第14話 モンスターハウス

 ――休憩後。


 次は毎日同じ場所に補充される宝箱のある玄室へ向かうとのことで、戦士ウーノと騎士デューエを先頭に30層の奥へと向かっている。


 そこから一歩下がって俺。後衛から一歩前に出て俺の言いつけを守ってくれているルカが続き、最後尾に魔術師トレとシスターマリーといった三列隊形を組んでいる。


「マリーさんはMPの方は大丈夫ですか?」


「ええ、ご心配には及びませんわ。まだまだ余裕があります。怪我された時はいつでも仰ってくださいね」


「…………そりゃ、心強い」


 最後尾のトレとマリーの声がこちらまで聞こえてくる。


「レベル15と言ってましたが、随分とMP値が高いんですね」


「実は両親からステータスを継承しておりますの」


「なるほど、それは納得です」


 ステータスは子供にも潜在的に引き継がれる性質を持っている。

 故に冒険者2世や3世はレベル1にして高いステータスを持っており、レベルアップに伴い、親のステータスに追いつくように潜在化されたステータスが表に出てくる。

 なので歴史のある世襲制の冒険者ギルドのメンバーは、俺のような親がレベルを持っていない冒険者ではどれだけレベルを上げても追いつけない程の高いステータスを持っているのだ。


 この前少しだけ顔を見たトップギルド、ブラックロータスのギルドマスターもかなり高いステータスを持っていたし。


「てことは親も冒険者なんですか?」


「冒険者ではないのですが、昔レベル上げをしていたみたいで。この装備も家の者から付けるようにと押し付けられて……」


 俺の予想だが、マリーはどこぞのお嬢様ではないかと思われる。

 金持ちの家は冒険者を雇ってダンジョンに潜り、ある程度のレベルをあげる傾向にあるらしいし。

 ダンジョンに潜らなくとも世の中には危険で溢れている。

 身体を強くするという意味でもレベルを上げる価値はある。

 どれだけ金や権力を持っていても、最後に身を守るのは己の肉体ということなのだろう。


 シスターをやっているのも、家を継がない第二子以降の子供が出家するもよくある話だ。

 マリーの装備がやたらに整っているのも、実家マネーによるものなのだろう。


「さて、そろそろ宝箱のある部屋につきますよー」


 手際よく道中の魔物から魔石を回収しながら進むこと数十分、扉のついた玄室の入り口に到着する。


「わぁ、わたくし宝箱を見るの初めてですわ。エド様、盗賊のお手並み期待してますわ」


「あ、ああ。ここらで盗賊としてしっかり仕事してパーティに貢献しないといけないしな」


 扉の奥は正方形の形をした広い玄室になっており、この扉以外の出入り口はない。

 彼らの言う通り玄室の中央には宝箱が置いてあり、それを守るように一匹のゴブリンがいた。

 ゴブリンは1層にも出てくる非常に弱い魔物で、宝箱の守り手としてはいささか心もとない印象を抱く。


「お! ゴブリン1匹だけならウチでも倒せますよ!」


「ちょまっ、待てルカ!?」


 ルカはゴブリン目掛けて走り出し、樫の杖を長く持つと遠心力を乗せたフルスイングをゴブリンの顔面にお見舞いした。


「死にさらせええええええぇ!」


「いや血の気多すぎか……」


 いつもと違って後衛で回復に専念してたから身体がウズウズしてたのかな……?


「ルカ様! わたくしも加勢しますわ!」


「マリー!?」


 ルカに続いてウキウキ顔のマリーも、錫杖の先端で倒れたゴブリンの腹をザクザク突き刺している。

 聖職者って皆こんななのか…………?


「マリーちゃん、目を狙って!」


「こうですか!」


「いい感じ!」


「死は救済ですわ!」


 俺がルカとマリーの元まで駆け寄った時には、既にゴブリンは灰と化していた。


「いくら敵がゴブリン一匹だからって1人で走るな。ここは30層なんだぞ」


「うう……すみません」


「マリーも」


「はい、面目次第もございませんわ」


 2人がシュンと反省したその時――恐らくゴブリンの死がトリガーだったのだろう。

 玄室の至る箇所に転移魔法陣が浮かび上がり、大量のゴブリンが出現する。


「モンスターハウスかよ!?」


 宝箱とゴブリンは冒険者を玄室の中央までおびき寄せる罠か。


「ウーノ、デューエ、トリ、援護を!」


「いいや、お前等にはここで死んで貰う」


「なにっ!?」


 3人は玄室の入り口で凄惨な笑みを浮かべると、ゴブリンに囲まれた俺達にお構いなしに、扉に手をかける。


「お前らが魔物に殺された後に、その分不相応な装備をいだだきに戻ってくるかよ、せいぜい足掻くんだな」


「てめぇら最初からそのつもりで……!?」


 ギイイイイ――玄室の扉が閉まる。

 玄室の扉は外側から閉めてしまうと、内側からはモンスターを全て倒さなければ開かない。


 玄室内にいる魔物に勝てないと判断した冒険者が、玄室内に魔物を閉じ込めるために活用する仕組みなのだが、まさかこのような下種な奴らの手口として使われているとは……。


 恐らくあいつらは常習犯だ。

 レベルが低い割に高値で売れる装備をつけた冒険者に声をかけ、30層まで連れていき玄室に閉じ込めて魔物を利用し殺害する。


 扉の閉じた玄室内であれば他の冒険者から目撃されることもないし、閉じ込められたカモが力尽きるまでに足掻いて倒したゴブリンの魔石も回収出来ると来た。


「ど、どうしましょう……」


 マリーはゴブリンの群れに怯えてそばかす顔を歪め、今にも崩れ落ちそうだ。

 俺は当初マリーも何か企んでいるのでは? と疑っていたが、どうやら彼女は完全にシロだったみたいだ。

 となれば、見捨てることなど出来ない。


「ルカ、マリー、俺から離れるな。取りあえず壁際まで行くぞ。壁を背にして俺が魔物を倒していくから、回復を頼む」


「わ、分かりました」


「マリーもだ! 生きて帰るぞ!」


「は、はい……!」


 絶対生きて帰って冒険者協会に通報してやるからな。

 奴らへの憎しみを生きる糧として、両手にナイフを構える。


「でもすいませんエドさん、ウチもうMP残ってないです」





 …………マジかー。

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