第15話 クソ撒き散らしながら生まれてきたことを悔いろ

「おらぁ! これで何匹目だ!?」


「30から先は数えてないです!」


 ゴブリンのモンスターハウスでナイフを振り続け十数分。

 倒せば倒すだけ新しい魔物が転移してくる終わりのない死闘を続けていた。

 更には途中から転移してくる魔物が討伐推奨レベル1のゴブリンから、推奨レベル15のハイゴブリンになる始末。

 肌の色が緑から赤になっている点以外に身体的な違いはないが、その強さは段違いである。


 経験値を稼いでレベルが2上がったものも、未だレベルは18。

 俺1人であれば先日のヘルハウンド戦のように、ダッシュナイフを多用するヒット&ウェイ戦法が使えたのだが、背後に2人のヒーラーを庇いながらではそれも難しい。


『ギャギャッ!!』


「ぐわぁ!?」


「エドさん!?」


 ハイゴブリンのナイフが俺の太ももを掠めて血が流れ、さらに別のハイゴブリンが俺の脇を抜けてマリーを狙う。


「きゃあああっ!?」


 恐らくマリーにまともな実践経験はない。

 今のレベルも雇った冒険者にサポートされながら得た経験値で上げたのだろう。

 マリーは迫るハイゴブリンの気迫に押され、目を瞑って硬直してしまう。

 ステータスもMP以外はなかり低いし、当たり所が悪ければ一撃で死んでしまう可能性も十分にありえる……!


「マリーちゃん危ないっ!?」


『グゲェ!?』


「ル、ルカ様…………助かりましたわっ!」


 ナイフがマリーに届く手前で、ルカがスイングした杖がハイゴブリンの頭部を捉える。

 ルカはMPが尽きているが、僧侶とは思えない運動神経で俺が討ち漏らした魔物からマリーを守ってくれている。


「クソまき散しながら生まれてきたことを悔いろ!」


 いやだから血の気多いな……。


『グゲェ…………』


 前衛職の中で最弱の盗賊、MPの尽きた僧侶、戦闘経験がないに等しいMPだけが高い僧侶。

 あまりにも歪なパーティだが、ギリギリの所で戦線を保てているといった具合。


「エド様! 今回復をしますわ!」


「まだいい! MPを温存しろ!」


「も、申し訳ありませんっ!」


「謝らなくてもいい! 怯むな!」


「は、はい! 分かりましたわ!」


「腐れゴブリンは這いつくばって泥でも舐めてろ!」


 痺牙のナイフで麻痺状態になっているハイゴブリンをめった打ちにするルカ。


「いいぞルカ! その調子でマリーを守ってくれ!」


「了解です!」



エドワード・ノウエン

レベル18

HP70/180

MP30/90

筋力23

防御17

速力25

器用24

魔力11

運値18



ルカ・カインズ

16歳

レベル13

HP70/110

MP0/90

筋力13

防御6

速力8

器用7

魔力16

運値7



マリアンヌ・デュミトレス

レベル16

HP50/50

MP290/650

筋力3

防御2

速力4

器用4

魔力69

運値8




 皆のステータスを鑑定スキルで確認する。

 マリーのMPにはまだ余裕があるが、ジリ貧なことには変わりない。

 マリーのMPが尽きるのが先か、モンスターハウスの魔物を全て倒しきるのが先か……。


「【ダッシュナイフ】!」


 スキルに頼らず素の身体能力でダッシュナイフの動きを模倣してから、引き返すように【ダッシュナイフ】を使用して元の位置に戻る。

 そうすることでなんとかルカとマリーを守りつつダッシュナイフを持て余さずに済んでいる。



――ピコン。


――レベルが上がりました。


――【ダッシュナイフ】が【ダッシュナイフ・2連】に変化しました。


【ダッシュナイフ・2連】【Lv2】

 前方へ高速で移動しすれ違い様に敵を切り裂く動きを補助するスキル。

 使用後1秒以内であれば2回連続で使用することが出来る。

 クールタイム18秒。



「ナイスタイミング!」


「何がですか!?」


「こっちの話だ!」


 レベルが19に上がったと同時に、ダッシュナイフが2連に変化した。

 スキルはレベルの上昇と共に覚えるが、覚えたいスキルの動きを繰り返し再現していくことで覚えることも出来る。

 今回の場合、スキルの補正に頼らずダッシュナイフの動きを模倣していたのが理由だろう。


「【ダッシュナイフ・2連】!」


 前方のハイゴブリンの首を斬り落とし、即座に反転、別のハイゴブリンの首を刎ねながら元の位置に戻る。


「エドさん、なんか以前よりかなり強くなってません?」


「火事場のバカ力だ!」


 ブオーン――玄室の中央に新しい転移魔法陣が出現する。

 しかも現れたハイゴブリンの中に1匹、オークが混ざっている。

 潰れたブタのような顔と2メートルを超す巨体は厚い脂肪に包まれており、太い腕には棍棒が握られている。



【オーク】

推奨討伐レベル25

筋力B

防御C-

速力E+

魔力なし

弱点:雷属性



「よし! 多分あれがボスだ。終わりが見えてきたぞ!」


 先日のヘルハウンドのモンスターハウスでも、終盤にオルトロスが出現したのを最後に新たに魔物が補充されることはなかった。

 なんとかなるかもしれない!


『グオオオオオオ!!』


 オークが掲げた棍棒を振り下ろす!

 動きは鈍く避けるのは容易だが、避ければ後ろの2人が危ない。


「【リフレクト】!」


『グゴゴゴ……!』


 棍棒の一撃が俺に降り注ぐ直前、半球型の半透明の壁が頭上に出現し、オークの攻撃を受け止める。


「エド様、今ですわ!」


「障壁魔法か!」


 マリーのアシストによって作られたオークの隙を突くように、オークの腹部にナイフを突き立てる。

 よし、刃が通る。


「【ダッシュナイフ――」


 オークにナイフを突き立てたまま、スキル補正の勢いを利用し俺は上へ飛んだ。

 この巨体では正面に飛んでも押し返すことは出来ないと判断しての、上方向へのダッシュナイフだ。

 2本のナイフは腹を縦に裂いていき、胸部、首元まで裂き俺は宙へ浮かぶ。


「――2連】!!」


 そして再びダッシュナイフを発動。

 足場のない空中での方向転換をスキルの力で可能にし、もう一回オークに斬撃を食らわせる。

 地面に着地すると同時に、オークは後ろ向きに倒れ、灰となった。


「よっしゃ!!」


「やった! エドさん凄いです!」


「か、勝ちましたの……?」


 乱れた呼吸を整えながら勝利の喜びを噛みしめ――ようとしたのだが。


 ブオーン――魔法陣が出現する音が玄室に響く。しかも複数。


「……本気で言ってるのか?」


 魔法陣から出現するのは果たして、複数のオークであった。

 よくよく考えればここはダンジョン30層。

 階層数と討伐推奨レベルはだいたい同じなので、推奨レベル25のオークはこの階層では雑魚扱いだ。

 つまりオークがモンスターハウスのボスである訳がない。むしろ群れで出現してもおかしくないレベルの魔物に過ぎないのだ。

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