第41話 後日談
61層のボス、ミノタウロス・ウルを討伐し、人類が62層への道を切り開いて既に1週間が経過した。
あれから様々な変化が訪れた。
1番の衝撃と言えば、聖女ラファエラが小聖女マリアンヌの暗殺を企てており61層の討伐隊を全滅させることで小聖女も一緒に亡き者にしようとしていたことだ。
だが討伐隊は見事階層主を倒し、聖女の謀りは失敗に終わる。
聖女の悪事は中央教会の枢機卿陣及び教皇の前で露見され、聖女は生涯に渡り大聖堂内の隔離塔に幽閉されるという処罰を受けたらしい。
教会内部で強力な権力を持っている聖女ラファエラを幽閉することが出来たのは、ブラックロータスの副ギルドマスターであるテティーヌ・ブルーローズが大聖堂へ潜入し言い逃れが出来ない証拠を集め、マリー直属の部下である小聖女聖騎士団がその証拠を元に訴えを起こしたのが決定打だった。
小聖女聖騎士団も腕っぷしだけの近衛部隊ではなく、組織内政治にも精通しており、枢機卿陣の中でも非聖女派閥である者へ予め事情を話して口裏を合わせてから起訴し、教皇まで巻き込むことに成功した結果、なんとか聖女に罪を認めさせたらしい。
しかし民衆には一連の内部抗争は発表せず、ただ単にマリーが聖女の座を引き継ぎ、ラファエラは隠居生活を送るため表舞台に姿を見せることはせず、ゆっくりと民衆から忘れられることで荒波を立てずに処理する算段とのことだ。
……で。
なんで俺がそんな秘密主義を貫く教会のドロドロした裏情報を把握しているのかと言うと、目の前に座る自称一流の潜入工作員である青髪のエルフ、テティーヌから直接説明を受けたからである。
「そんで……俺はどういう要件でブラックロータスのギルドハウスに連行されているんだ?」
「…………あなたはただ黙って座っていればいいのです」
俺は現在ブラックロータスが所有する箱馬車に詰め込まれ、ギルドハウスへ向けて連行されていた。
向かいに座るテティーヌに事情を尋ねるも、彼女は不機嫌そうに俺を睨み付けるだけで答えてくれない。
彼女に対し何か失礼なことをしてしまったかと記憶を掘り返すも、心当たりが全くない。
ミノタウロス・ウル戦では彼女はサポートに徹していたとはいえ、一緒に死線を潜り抜けた仲だと言うのに……。
そもそも俺が今こうして馬車に乗せられ連行されているのもかなり強引だった。
今日のデイリークエストをこなして下宿先へ帰宅した俺は、病気を治して元気になった妹と一緒に夕飯を食べようとした矢先、テティーヌが訪問してきたのだ。
テティーヌに「今からお前にはサーニャ様に会って貰う」と告げられ、1枚の紙を渡された。
『サーニャ・ゼノレイ騎士爵の名においてエドワード・ノウエンにゼノレイ騎士爵家への出頭を命ずる。本文書はザーベルグ国法に則った法的なものであり、ザーベルグ国民である貴殿が出頭に応じない場合は、法的処置を講ずることを留意されたし』
という物々しい文章。
更にご丁寧にゼノレイ家のものと思われる家紋印まで押されていた。
こうして俺は強制的に馬車に押し込まれて、ブラックロータスの本拠地へ連行されている次第である。
せめて妹の手作り料理を一口食べておけば良かった……。
「なぜこんな得体の知れない馬の骨なんぞに……サーニャ様は……どうして……ぶつぶつ」
「えーっと、なんでそんなに怖い顔してるんだ?」
「……すぞ」
「うす」
テティーヌは親の仇のような目で睨んでくるので、凄味に負けて押し黙る。
彼女の太ももに巻かれたホルスターにはナイフが差されており、そのまま俺のことを刺してきそうな気迫である。
一応ステータス確認しとこ……。
テティーヌ・ブルーローズ
25歳
職業:忍者
レベル57
HP3250/3250
MP2010/2200
筋力340
防御285
速力400
器用320
魔力170
運値230
レベル57。
人類最強の右腕に相応しいレベルとステータスだ。
1度刺された程度では死にはしないだろうが、刺さり所が悪ければかなりHPが持っていかれる危険性があるので、あんまり刺激しないようにしておこう。
「俺、これからどうなっちゃうんだろう……」
そんな不安を乗せながら、殺気が充満した馬車はガタゴトと進み続けるのであった……。
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