教会の小聖女

第11話 エリクサー(偽物)

「エ~ド~さんっ♪」


「えらく上機嫌だな、ルカ」


 ダンジョンへ向かう道すがらの露店街。

 俺の姿を見つけたルカがローブの裾をひらひらと揺らしながら小走りで向かってくる。


「エドさんが生きて帰ってきてくれたからですよ~」


 モンスターハウスでの死闘の翌日。

 いささかキザっぽくないかと思いながら、黒衣のコートを羽織って出勤だ。

 ちなみにルカの鼻水で汚れた部分は、ルカの清潔魔法で綺麗にしてもらった。


「……そういや、【鑑定】スキルで観察したり受けたスキルや魔法を習得することが出来るんだっけか」


 ダンジョン100層、プリムスと名乗り、俺に【鑑定】スキルを授けたダンジョン管理人の言葉を思い出す。


「なんか言いました?」


「ルカ、俺に清潔魔法をかけてくれないか?」


「別にいいですけど、なんでですか?」


「昨日風呂に入ってない」


「うわばっち」


 子犬みたいにすり寄ってきたルカが一転、顔を歪ませながら距離を取ってくる。

 そういうの精神的に傷つくな…………。


「もう、しょうがないですね! 行きますよ、クリーン!」



エドワード・ノウエン

レベル16

HP120/120

MP70/70

筋力20

防御14

速力24

器用22

魔力9

運値16

スキル【短剣術Lv2】【双剣術Lv1】【ダッシュナイフLv2】【開錠Lv1】【鑑定LvMAX】

魔法【回復魔法Lv1】【清潔魔法Lv1】【火属性魔法Lv1】




 自身のステータスに早速清潔魔法が追加されているのを確認した。

 これで明日から水道代と水の加熱代と洗剤代が浮きそうだ。

 清潔魔法はルカのような僧侶の才のある者が教会の所属にならないと覚えることが出来ない魔法なので、結構レアな魔法だったりする。


「くんくん……うん、臭くないですね」


「ありがとな」


「いえ、ばっちい手で頭撫でられても困るので」


 頭撫でる分はいいのか。ていうか期待してんのか。

 ルカがわざとらしくシスター帽を脱ぎ、見返りを求めるような顔で見上げてくるので頭を撫でてやると嬉しそうにはにかんだ。

 ルカとの付き合いは長くないが、孤児かなんかで愛情とかに飢えてるのだろうか?

 冒険者は同業者の過去をむやみに探らないという暗黙の了解があるので、本人に聞いたりはしないけど。


「あ、いつもウチがポーションを卸してる魔導具屋さんだ。ちょっと挨拶してきます」


 王都には露店街が点在しており、特にダンジョン入口や冒険者協会付近は冒険者向けの道具を取り扱っている店が多い。

 ルカはポーションを中心とした魔導具屋を見つけると、小走りに駆けていく。


「よお兄ちゃん、格好いいコートだな。それにアーティファクトだろ?」


「ああ、この前宝箱から見つけた」


「オヤジさん紹介します。この人はウチの冒険者仲間のエドワードさんです」


「ども……」


 俺の記憶が正しければ、この店主はルカのおしっこから精製したポーションを市場価格の3倍で買い取っていたはず。

 人の良さげな顔をしているが、今後も大事な仲間であるルカとお付き合いを続けさせていいか心配である。


「そうだルカちゃんとエドワードの兄ちゃん、実は今日、とびきりのレアアイテムを入荷したんだ」


「えー、なんですかー!?」


「あの小聖女様のエリクサーだ!」


「小聖女?」


「現聖女様であるラファエラ様のご息女のことを小聖女と呼んでいます。まだ13歳とお若いのですが、魔法の才に溢れた天才で、聖女様と同じプラチナブロンドの御髪と美麗な御顔を女神様より授けられた教会のアイドルです」


「めっちゃ早口でしゃべるやん……」


「宗教関係者や敬虔な信者であれば誰しも小聖女様をお慕いしているので当たり前です!」


「あの宗教顔面至上主義みたいな所あるもんな」


 まあそれも仕方のない所もある。

 金髪や銀髪は大気の魔力を集めやすいからとか、この世界を創造したとされる雄神が銀髪で、人間を創造したとされる女神が金髪だからとか、正確な理由は解明されていないが、金髪や銀髪の人間は魔力の扱いに長ける傾向にある。

 そしてルカの所属してる教会は女神崇拝なので、金髪の人間はそれだけ優遇されやすい。


 それと同時に顔のいい人間はステータスの伸びが良い傾向にある。

 雄神や女神は共に美男美女であり、下界にいる顔のいい人間を贔屓するから言われているが、こちらの真偽も不明だ。


 美形は神に祝福されているという訳で、結果的に顔面至上主義な宗教になっているらしい。


「ルカちゃんにはいつもお世話になってるし、サービスして100万Gで売るよ」


「100万!?」


 高っか!?


「安っす!!」


「……え?」


 ルカは前のめりになりながら小聖女のエリクサーを凝視している。


「ルカ、エリクサーの相場はいくらくらいだ?」


「一般的なものなら50万Gです。ですが小聖女様のエリクサーなら5000万G以上で取引されています」


「………………マジ?」


 ……ん?

 待てよ。

 小聖女のエリクサーってつまり、小聖女が作ったエリクサーってことだろ。

 ってことはつまり……。

 聖女のおしっこが5000万Gで取引されていることか?

 終わりだよこの国。


「どうしよう、エドさんから貰った赤糸のローブ売って知り合いから限界まで借金したら100万G届くかな……? オヤジさん、今後格安価格でウチのポーション卸すからもう少し安くなりません?」


「俺があげたローブそんなの買うために売らないで……」


「そんなのとは何ですか!? 小聖女様はウチみたいな下っ端シスターではお顔を拝見することすら難しい尊きお方なのですよ!? それと比べたらこのローブなんて擦り切れた雑巾みたいなもんですよ!!」


 というか5000万G以上で取引されている小聖女の尿(エリクサー)が100万Gって安すぎだろ。

 怪し過ぎる。


「……【鑑定】」


 大げさな装飾のビンに入ったエリクサーを【鑑定】スキルで調べる。



【ハイポーション】

 HPを1000回復する。

※ナルサス・グレイダッドの尿から精製。



「小聖女って、ナルサス・グレイダッドって言うのか?」


「いえ、それは王都東教区をまとめるナルサス司教の名前ですね。50過ぎのお爺さんとは思えないくらい筋肉ムキムキで素手で巨岩を砕く武勇伝があります」




 …………偽物じゃねぇか。

 てかエリクサーでもねぇし。

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