第37話 最強の2人
61層でデイリークエストを完了した俺は地上に戻り、夕飯の約束をしているルカを迎えにルカの所属教会へと向かったが、ルカは不在であった。
教会前で掃き掃除をしている神父と思わしき爺さんに話を聞くに、中央教会という教会の偉い奴らにシスターを根こそぎ連れていかれたらしい。
行先を聞けばダンジョン61層の最奥、下り階段を守護する階層主を討伐しにいったと言うものだから、俺もルカの後を追い再び61層まで戻った次第である。
ルカのレベルはまだ20にも満たない。
いくらサポート役としてとはいえ、道中の魔物にさえ一撃で死んでもおかしくない深層、放っておける訳がない。
なぜか玄室の扉の前に教会の連中がいて頑なに通して貰えなかった、鑑定スキルで見る限り俺より遥かに弱かったので軽く気絶させ無理やり押し通し、ミノタウロスに襲われていたルカを無事救出して今に至る訳である。
「立てるか?」
「はい、ありがとうございます」
ルカの安全を確保した後、改めて周囲を見渡す。
入り口付近にた沢山のミノタウロスは、俺がすれ違い様に可能な限り殺したはずだが、どうやら無限に湧き出す仕組みなっているようで、新たに出現したミノタウロスがまた群がりはじめている。
そしてそのミノタウロスの群れから少し離れた位置にいる、2周り程デカいミノタウロス――恐らく階層主であろうボスが、マリーにゆっくりと近づいて来ているのを確認した。
「って、マリーも来てるのか!?」
「はい。他にもブラックロータスのギルドマスターもいますし、小聖女聖騎士団も来ています」
「軽い同窓会だな」
などとふざけている場合ではない。
早急にマリーを助けにいかなければ。
「【ダッシュナイフ】」
階層主の巨椀がマリーの頭部にへ伸びる直前、ダッシュナイフでマリーの元に駆けより、小脇に抱えて再度ダッシュナイフ。
巨大ミノタウロスから距離を取りマリーを救い出す。
「マリー! 無事か!?」
「……エド様? どうしてここに?」
「それは後で話す! 取りあえず逃げるぞ! 内側から扉を閉めてた教会の奴らは俺がシメといたからよ」
「ま、待って下さい! あちらにブラックロータスのサーニャ様が倒れていらっしゃいます。彼女の元までわたくしを連れていって下さいませ!」
マリーの指さす方を見ると、コートを血で汚した桃銀髪のホビットが倒れていた。
人類最強があんなにある程強いのか……。
「分かった、飛ばすから捕まってろよ」
「あっ! ちょっと待って下さいませ!」
「今度はなんだ!?」
「ええと……小脇に抱えらるのはその……違いますわよね?」
「は!? どういうことだ!?」
「王子様がお姫様を運ぶときはその……お姫様だっこがお約束ではありませんこと?」
「今そんなこと言ってる場合か!?」
マリーは頬を染め恥ずかしながらも図々しい要求をしてくる。
肝座ってんなぁ……。
とかなんとかやっている間に、巨大ミノタウロスがこちらへ向かってくる。
『ブルアアアア!』
「ホーリーシャイン!!」
『ブルアアアアア!?』
マリーが閃光魔法を放つ。
片目にナイフが突き刺さり隻眼となっている巨大ミノタウロスが、残った目を焼かれたことでその足を止めた。
「ナイスだ」
褒美にマリーの要求に応え脇抱えからお姫様だっこへと形を変え、今度こそサーニャの元へ駆ける。
「【瞬歩】」
最短距離で向かう最中に、魔法陣から転移してきたミノタウロスに身を阻まれるも、忍者スキルの瞬歩で抜き去っていく。
瞬歩はダッシュナイフと違い移動するだけのスキルだが、その速度はダッシュナイフより早く、何より魔物を透過してすり抜けることが出来るのだ。
「サーニャ様! 今回復しますわ! オールヒール!」
サーニャは回復魔法の光に包まれると、出血が止まり上体を起こした。
「あなたは確か……エドワード。そして小聖女……様」
「救援が遅れてしまったことなんと申し上げれば良いか……申し訳ございません」
「今こうして助けて貰った手前、小聖女様を責めることなどできません……でもなぜ……ああ、なるほど」
聖騎士団の一団がミノタウロスを対処しているのを見て何かを察するサーニャ。
俺は途中参加なので経緯を把握していないのだが、ブラックロータスと教会の共同作戦とは言ったものも、そこまで連携が取れていた訳ではなかったらしい。
多分だが実際に自分達が攻撃されるまでブラックロータスに任せきりだったのだろう。
「エドワード、あなたに頼みがあるわ。仲間を無事に撤退させたいから階層主を足止めするのに協力して」
サーニャが見つめる先にいるのは、未だマリーの閃光魔法で足踏みしている階層主。
【ミノタウロス・ウル】
討伐推奨レベル73
攻撃SS
防御S
速力A
魔力なし
弱点属性なし
獣属性
鑑定眼で階層主の強さを確認する。
確かに桁外れの強さを持っているが、こっちにはレベル71の人類最強サーニャ・ゼノレイに、回復魔法とMPだけに絞れば人間の域を超越しているマリアンヌ・デュミトレスがいる。
勝てない相手ではないはずだ。
ていうかこいつよく見たら、俺がプリムと初めて出会った時、俺を殺そうとしてた魔物じゃんか!
雪辱の相手だ。
なおさら放置しておけるものかよ。
だから俺は提案する。
「足止め? 倒すのが目的じゃないのか?」
「そうですわ! 図々しいお願いだとは思いますが、わたくし達と一緒に階層主を倒すのを強力して頂けないでしょうか、サーニャ様!」
マリーもまたサーニャの手を掴みながら懇願する。
「これだけの被害を出しておいて、まだ手柄にこだわるのね……」
「そうではありません! サーニャ様とエド様、そしてわたくしがいればきっと、あの魔物を祓うことだってできますわ!」
「……本当に、勝つ気でいるの?」
「勿論ですわ!」
「確かに小聖女様が回復に付いて下されば心強い。でも2人だけじゃ」
「少なくともあんたの次くらいには役に立つと思うぞ」
人類最強を前にして何調子こいているんだと言いたいものだが、事実俺のレベルは67。
更にデイリークエストの報酬でステータスが加算されているので、数値だけで言えばサーニャとほぼ遜色ないと言っていい。
「確かに、この前会った時より遥かに強くなってる……強者の匂いがするわ」
「また匂いか」
でもまあ人類最強から信頼を勝ち取れたのなら良しとしよう。
サーニャは立ち上がり、戦場を俯瞰する。
「扉が開いてる……?」
「ああ、俺が開けた。教会の奴らが邪魔したから気絶させたので、また扉が閉まるようなことはないと思うぞ」
「なるほどね、だいだい状況は確認したわ」
サーニャはそう言うと魔法を行使する。
どうやら遠く離れた味方と会話する類いの魔法らしい。
「サラ、聞こえる?」
『その声は団長!? ご無事なんですね!?』
「小聖女様に治療して貰ったわ。状況を報告して」
『所属不明の冒険者が1人、扉を解放し目にも止まらぬ速さで駆けていったのですが、その際にミノタウロスを数体倒していったのと、聖騎士団が戦闘に参加した結果、なんとか立て直しに成功しました。死傷者と低レベルの補給部隊は玄室の外まで退避させることもでき、サーニャ様とテティーヌ様を救出するために戦線を押し返している所です』
「報告ご苦労――総員に通達。撤退指示は撤廃。引き続きミノタウロスを抑え込んでいて。現場の指揮はサラに任せる。なお教会へのサポートは最低限に、奴らにもしっかりと仕事をさせて」
「サーニャ様、その念話魔法ですが、私の声を聖騎士団の皆さんに伝えることは可能でしょうか?」
「はい、対象を絞らず玄室内の人間全てに伝播させるのであれば可能です。私の身体に触れてください、小聖女様の御手を汚すことになってしまいますが」
「ではお願いします。あとわたくしに敬語や気遣いは不要ですわ! そういうの、本当は嫌なんですの」
「……分かったわ」
マリーはサーニャの肩に手を置き、透き通るようなソプラノボイスを念話魔法に乗せる。
「聖騎士団の方々、マリアンヌですわ。ブラックロータスの方々と協力しミノタウロスを祓い続けてください。またシスターの方々は負傷した方の回復をお願いします。これは教祖デュミトレスの血を継ぐ小聖女の名によって通達いたします。特に聖騎士団の方々、もしお願いを聞いて頂けないのであれば、明日からごはん抜きですわよ!」
「小聖女様の勅である! 皆、奮起せよ!」
「我ら小聖女聖騎士団、マリアンヌ様の御心のままに!」
「規則を守るばかりで本当に大切なものも守れない団長が戦意喪失している今こそ立ち上がるのだ!」
マリアンヌに直接命令を受けたのもあってか、教会の奴らも目に見えて動きがよくなっている。
ていうか騎士団長、味方からも評判あんまよくないんだ……。
「それじゃ、準備も出来たし行くわよ」
「ああ、やってろうじゃねぇか」
「わたくしもめいいっぱいサポート致しますわ!」
マリアンヌは俺とサーニャに強化魔法を施す。
以前モンスターハウスに閉じ込められた時にもやってもらった魔法だ。
『ブルアアアアアアアア!!』
ここで閃光魔法から視力を回復したミノタウロス・ウルが吠え、周囲を観察する。
「ホーリーシャイン!」
『ブルル……!』
マリーは再び閃光魔法をミノタウロス・ウルに放つ。
1度命中させた相手には目つぶし効果がなくなってしまうようだが、それでも挑発代わりにはなったようで、鎖に繋がれた鉄球を引きずりながらこちらへ突進してきた。
「エド様、サーニャ様、あとは頼みましたわ」
「おう。任された」
「たっぷりとお返ししてやるわ」
俺とサーニャは同時にミノタウロス・ウルへ向かって駆け出す。
『ブルガアアアアアアアア!!』
飛来する鉄球を、俺は右、サーニャは左へのステップで回避。
だがミノタウロス・ウルはすかさずもう一方の鉄球をサーニャ目掛けてぶん投げる。
「(筋力も魔力も大幅に強化されている……これなら)」
サーニャは持っている短剣に魔力を込めると、その刃がバチバチと放電し雷を纏う。
「【空刃】――【疾風刃雷】」
雷の斬撃が空を飛ぶ。
飛んだ斬撃は鉄球と衝突し、跳ね返す。
空刃に雷属性魔法を重ねたのか?
俺も空刃であれば習得している。
サーニャを真似るように、俺も雷属性魔法をクナイに纏わせるイメージで空刃を発動させる。
結果は成功。
俺のクナイも雷を纏った。
「【空刃】――【疾風刃雷】!」
――斬!
『ブルアア!?』
よし、効いている!
その後もミノタウロス・ウルは俺達2人を相手に鉄球を振るったり突進を繰り出してくる。
だが共にスピードタイプである俺とサーニャは縦横無尽に周囲を駆け巡り、それらを回避しながら、隙あらば攻撃を叩き込む。
強靭具合がとても高く攻撃が怯みにくく、即座に反撃してくるので踏み込んだ攻撃を出せないのがネックだが、それでも堅実に、少しずつダメージを蓄積させていく。
「ぐえっ……!?」
――HP3100/4000
しかし攻撃の全てを避け続けるというのも難しく、時たま鉄球をその身で受けてしまう時もある。
4000もあるHPが一撃で1/4弱削られてしまう。
だが――
「ハイヒール!」
――HP4000/4000
――即座にマリーが回復魔法をかけてくれる。
「【空刃】――【月下氷刃】」
『ブグゥゥ……!?』
更にサーニャがミノタウロス・ウルの繰り出す追撃を妨害してくれたおかげで体勢を整える余裕が生まれ、再び戦闘に復帰する。
階層主を翻弄するように動き続け、もし被弾してももう片方がフォローしその間にマリーが治療する。
即席の連携パーティとは思えないチームワークを発揮していた。
正直に言えば――
「(楽しいな)」
「(なんか……気持ちいい)」
「(凄い冒険者っぽいですわ!)」
――言葉を交わさなくても仲間を信頼しあえて、自分の命を預けることが出来るこの関係が、とんでもなく心地よかった。
目線、呼吸でサーニャが次にどこへ走ろうとしているのか分かり、同時にサーニャも俺の動きを把握してくれているのが理解出来るし、後方ではサーニャが安全な位置へ移動し続けながらも、回復魔法圏内から回復魔法を打ってくれる。
……この戦い、勝てる!
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