第13話 心配症のコミュ症

「む!? 皆さん、魔物です!」


 前を歩く戦士2人が立ち止り、それに倣って残りの者も武器を構える。

 現れたのは一匹のワーウルフ。

 二足歩行の狼型の魔物だ。


 いつものようにタンクを務める戦士のデューエが盾で攻撃を受け止め、その隙と戦士ウーノと俺がダメージを与え、魔術師トレが魔術でトドメを刺す。


 初の6人パーティによる探索は順調に進んでいた。




 ――数時間後。


「いやあ、エドワードさん、いい動きをされますね」


「はは、どうも……」


 水筒で喉を潤しながら、トレに愛想笑いを返す。

 隣では同じくパーティメンバーのウーノ、デューエの2人がシスター2人組から回復魔法による治療を受けていた。


 現在地、地下迷宮30層の玄室。

 周囲に魔物がいないことを確認し、休憩のために腰を下ろしている。


 思ったより魔石集めは効率よく進んでおり、魔石の単価の高さもあって既にルカと2人で探索している時よりもはるかに稼いでいた。6人で分割しても結構な額が手元に残る。


 前衛と後衛で役割がしっかり別れているのもあって、安定感が段違いだ。


「それにしてもなかなかいい装備をしていますね」


 トレがにこやかな笑みを浮かべながら、ロリエルフから貰ったコートを見てくる。


「ああ、宝箱からドロップしたアーティファクトで……」


「なるほど、自分に合う武器や防具が手に入ると、一気に強くなれるのも探索の醍醐味ですよね」


「え、ええ……」


 そんな会話をしている脇では、治療を終わらせたシスター2人が仲良く雑談していた。


「マリーちゃん、お腹空いてない? ウチ、サンドイッチ作ってきたんだけど」


「本当ですか! ではお返しにわたくしもパンを…………っと思いましたが、すみません、今日は手持ちがないのでしたわ」


「全然大丈夫だよ、ほらどうぞ」


「ありがとうございます。いただきますわ」


 同性で同職の知り合いが出来て楽しそうだ。


 …………いや、ルカは男だったか。


「ルカ、ちょっとこっちこい」


 隣のトレに会釈をしてから立ち上がり、玄室の隅までルカを呼び出す。

 ルカはぴょこぴょことローブの裾を揺らしながら俺についてくる。


「なんですかエドさん? 心配しなくてもエドさんの分のサンドイッチもありますって」


「いやそうではなくてな……」


 後ろの4人に聞こえないよう、耳打ちする。


「あまりあいつらを信用しない方がいい」


「どういうことですか?」


「冒険者ってのは身内とは固い絆で結ばれている分、他者には厳しい。あいつらが俺達を裏切るというか……元々カモとしてダンジョン下層に誘い込んだ可能性がある」


「えー、なに言ってるんですかエドさん。被害妄想ですよ。コミュ症拗らせ過ぎです」


 うるせーな。コミュ症なのは今どうでもいいだろ。


 冒険者というのは利己的で、金を第一に考え、法の手が及ばないダンジョン内においてはある意味魔物よりも恐ろしい存在だ。

 ダンジョン内で力尽きた冒険者の死体を見つけても、まるで鍵のかかっていない宝箱を見つけたかのように厭らしい笑みを浮かべて死体から装備を剥ぎ取るような奴らだ。


 少なくとも、俺を見捨てて今もどこかでのうのうとダンジョン探索をしているあいつらはそうだった。

 そういったトラウマのせいで俺が臆病になり過ぎているのかもしれない。


「でもな……」


 それ以外にも彼らから複数の違和感を感じ取ることが出来るのだ。

 まず奴らはシスターを含めて全員が全員名前を偽っており、元々3人組を組んでいた男性陣に至ってはレベルまでサバを読んでいる次第だ。


 更に感じた違和感を上げるとしたら、奴らはレベル30を超えているのに関わらず、何故か頻繁にヒーラーの世話になっている。

 それが俺にはヒーラーのMPをいたずらに消費させているように感じてならない。


「ルカ、あのマリーっていうシスターとは初対面か? 教会関係で以前会ったことは?」


「いや、ないですよ。多分教区が違うんだと思います。でも今日が初対面だからって疑うのは良くないですよ。それにマリーちゃんのシスター服は正真正銘教会から支給される本物です」


 ……はがゆい。

 俺の【鑑定】スキルのことを言えればいいのだが、そうなると自ずとロリエルフの話をしないといけなくなるし、【鑑定】スキルの真偽を信じてもらうのにも時間がかかる。


 あわよくば、全て俺の思い過ごしであってくれればいいのだが……。


「エドワードさん、ルカちゃん、そろそろ出発しませんか?」


 戦士のウーノが声をかけてくる。


「分かった、今いく」


 最後にルカの袖を引き、


「ルカ、あまり俺から離れるな」


「えー、前衛3人いますし、後衛にも魔術師のトリさんがいるからそんな心配しなくて大丈夫ですって」


「いいから、お前のことを守るためだ……!」


「……んぇ? ……そ、そうスか……分かりました、そういうことなら、エドさんのそばにいます」


 俺の必死の懇願が響いたのか、ルカは渋々と言った具合で俺の提案を飲んでくれた。

 なぜか頬が少し赤く染まっているのが謎だが……。

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