第22話 エリクサー(本物)

 ――拝啓エドワード・ノウエン様


 突然のお手紙に驚かれたかと思いますが、ご無礼の程なにとぞご容赦ください、マリーでございます。

 まずは小聖女という身分を偽り、善良な冒険者であるエド様を騙してしまったことと、夕食を共にする約束を果たせなかったことを謝罪させてくださいませ。

 また命を救って下さったにも関わらず、わたくしの部下がエド様に対し失礼な言動を取ったことも、重ねてお詫び申し上げます。

 ルカ様につきましては事情を徴収するために中央教会まで出頭して頂きましたが、部下に手荒な真似はしないようわたくしが強く言っておきましたのでご心配には及びません。


 さて、あの冒険で得た興奮は、この手紙を書いている現在も収まることなく、わたくしのまぶたの裏に鮮明に焼き付いております。

 ずっと同年代のお友達がいなかったので、エド様とルカ様に優しくしてもらった事は、とても新鮮な気持ちで、あの日のことは今後一生忘れることはないかと思います。

 あれから監視の目がますます厳しくなってしまい、わたくしが小聖女マリアンヌとしてではなく、マリーというただの冒険者としてエド様にお会いするのはとても難しいことかと思います。

 それでもまた、あの日のように一緒にダンジョンに潜って冒険を出来る日を夢見ております。

 末筆になりますが、エド様が冒険者として益々のご活躍を心よりお祈り申し上げます。


P.S.ささやかではございますが、エド様の冒険の一助になるかと思い、心ばかりの品をご用意させて頂きました。是非使って下さいませ。





「相変わらず堅苦しいな」


 可愛らしい便箋にしたためられたマリーからの手紙を読み終わり、思わず苦笑が漏れる。

 あれから3日。

 モンスターハウスでバカみたいな量の魔石を持ち帰り3等分したはいいが、マリーは勿論のことルカとも連絡が取れない日が続いてどうしようかと思っていた所、2通の手紙が届いた。


「お兄ちゃん、お手紙?」


「ああ、冒険者仲間からだ」


 1通はマリーから、もう1通は教会の名義で届いた。

 教会からの手紙の内容も先日の件のことで『ダンジョン内における貴殿の活躍を彰して礼品を贈呈する。貴殿の今後の活躍に期待する』と、事務的な一文のみが添えられた手紙と共に、『蘇生魔法1回無料券』なるものが同封されていた。


 ご丁寧に蘇生に失敗しても教会は一切の責任を取らないという注意書きまで書いてある。


「ま、こっちは口止め料ってことだろうな」


 ということは、最後に残った小包がマリーの用意したお礼の品だろう。

 中に入っていたのは簡素なビンに入った1回分のポーション。


「ポーション1個か。本当にささやかだな…………いや待て、まさか…………!?」



【エリクサー】

 HPとMPを完全に回復する。

 致命傷を含むあらゆる状態異常を回復する。

 使用後暫くのあいだHPが継続的に回復し続ける。

※マリアンヌ・デュミトレスの尿から精製。




『一般的なものなら50万Gです。ですが小聖女様のエリクサーなら5000万G以上で取引されています』




 露店街でルカが言っていた言葉を思い出す。

 ゴクリ、と喉がなる。


「いやいやいや、友情の品だぞこれは。売る訳ねーだろ。そもそも鑑定書もないし本物だと証明するのも難しいし、入れ物も簡素でそれっぽくないし」


 でもこれを使うということは、マリーのおしっこを飲むということで……。

 いや、これ以上は止めよう。エリクサーを使うということは、そんなことでうだうだ悩んでいられる状況ではないはずだ。

 いつか使わせて貰おうと思いながらエリクサーをアイテムボックスに収納した。


――ドンドンドン!


「エドさーん! ウチです!」


「ルカか?」


 貧民街の集合住宅の薄い戸が叩かれ、ルカが訪問してくる。

 ひょこっ、と現れる新品のシスター服に身を包んだ少女にしか見えない友人。

 オーガに腹を裂かれた際にシスター服もボロボロになってしまったからな。


「暫く連絡取れずにすみません。中央教会の方々に拘束されてて」


「手荒な真似はされなかったか?」


「はい、小聖女様がお忍びで外出された形跡を全て消して、各所へ外堀を埋め終わるまで余計なことされないようにと軟禁されていましたが、ご飯はちゃんと出るし聖デュミトレス様の聖像も置いてあったので、聖典を読み返しながらゆっくりとお祈り出来るいい機会でした」


 ルカの顔を見れば確かに普段より血色がいい。

 ルカは下っ端シスターでこの前まで俺同様凄い貧乏でガリガリだったからなあ……。


「ってことでエドさん! 久しぶりにダンジョン潜りましょうよ! ウチもう身体なまってきてて、魔物ボコボコにしたくてうずうずしてるんですよ!」


「そうだな。久々に2人で行くか!」


「はいっ!」


 その日会ったばかりの同業者と即席パーティを組むのも冒険者の醍醐味だが、それでも気の知れた友人とくだらない会話をしながらダンジョンに潜る方が気楽でいい。

 妹の頭を撫でてから外に出て、ルカに手を引かれながら今日もダンジョンへ潜るのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る