少女である小聖女と同じ顔をした全裸の少女を目にすれば、邪な欲望を抱いてしまうのも致しかたないことであった。

 無論〝シスターズ〟への性的暴行は許されていないが、監視の目が無ければ末端員の横暴を咎める者はどこにもいない。


 7番の身体に焼きごてが迫り、ズボンのベルトに手をかけた騎士が目の前に19番を跪かせる。


「ま、待って下さい!」


 他の〝シスターズ〟は逃げ出し部屋の隅で怯えていたが、そんな中彼らに歯向かう少女が1人現れる。


 33番――マリアンヌだった。


「わたくしが変わりに処罰を受けます、だから彼女達を離してください」


「33番か。あぁいいぜ。でもいいのか? 7番と19番、両方のお仕置きを1人で肩代わりすることになるんだぜ?」


「か、構いませんわ……!」


 マリアンヌにとって〝シスターズ〟はもはや大切な家族であり、彼女達が酷い目に遭っている中、ただ事が過ぎるまで指をくわえて見ている事など出来るはずもなかった。


「33番……」


「わたくしは大丈夫です。どんな時も神は我々を見守って下さいます。であればこそ、必ず神はわたくし達を助けて下さいますわ」


 7番と19番の手を取ると、背中に庇うマリアンヌ。


「お前がしゃぶらせている間に、33番の背中を焼くっていうのはどうだ?」


「はは、お前頭おかしいぜ」


「お互い様だろうがよ」


 2人の騎士がマリアンヌを前後で挟む。

 カチャリと正面に立つ騎士のベルトが外され、背中に焼きごてが向けられる。

 鼻を突くような嫌悪的な臭いが立ち込み、背中から熱源が迫ってくるのを感じ取る。


「…………さぁ、やるならやってください!」


「こりゃとんだ淫乱マゾだ」


「……っ!!」


 マリアンヌは目をぎゅっと閉ざし、口元と背中に来るであろうブツに対し身構える。

 背中が太陽に照らされるかのように熱い。

 数センチ手前まで焼きごてが近づいている。

 焼きごてが、雄の欲望の貯蔵庫が、それぞれマリアンヌに接着する直前――


「おいおいおい。てめぇら、何やってんだ?」


 ――室内が冷気で包まれる。


 暖気が背に迫っているにも関わらず、全身から体温が奪われ、服を着ていないのもあって白皙の柔肌が粟立つ。

 この冷気を知っていた。


 忘れもしない魔力の感応。

 マリアンヌを地下室に閉じ込めた張本人。


「ア、アイザック副団長!?」


 うねりの強い紫色の癖毛に無精ひげを生やした中年の教会騎士。

 いつもの慇懃な立ち振る舞いをしていなければ、軽薄な笑みを浮かべてもいない。


 彼が放つ冷気と同じ、冷ややかな瞳が部下に向けられる。


「ちょっち〝シスターズ〟の様子を見にくりゃてめぇらよぉ……」


「……っ!?」


「なんとか言ったらどうなんだぁ、おい」


 アイザックは腰に佩いた短刀を抜き1歩前に出る。

 一層冷気が強くなり、空気中の水蒸気が急激に冷やされたことで地下室の床に白い煙が広がる。


「ふ、副団長……これはその……」


 2人の部下は先程までの愉悦を表情を改めると、許しを請うようにアイザックへ直立不動の姿勢を見せる。

 焼きごてが床に放り出され、ベルトの外れたズボンがズリ落ちる。


 アイザックはマリアンヌからすれば極悪極まりない人物であるが、今回ばかりは彼女の味方をしてくれるらしい。


「ジャリ共の魔力は教皇猊下へ献上するものだ。お前等の穢れた欲望で汚した〝シスターズ〟から抽出された魔力を猊下へ献上するつもりなのか? どうなんだ?」


「いえ! 滅相もございません!!」


「だったらどういう状況なんだよこれは。説明してみろや」


「そ、それは……その……」


「出来ねぇよなぁ? それともなんだ? 全裸の少女を前に欲望が抑えきれませんでしたって事か?」


「……そ、その」


「そう言うことなら仕方ねぇな。俺の氷魔法でテメェらのイチモツ壊死させてやっからこっちこい!」


 長剣と短剣の中間の長さを持つ短刀が振るわれ、焼きごてを持っていた方の騎士のベルトが切断される。

 2人揃ってズボンがズリ落ちたみっともない姿が晒された。


「お、お許し下さい副団長」


「申し訳ございません! こ、今後はこのようなことがないように心がけますから、なにとぞ恩赦を!」


「上の口では何とでも言えるからなぁ……でも下の口は嘘を付けねぇ、やっぱ壊死させとくかぁ?」


「お、お許しを……っ!!」


 アイザックは部下の目の前で立ち止まり、じっと2人の目を見据える。

 2人の騎士は冷気で毛穴で引き締まり、流れるはずの冷や汗も流せない。

 膨張していたイチモツも冷気と恐怖で縮こまり、アイザックへ許しを請い続ける。


「反省してんのか?」


「はっ! 今後副団長の期待を裏切る様な真似は一切致しません!」


「はい! 我らが母神と教祖デュミトレスの名にかけて誓います!」


「分かった。〝シスターズ〟の存在を知っている者は少ない方がいい。お前等は替えの効かない人材であることに代わりはない。今回に限り不問としよう。だが次はないと思え!」


「「はっ!」」


 アイザックは吐き出している冷気を止めると、地下室を後にする。

 2人の部下もアイザックの背を追いかけ退室した。


「た、助かりましたわ……」


 危機が去ってマリアンヌはへなへなと脱力する。

〝シスターズ〟のために身を挺して犠牲になることを選んだ彼女であったが、それでも初めては心に決めた者と決めている。


 無論マリアンヌは小聖女という身であるからに、洗練された継承を行うために次の聖女を産む必要がある。

 そのため結婚相手は教会によって決められてしまうのだろうが、それでも気持ちの上では好きな男性と結ばれたいと思っていた。


「33番、平気?」


 7番と19番が近寄ってきて、冷えた身体を温めるように左右からマリアンヌにすり寄る。


「はい、わたくしはなんとも……あら」


 彼等が地下室を出て暫くし、ようやくアイザックが吐き出した冷気が晴れる。

 足元に広がる白い煙がなくなると、そこにはアーティファクトの焼きごてが転がっていた。

 アイザックに迫られた恐怖で、焼きごてを回収するのを忘れてしまったのだろう。


「(ここに囚われ1週間。もはや外部からの助けは期待できませんわ。であればこそ……!)」


 マリアンヌは冷気で冷えた焼きごての柄を掴み、転がり落ちてきたチャンスに決意を滾らせるのであった。



 囚われの姫は王子様の助けを待つ。

 けれども彼女は、王子様の助けが来るまで何もせずただ祈り続けるだけに終わらなかった。

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