血と灰と汗の冒険者
第23話 黒石病
「【鑑定】っと」
エドワード・ノウエン
レベル29
HP400/400
MP250/250
筋力49
防御30
速力51
器用36
魔力24
運値32
スキル【短剣術Lv3】【双剣術Lv3】【ダッシュナイフ・2連Lv3】【鬼斬りLv1】【急所斬りLv1】【開錠Lv1】【鑑定LvMAX】
魔法【回復魔法Lv1】【清潔魔法Lv1】【火属性魔法Lv1】【付与魔法Lv1】【強化魔法Lv1】
「よしっ! いい感じだ」
澄んだ空気と眩しい朝陽が1日の始まりを告げる。
日に日に伸びていくステータスを確認して俺は満足気にうなずいた。
アイテムボックスに収納した黒衣のコートを取り出して羽織れば朝の準備は完了だ。
オーガとの戦いでほぼ布みたいな状態まで擦り切れてしまったが、デイリークエスト報酬のアイテム強化をコートに使った所元に戻った。
ナイフの切れ味が戻るように、防具も強化すると損傷が回復するみたいだ。
そんなデイリークエストは俺のレベルに応じて難しいものになっていくが、その分報酬も良いものになっている。
1つ不満を上げれば毎日必ず更新されるので休みがないという所か……。
たまには妹とゆっくりとした休日を過ごしたいが、悪魔と契約した代償として諦めるしかない。
や。悪魔ではないけど……。
寂しい思いをさせている妹には、罪滅ぼしとして良い毛布やぬいぐるみや花束などをお土産に買って帰るが、妹としては俺の財布を心配しているようであまり良い顔はされていない。
まあ、ずっと貧乏生活だったのにいきなり金払いが良くなったら妹も不安になるわな。
「さて、今日も頑張りますか」
もう少し金が溜まったらこの貧民街から抜け出しもっといい所に引っ越し、そして最終的には妹の病気を完治させるための治療を受けさせるんだと意気込む。
冒険者として命を賭けることが出来るのは、他でもない妹のためなのだから。
「リエラ、お兄ちゃん、今日も稼いでくるからな」
「う、うん……ケホッ、ケホッ、頑張ってね……お兄ちゃん……っ」
「……リエラ?」
リエラ・ノウエン
レベル1
HP15/15
MP6/6
筋力1
防御1
速力2
器用2
魔力1
運値1
スキル【なし】
魔法【なし】
状態【黒石病:進行度9/10】
【進行度9/10】……?
顔色が優れないリエラのステータスを覗くと、先日まで6だった進行度が9まで増えている。
「リエラっ!? どこか痛いのか!?」
「……だ、大丈夫だよ、なんでもないよ、お兄ちゃん……っ!」
そういうリエラの顔は黄土色に染まり、大量の汗を流している。
薬さえ飲めば病気は悪化しないんじゃなかったのか!?
まさか医者の野郎、偽物の薬掴ませたんじゃないだろうな……?
【黒石病の薬】
継続的に飲むことで黒石病の進行度を停滞させることが出来る。
「……本物だ。ならどうして……ん? なんでだ、数が、減っていない、気がする」
ある可能性が脳裏を過り、薬箱から顔を上げる。
「リエラっ! もしかして薬飲んでないのかっ!?」
「……ごめん、なさい……お兄ちゃん……」
「な、何でっ!?」
「だって……リエラのせいで……お兄ちゃん、いつも、忙しそうで……お薬も、高いのに……リエラ……役立たずなのに……お兄ちゃんを苦しめるだけで……」
「そんな訳ないだろっ!」
妹をベッドに寝かせ、薬を飲ませる。
くそ……稼ぎが良くなって在庫を切らさないようにと薬をまとめて購入したせいで、薬の残数を確認するのが疎かになっていた。
兄として情けない……。
「どうすれば……っ!」
「お兄ちゃん、リエラのことは、いいから」
「いいわけないだろ! お兄ちゃんはな、リエラのために生きてるんだ……っ!」
「でもリエラ、お兄ちゃんに、何もお返し出来ないもん……」
「そんなことない! リエラが死んだら、俺は何を希望に生きればいいっていいんだよ」
リエラを救う手はないのか。
いつも薬を買っている医者に、本格的な治療を依頼するか。
だがかつて本格的な治療を受けるために、医者から提示された額は今の全財産を足しても足りない。
何か手はないのかと、扱いにもすっかり慣れた鑑定眼を起動して様々な板を表示させる。
アイテムボックスにマリーから贈られたエリクサーが入っているのを見つけた。
すがるような気持ちでエリクサーを取り出す。
【エリクサー】
HPとMPを完全に回復する。
致命傷を含むあらゆる状態異常を回復する。
使用後暫くのあいだHPが継続的に回復し続ける。
※マリアンヌ・デュミトレスの尿から精製。
このあらゆる状態異常の回復に、妹の病気も含まれているのだろうか。
試せることは全て試す。少なくともこれで病気が悪化することはないはずだ。
――ピコン。
――警告。
――エリクサーを使用しても黒石病には効果がありません。
――貴重アイテムを無駄に消費する行為は推奨しません。
「なんじゃこりゃ」
今まで見たことないメッセージが板に表示されている。
――ピコン。
――本日のデイリークエストが発行されました。
「今それ所ではない!!」
あのロリババア、まさか見ているんじゃないだろうな?
鑑定眼がいくら便利だからといって、あんな風にお節介を焼くようなメッセージが表示されたことは一度もなかった。
であれば、プリムが手動でメッセージを送ってきている可能性が高い。
――ピコン。
――妹を救いたいか、少年?
「やっぱり見てやがるな! 当たり前だろ! 何でもする! だからリエラを助けてくれ……!!」
妹の様子を見ると、息も絶え絶えでぐったりとしている。
――ピコン。
――デイリークエストが更新されました。
■誰にも見られずダンジョン内の玄室に1人で入る。
――久々に会って話そう。
その文章を最後にメッセージが途絶える。
「ちっ……行けばいいんだろ行けば」
ダンジョン探索に必要な道具を全て引っさげ、最後に妹に語りかける。
「すまないリエラ。必ずお前の病気を治してやるから、それまで耐えてくれ」
汗で張りついた前髪を払うように頭を撫で、集合住宅を後にする。
すると道中でルカと鉢合わせる。
「あ! エドさん!」
「すまんルカ、お願いがあるんだ!」
「……へ? なんです?」
ルカの華奢な撫で肩に息を荒げながら両腕を置く。
きょとんと首を傾げているルカに事情を説明する。
あの状態のリエラを1人で置いておくのは不安過ぎる。
無理を承知でルカにリエラの面倒を見てくれないかとお願いした。
「なるほど、分かりました。本当にリエラちゃんの病気を治せるのであれば、ウチはエドさんを信じます! リエラちゃんのことはウチに任せてください!」
「ああ、悪い。頼む」
「困った時はお互い様ですよ!」
ルカは二つ返事で了承すると、一旦一緒に集合住宅まで戻る。
ルカは妹の部屋にある机に、普段持ち歩いている女神像と聖典と聖水を用意して、
「こうしてリエラちゃんの痛みが和らぐように、そしてエドさんが無事戻ってくることを女神様にお祈りしています!」
と言う。
俺にはその祈りにどのくらいの効果があるか知らないが、少なくともルカが真剣に妹の身を案じてくれていることを理解すると、ルカを任せて再びダンジョン目掛けて走り出す。
「頼む……死なないでくれ……!」
普段信じていない神に祈りを捧げながら、貧民街を駆ける。
人の間を縫うように、鍛えたステータスをフル活用して、全速力でダンジョンを目指した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます