第12話 全員偽名

――ピコン。


――デイリークエストが更新されました。


■仲間を5人集める(1/5)

■ダンジョン21層に到達する(0/21)

■魔物を100匹倒す(0/100)

※100匹以上倒した場合、討伐数に応じて報酬がグレードアップします。



「…………マジかー」


 爺さんのおしっこを借金してまで買おうとするルカを力尽くで引き剥がしてダンジョンへ向かう道すがら、今日のデイリークエストが出現した。

 隣にいるルカはまだ「やっぱ買いに戻った方が……」とブツブツ言っている。


「ルカ、今日は協会でメンバー募集して6人パーティで潜らないか?」


 デイリークエストの仲間を5人集めるというなかなかにハードなクエストをクリアするためにもルカに提案を出す。


「ウチは別にエドさんの2人でも構いませんけど?」


「俺達も結構レベル上がったし装備も整ってきただろ? 今ならちゃんとしたパーティも組めそうだし、そうすれば効率的に金も稼げるだろ?」


 ダンジョンを探索するに当たって、パーティメンバーの上限は設けられていない。

 だが過去様々な冒険者が検証を重ねた結果、4~6人が適任だと言われている。

 メンバーが多ければそれだけ戦力が増し効率的に魔物を倒せる。

 だが多すぎると一人当たりの魔石や経験値の取り分が少なくなってしまうという欠点も抱えている。

 更にダンジョン回廊の幅や、エレベーターの定員が6人という点などを考慮した結果、4~6人という結果に落ち着いたらしい。


「ここらで6人パーティの感覚を掴んでおきたいと思ってさ」


「分かりました。それじゃあ今日は協会で仲間集めをしましょう」


 方向転換。

 俺達は目的地をダンジョンから冒険者協会へと変更し、雑多な露店街を抜けていった。




 冒険者協会。

 冒険者登録やステータスの確認、仲間の斡旋、魔石や宝箱から出てきたアーティファクトの買い取りなどを行っている行政機関。

 俺は鑑定スキルのおかげで自分のステータスを常に確認出来るが、俺以外の冒険者は協会に置いてあるステータスを測定するアーティファクトを用いて自分のステータスを定期的に確認する必要があるのだ。


 協会の仲間募集の掲示板の前で、盗賊と僧侶の募集を探す。

 盗賊は宝箱の鍵開け能力を持っているのでパーティに最低1人は必要とされているし、僧侶も貴重な回復役として重宝されている。

 レベルも2桁になったし、根気よく探せば俺達を仲間に入れてくれるパーティが見つかるはずである。


「盗賊か僧侶、どっちか1人だけ募集してるのはちらほら見るが、まとめて探してるパーティは少ないな」


「えー、ウチ、エドさんと一緒がいいです」


「分かった分かった」


 背の低いルカはホビット用の台を持ってきて、上の方に貼られている貼り紙もチェックしている。


「もしかして盗賊さんと僧侶さんですか? もしメンバーをお探しなら、ワタシ達のパーティに入りませんかね?」


「え!?」


 後ろから声をかけられる。

 ルカは勢いよく振り返り、足場のバランスを崩して台から落下しそうになり、それを抱きとめてから、改めて声をかけてきた冒険者と対峙した。


 4人組のパーティだった。

 年季の入った装備をした中堅どころの男性冒険者3人と、彼らから一歩距離を置いて汚れ1つない下ろしたてと思われるシスター服をまとった少女が1人。

 ルカがいつも着ている白を基準としたシスター服、ルカと同じ教会関係者であろう。


 ルカと違う点を上げれば、武器は装飾や彫刻が目立つ金属製の錫杖であり、耳飾りや腕輪、シスター帽の上に乗った装飾品の類を付けており、それどれもが魔力の込められたアーティファクトだと思われる。


「丁度良かった。俺達も6人パーティを作りたかったんだ」


「渡りに船とはこのことですね」


 朗らかに話を進めるのは、先頭に立つ戦士と思われる男。


「立ち話もなんですから、向こうで座りながら条件などを詰めていければと思います」


「ああ、よろしく頼む」







 場所は変わって冒険者協会ロビーに設置された、3人がけの長椅子が向かい合うように設置された6人がけのテーブル。

 向かいには探索馴れしていそうな男性冒険者が3人。

 俺の右手にはルカ、左手にはルカと同じ僧侶と思われるシスター服を着た少女。


 どうやらビースト族のようで、シスター帽の下からケモ耳と思われる2つの膨らみが確認出来る。

 シスター帽から零れる赤髪は腰の部分まで伸びており、顔立ちは整っているように見えるが、頬と鼻にこびりつくそばかすがその美貌を陰らせている。


「まずは自己紹介から。ワタシはリーダーのウーノ・ローレンツ。レベル25の戦士です」


「オレはデューエ・マーキ。レベル24戦士です」


「オレはトレ・ブラキス。レベル26の魔術師です」


「ワタシたちはいつも3人でパーティを組んでいます」


「先月まで僧侶がもう一人いたんですけどね……」


「蘇生に失敗しまして……」


「それは、ご愁傷様です……申し訳ございません、わたくし達が至らぬばかりに」


「いえいえ、こればかりには仕方ないですからね」


 左隣に座る赤毛のそばかすシスターが申し訳なさげに俯いている。

 どうやらこのシスターも俺達と同じで、彼らとは今日知り合ったばかりらしい。

 立場としては俺やルカと同じか。


「俺はエドワード・ノウエン。レベル16」


「ウチはルカ・カインズです。レベルは10です」


「わたくしは……マリー・モーリア、と申します。レベルは15です」


 こちら側に座る3人組も自己紹介を済ます。


「これで前衛が【戦士】【戦士】【盗賊】。後衛が【僧侶】【僧侶】【魔術師】。バランスも良い感じですね。それで取り分などですが……」


 そこから彼らの話を要約すると……。

 報酬は6当分で分割。

 宝箱から出てきたアイテムは換金するが、欲しい人がいたら協会の買い取り価格と同じ値段で買い取ることが可能。

 ポーションなどの消耗品は経費扱いとし、探索後に使ったアイテムは魔石を換金したお金から補充して、残った分を6人に分割する。


 と言った具合だ。


 ルカ以外と荷物持ち以外でパーティを組むのは初めてだが、分かりやすく平等で、良心的だと思われる。

 俺が荷物持ちしてた時は定額だったからなあ……。


「あの、もし蘇生が必要な場合はどうされますか?」


 そばかすシスターのマリーが手を上げて発言する。


「申し訳ないですが、その場合蘇生にかかった費用は死亡した本人に全額支払って頂こうと思います」


「蘇生代は非常に高額ですからね……」


「まぁ、そうなるか……」


 蘇生魔法という死者を蘇らせる魔法が存在する。

 それはルカやマリーが所属している教会所属の者しか扱うことが出来ない秘術であり、かつ設備の整った教会内でしか行うことが出来ない。


 高額な費用を要求されるし、時には失敗することもある。

 それでいて失敗しても支払った蘇生代は返ってこないというシビアな所もあるが、教会以外で戦死者を生き返らせることが出来ないので冒険者は教会を頼らざるを得ないのが現状だ。

 ちなみに金を用意出来なければ「この背教者め!」と石を投げられながら追い返されるので、金にがめつい生臭教団とも言われている。


 まあ小聖女のエリクサーと偽って関係ない爺さんの尿を市場に流すような奴らだからなぁ……。

 ちなみに教会関係者のいるパーティには蘇生に割引が適応されるので、無所属の僧侶より宗教関係者の僧侶の方が重宝される傾向にもある。


 以上、全部ルカからの受け売り知識でした。


「と……では同意も得られましたしそろそろ参りますか。6人パーティですし30層まで降りようと思うのですが、構いませんかね?」


「30層……深すぎないか? あんたらと違って俺達はレベル10代なんだぞ」


「6人パーティなので問題ないかと思います。ワタシ達はいつも30層で活動しているので、魔物の特徴や構造も把握していますし、経験則からでも問題ないレベルかと」


「それに毎日必ず宝箱が補充される穴場の玄室もあるんですよ」


「僧侶の2人は回復だけしてくれれば十分だし、盗賊のエドワードさんも戦闘は控えめで宝箱の開錠をメインにしてくれればいいですから」


「……しかしだな」


「いいじゃないですかエドさん。経験値を稼ぐチャンスですよ。一気にレベル上げちゃいましょうよ」


「わたくしも構いませんわ。皆様が守ってくださると信じておりますので」


 ルカもノリ気だし、マリーも賛成している。

 ここで俺1人がゴネてもパーティの雰囲気が悪くなるだけか……。


「分かった。ここは冒険者の先輩の言葉を信じよう」


 こうして無事6人パーティを結成した俺達はダンジョンへ潜るために冒険者協会を後にするのであった。


 …………でも。


 何か引っかかる。

 彼ら3人は人柄も良さそうで信用できそうだが、それが逆に胡散臭い。

 本来冒険者とはもっと荒くれている者なのだ。

 俺を荷物持ちとして低報酬で使い潰して最後は見殺しにしようとしたあいつらのように……。



「……【鑑定】」



ディーノ・バローラ

レベル35

HP400/400

MP200/200

筋力35

防御34

速力55

器用48

魔力20

運値38



マッシュ・アーティ

レベル33

HP550/550

MP110/110

筋力40

防御60

速力26

器用23

魔力15

運値23



ジョルジュ・ソマリーノ

レベル36

HP300/300

MP430/430

筋力18

防御18

速力20

器用18

魔力60

運値20



 鑑定結果を見て、俺は表情を変えないよう努力しながら、彼らのステータスを確認する。

 全員が全員、偽名であり申告したレベルも嘘である。


 そして懸念すべき点はもう一つ。



マリアンヌ・デュミトレス

レベル15

HP50/50

MP600/600

筋力3

防御2

速力4

器用4

魔力66

運値8



 前を歩く3人とは今日が初対面だと言うビーストのシスターさえ名前を偽っている。

 ……これはどういうことだ?


 嫌な予感がする。

 そんな普段とは違う緊張感を抱きながらダンジョンへ潜った。




――ピコン。


□仲間を5人集める(5/5)

■ダンジョン21層に到達する(0/21)

■魔物を100匹倒す(0/100)

※100匹以上倒した場合、討伐数に応じて報酬がグレードアップします。

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