第28話 クナイと忍装束
「うおおおおおおおお! まだ死んでねえぞおおおおおおおお!!」
雄叫びを上げながら目を覚ます。
一体どれだけの間、意識を失っていたのか。
――HP1200/3900
まだ生きてる……が。
『ギュエエエエエエエエエエエエエ!!』
目を開ければ、パズズが黒いビームを俺目掛けて放つ所だった。
「っ! 【ダッシュナイフ】!」
1度目のダッシュナイフで埋め込まれた壁から抜け出し、2連目でビームを回避。
続く3・4・5連目を連発して距離を詰める。
『ギュエエエエエエエエエエエエエ!!!!』
後方の壁がビームで削られ玄室の形を変えていく。
「ぶっ殺す!!!!」
『ギェギェ!』
ビームの届かない懐まで潜り、踏み潰そうとしてくる手足の攻撃を避ける。
あえて一度パズズの懐から飛び出すと、痺れを切らしたパズズは長い尻尾をムチのようにしならせ横薙ぎに払った。
「2度も食らうか!! むしろそれを待っていた!!」
武器をアイテムボックスに収納し、正面から尻尾を掴んで受け止める。
足が地面を削りながら後方へ押し出されるが、それでも大地を踏みしめ尻尾の一撃を受け止めきる。
「かはっ!?」
――HP300/3900
靴が壊れ、受け止めた腕も胴もボロボロ。
ヒビの入っていた肋骨が今ので完全に折れて口から血が噴き出る。
「でも……捕まえたぞ」
『ギェギェ!?』
どれだけ耐久ステータスを上げようと、体重が変わらないのでオーガやミノタウロスのような重量のある魔物に体重の乗った攻撃を食らえば吹き飛ばされる。
逆にガイコツ系の魔物は見た目より軽いので容易に体勢を崩すことが出来る。
そして、どれだけ体重が重たい魔物だろうと、筋力ステータスを上げれば持ち上げることだって出来る!
「おりゃああああああああああ!!」
『ギェギェギュエ!?』
パズズの尻尾を振り回し、思いっきり投げ飛ばす。
巨体は宙へ持ち上がり、今度はパズズが壁に叩きつけられる。
受けたダメージを回復している暇もない。
即座に俺はパズズ目掛けて全速力で飛び込む。
踏み込んだ大地が抉れ、蹴り上げた衝撃で爆ぜる。
一瞬でパズズとの距離を詰め、アイテムボックスから引き抜いた2本の短剣でパズズを刻む。
「【ダッシュナイフ・5連】!!」
5本の剣閃が星の形を描きながら悪魔の全身を刻む。
『ギュエ!!』
「動くなっ!」
壁から抜け出そうとするパズズを押し込むように【乱れ裂き】をパズズの剥き出しの胴に叩き込む。
次に【急所斬り】【空刃】。
クールタイムが終わった【ダッシュナイフ】を再び使い、また【乱れ裂き】。
崩した体勢から復帰させる間も与えず、踏ん張ろうとする足や手の動きを邪魔するように斬撃を繰り出す。
『ギュエエエエエエエエエエエエエ!!!!』
パズズの喉奥から黒い光り漏れ出す。
「だからっ! 動くなって言ってるだろうがああああああ!!!!」
ダッシュナイフで上空へ飛ぶ。。
真下から繰り出す2連目のダッシュナイフをパズズの突きだした下アゴに叩き込む。
無理やりアゴを閉じさせたことで、行き場を失ったビームが口内を暴れて逆流。
ゴムのような光沢を放つパズズの腹が盛り上がり体内をグチャグチャにしていき、鼻や耳から紫色の血が噴き出す。
「死に晒せえええええええええ!!!!」
闇属性のビームで自身の体内を焼かれたのも原因か、ついにパズズに腹部がパックリと割れる。
すかさず内蔵に両腕を突っ込み、手の先に魔力を込める。
「フレイムボール! アイスブラスト! サンダーウェーブ!」
ここまで来るのまでに被弾することで獲得した攻撃魔法をぶっ放す。
一発では済まさず、MPが続く限り撃ちこみ続ける。
『ギュエエエエエエエエエ!?!?』
MPがなくなるまで魔法を撃ち終わると、パズズが断末魔の如き悲鳴を上げ、それを最後に動かなくなったのを確認した。
「ぜぇ……ぜぇ……やったか?」
――ピコン
――レベルが上がりました。
――よくやったぞえ、少年。
「はは…………やっと、終わった」
パズズが灰へと還る。
それを見届け、全身の糸が切れたかのように倒れ込み、俺は意識を手放した。
エドワード・ノウエン
レベル67
HP300/3950
MP10/3200
筋力540
防御365
速力690
器用395
魔力320
運値340
■■■
ダンジョン100層。
プリムの私室。
「戻ったか」
「次から溜まった不用品の片付けはこまめにしてくれ……」
61層で悪魔獣パズズを討伐し、100層まで転移させられる。
プリムの向かいのイスに座り、テーブル代わりにしている祭壇に乗っているティーカップに口をつける。
砂糖とミルクで味付けされた紅茶が、疲弊した精神を癒やしてくれるのを感じる。
「随分とレベルを上げたの。心なし肩幅も広くなって顔付きも精悍になったようじゃな」
「無休で身体動かしまくってたからな、ステータス以外にも素の筋肉も随分と鍛えられたような気がするよ……」
階層を踏破するたびに疲労度が回復するので、肉体が酷使と回復を何度も繰り返されたのが原因だろう。
ざっと60日毎日神経を張りつめた筋トレをしていたのと同じ効果がありそうだ。
「じゃがこれで少年にもっと本格的な仕事を任せられそうじゃな」
「契約だし恩義もある、だから今後もあんたに手を貸すのもやぶさかではないが、その前にまずは渡すものがあるだろう」
「そう急かすな……ほれ」
プリムの瞳孔の奥がわずかに揺れ、祭壇の上に赤い液体で満たされた小瓶が出現する。
プリムが所有するアイテムボックスから転送したのだろう。
【デュミトレスの聖血】
レア度SS
使用者のありとあらゆる病を治す。
使用後50年に渡り使用者を病魔から守る加護を与える。
※※※※の血液から精製。
「エリクサーがあらゆる肉体の損傷を癒す霊薬とすれば、これはあらゆる病を癒す霊薬と言えよう。格で言えば聖血の方が上じゃがな」
「それじゃあ俺を地上へ戻してくれ」
「そう急かすでない。少年が魔物を狩り続け25時間が経過しておるが、少年の妹にはまだ猶予がある」
そんなに長く潜っていたのか……。
「少年には随分と無理をさせてしまったからの、これはお主個人への報酬じゃ。受けとれい」
再び祭壇の上にアイテムを転送するプリム。
「……これは、短剣か? 随分と不思議な形だな」
聖血の隣に出現したのは鈍く光る黒鉄色の短剣。
頂角が鋭角になっている二等辺三角形の底辺に、頂点が鈍角になっている二等辺三角形の底辺を重ねたような形をしている。
頂点が鈍角側の三角形の頂角からは柄が伸び、柄頭には輪がついている。
「〝クナイ〟と言う。聞いたことはないか?」
「ないな、生憎冒険者としての教養が浅くてな」
「有り体に言えば、〝刀〟が人の手で作ることの出来ない剣ならば、〝クナイ〟人の手で作ることの出来ない短剣と言えよう」
【クナイ】
レア度S
攻撃力+100
忍者が装備時攻撃力補正+100
忍者が装備時クリティカル率+50%
鍛冶スキルで強化不可。
使用者が経験値を得た際、クナイも経験値を得る。
「そのままでも強いが、使い手同様使えば使う程強化されていく妖刀の一種じゃ。使い手の力量を超える程強化されると、逆に武器に肉体を支配される恐れがある故、気をつけい」
「ええぇ……大丈夫なのかそれ……」
触るのに抵抗が生まれ、伸ばしかけた腕を引っ込める。
「元々53層の階層主を務めていた毒竜ナーガの討伐者への報酬アイテムで、テドロア・ブルーローズという冒険者が所有しておった。じゃが彼は強制転移攻撃で壁内に飛ばされ死亡しての。それを回収したものじゃ」
階層主――まだ人類が訪れていない下り階段のある玄室を守護するボスモンスターだ。
討伐すると希少なアーティファクトを手に入れることが出来るのだが、ギルドに所属しておらず上層でコソコソ魔物を狩っていた俺には縁のない話だ。
並大抵の強さではなく、事実61層の階層主は10年もの間討伐されていない。
「次の階層主討伐報酬に使い回そうと思っておったが、丁度良いのでくれてやろうかと思うての」
「でも使い手が弱いと肉体を奪われるんだろ? 呪いの装備じゃん」
「そう思って蓄積していた経験値はリセットしておる。クナイと共にお主自身も経験値を稼いでいけば、クナイに肉体を奪われることもなかろう」
「そういうことなら……」
覚悟を決めてクナイを掴む。
プリムの言う通り、身体が動かなくような違和感はない。
むしろ恐ろしく軽く手に馴染む。
ビュン――刃を振るうと、空を切る小気味良い音が鳴る。
【クナイ】
レア度S
攻撃力+100
忍者が装備時攻撃力補正+100
忍者が装備時クリティカル率+50%
鍛冶スキルで強化不可。
使用者が経験値を得た際、クナイも経験値を得る。
「だが忍者じゃないと能力を完全に活かせないんだな」
「それについても問題なかろう。少年の実力なら十分に忍者へ転職するだけの技能を持っておる。今この場で転職させてやってもよいぞ」
「そんなことも出来るのか?」
「冒険者における職業の仕組みもダンジョンのシステムによるものじゃて。管理人であるワシに出来ない訳がなかろう」
「そういうことなら頼む」
【スキル】や【魔法】は手に入れたい技能を反復練習するか、レベルを上げると獲得することが出来る。
レベルアップにおける技能の獲得は、職業によって変わる。
自分の戦闘スタイルにあった職業を冒険者協会に申請し、協会が所持する特別なアーティファクトでもって冒険者の魂に刻みつけることで職業を獲得することが出来るらしい。
俺は盗賊の素質しかなかったので盗賊になったが、レベルを上げて要求されるステータスに到達すれば転職することも可能だ。
ちなみにレベル1の冒険者が得られる職業は『戦士』『盗賊』『僧侶』『魔術師』の4種で下級職と呼ばれている。
下級職の内、どれか1つを達人の領域まで鍛えることで特化型上級職に、もしくは複数の職業を熟達者の領域まで鍛えることで複合型上級職に転職できる。
忍者は『戦士』と『盗賊』を鍛えた者がなることが出来る複合型上級職だ。
確かに鑑定眼を得てからというもの、盗賊というより戦士寄りの戦い方をしていたので、盗賊と一緒に戦士としての素質も鍛えられていたのだろう。
「そんじゃサクッと上書きしといたぞ」
エドワード・ノウエン
16歳
性別:男
職業:忍者
レベル67
HP300/3950
MP10/3200
筋力540→560
防御365
速力690→710
器用395
魔力320
運値340
「もう終わったのか」
ステータスも若干変化している。
職業によるステータス補正みたいなものがあるのだろう。
「職業なんていうのは本人に自身がその役職であることを自覚させる意識を強調させるだけの力でしかないからのう。ワシからすれば大した労力でもない」
「よく分からんが、まあいいか」
クナイを1度宙へ放りなげ、落ちてきた所でキャッチしてアイテムボックスにしまう。
「ついでじゃ、これも持っていけ」
続いてプリムが出したのは紫の差し色が随所に入った黒装束。
【仙忍の忍装束】
レア度S
防御力+120
忍者が装備時防御補正+60
忍者が装備に速力補正+60
金属部分が一切なく非常に動きやすそうだが、異国の衣装みたいでこれで街に出ると若干浮きそうだ。
本場の忍者はこういう恰好なのだろうか……?
でも上から黒衣のコートを羽織れば問題ないだろう。
「これも階層主の討伐報酬じゃったが、持ち主がダンジョン内で死亡したため回収したものじゃ。お主の労力を考えれば、階層主2体分の報酬をやっても良かろうと思うての。今のレベルなら、強すぎる武具に振り回されることもなかろうて」
「ありがたく頂くよ。あんがとな」
「礼には及ばぬ。全てはワシの仕事を肩代わりさせるがためじゃて」
「そういやそうだったな……」
「さて、今日はご苦労じゃった。帰って妹に聖血を飲ませるがよい」
「無論だ」
プリムは俺を魔法陣で包み込み、地上へと転移させた。
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