第42話 こっちもでっか……
幸いなことに無傷でブラックロータスのギルドハウス兼サーニャの邸宅に到着する。
テティーヌに代わり、サラと名乗る僧侶の女冒険者に案内を引き継がれ、俺はギルドハウスの敷地内を進む。
「……でっか」
「そうでしょう。ブラックロータスの構成員は130名。内60名が住み込みで活動しています。訓練場のみでなく、食堂や鍛冶場もあり、料理人や鍛冶職人も所属している弊ギルドの設備は王都最大規模と言えます」
先導するサラはローブの上からでも分かる巨乳を揺らしながら説明をしてくれる。
こっちもでっか……。
今気付いたけど俺と仲の良い異性、皆貧乳なんだよな……。
妹、ロリエルフ、小聖女、人類最強然り。
「腕っぷしだけで貴族にまでなった家はちげぇな……」
背の高い塀に囲まれたギルドハウスはサラの言う通り立派なもので、内部には複数の建物に広い面積を有した訓練場などがあり、団員が訓練に勤しんでいる光景が見受けられる。
煙突の伸びた建物からは鎚が鉄を叩く音が響き、炊事場と思われる建物からはいい匂いが漂い、訓練で疲弊した団員の空腹感を刺激している。
ギルドハウスをねり歩き数分後、ついにサーニャの邸宅へと到着する。
サーニャの住まいはギルドハウス敷地内にもう1重築かれた塀の中にある屋敷で、塀の周囲は水堀りで囲まれてこれまた立派なものであった。
籠城戦を視野に入れてるのか……?
「エドワード様、どうぞ」
「あ、ども……お邪魔します」
屋敷に入って最初に通されたのはダイニングと思わしき部屋で、クロスの引かれたテーブルの奥には家主であるサーニャ・ゼノレイが座っていた。
「いらっしゃいエドワード。テティーヌから何か嫌がらせとかされなかった?」
ダンジョンにいる時よりも穏やかな雰囲気で身を包んだサーニャが、可愛らしい声で問う。
服装も黒いファーが特徴的なコートではなく、令嬢が着るようなドレス姿だ。
「いや、息苦しくはあったが馬車の座り心地も良くて快適な道だったぞ」
「それは良かったわ」
サラの姿は既になく、使用人と思われるメイド服の女性がイスを引くので、そこに腰掛ける。
すると首元にナプキンを巻かれ、卓上のグラスに飲み物が注がれ、奥の部屋から料理人が料理を運んできて俺とサーニャの前に置く。
「物々しい文書で呼び出されたものだから何事かと思っていたが、もしかしてディナーのお誘いだったのか?」
「あー、まぁ、そういう側面もあるわね」
「なんだか歯切れが悪いな。やっぱなんか企んでるだろ?」
「少なくともこの食事は、階層主の討伐に手を貸してくれたお礼を兼ねているわ」
サーニャは早速ナイフとフォークを手に取って、皿の上の料理に手をかける。
「そう言うことなら前もって言ってくれ。今日は妹が手料理を振舞ってくれる予定だったんだ」
病気が治り寝たきり状態から回復し体力もついてきて、ついに1人で料理が作れるようにもなったのだ。
そんな妹が作ってくれた料理を食べ損ねた訳であり、文句の1つでも言いたくなる。
「そうだったの……その、ごめんなさい。あなたの事情をないがしろにしていたわ。まさか家族がいたなんて」
「ああ、たった1人の大切な家族だ」
「……本当にごめんなさい」
「でもまあなっちまったもんはしょうがねぇか。グチグチ言うのも格好悪いし、俺も少し大人気なかった、すまん」
サーニャが悲しげに顔を俯かせるので、俺も罪悪感に負けて折れることにした。
妹がいるからなのか、小さい女の子に悲しい顔をされると胸が苦しくなるんだよな……。
テティーヌから受けた横暴な態度で溜まった不満を、サーニャにぶつけてしまったことを恥じる。
「妹さんの愛情のこもった手料理には届かないかもしれないけれど、今日はあなたをもてなすために料理人が腕を振るってくれたから、ぜひ堪能してくれると嬉しいわ」
「あ、ああ……」
とは言われたものも、目の前にある皿に並ぶ料理はヒューマンの俺からしたら随分と量が少なかった。
野菜を練り込んだような料理や、肉やチーズといったものが合わせて4品、そしてパンといったラインナップで、どれも半口で食べ終わってしまいそうなちんまりとしたものだ。
サーニャはそれをナイフとフォークで切り分けて小さな口に運んでいる。
イスに座ったサーニャの足は宙に浮いており、テーブルやイスはヒューマンである俺に合わせてくれているらしいが、量もヒューマンサイズにしてくれるとありがたかった……。
皿に乗った料理とパンを平らげると、メイドさんに皿を下げられ入れ替わるように料理人がスープとパンのおかわりを持ってきた。
「……」
なんだよコース料理かよ。
こちとら田舎生まれの貧乏育ちなんだ。
いらん恥をかいてしまったじゃないか……。
「どうしたの?」
「いや、うまいなと思って」
適当に誤魔化し、スープをすする。
「そう言ってくれると嬉しいわ」
「でも次は、サーニャと2人っきりだとありがたい」
背後から料理の進み具合や飲み物の残量などをチェックしてくるメイドさんや料理人に囲まれながらする食事は少し窮屈だ。
大声で「おい! エール持ってこいって言ってんだろ!!」と叫ばないと注文が通らない喧騒に包まれた場末の酒場が恋しい……。
「わ、私と2人っきり……!? いきなりそれは……そ、そうね……じゃあ次は、あなたのお家に呼んでくれると嬉しいわ……その、妹さんにもご挨拶したいし」
いささか会話が噛み合ってないような気がするが、深く掘り返す必要もないと判断し受け流す。
その後も軽い雑談を交わしながら運ばれてくるアラカルト、メイン料理を食べ進めながら食事を続ける。
妹も外出できるようになったし、こんな感じの都会にしかないレストランに連れて行ってあげたいなと思いながら、デザートまでしっかりと頂いた。
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