第8話 転移先は魔物の巣
「どこだここ……?」
暗転した視界が回復する。
まずは四肢の確認。手足ともに壁にめりこんでないのを確認し、ほっと息をつく。
次に周囲の確認。
広々とした正方形型の玄室のようで、床や壁は凹凸の少ない土壁、上部に設置された照明装置が玄室内を明るく照らしている。
ダンジョンの雰囲気はだいたい20階層ごとに変化する。
転移させられる前のダンジョンの雰囲気のままなので、恐らくは20層より上だと思われる。
上層部であれば他の冒険者を探して保護してもらうのも容易だろう。
「となればまずは階段を探さないとな。登りでも下りでも階段にたどり着ければ冒険者協会が建てた座標を記した看板があるはずだから、それで座標を確かめて、21層か11層までたどり着ければ、エレベーターで1層まで戻れるはずだ」
――ピコン
□ダンジョン11層に到達する(11/11)
□ダンジョン11層で魔物を30匹倒す(30/30)
□宝箱を1つ開錠する(1/1)
――デイリークエストが全て達成されました。
――以下の報酬を全て受け取れます。
【報酬1】任意のステータスを+1する
【報酬2】任意の所持アイテムを+1する
【報酬3】ランクD宝箱を入手
「……え?」
俺はてっきり宝箱の開錠を失敗したと思っていたのだが、先の宝箱は開錠後に発動するトラップであり、トラップを発動させてしまったが、デイリークエストのクリア条件は満たせていたらしい。
良かった……。
「であれば取りあえず報酬を受け取ろう。まずはステータスだが……生存率を上げるには防御か……いや、ルカがいない今攻撃を喰らうこと自体危ない。なら魔物の攻撃を回避するためにも速力を上げるべきだ」
エドワード・ノウエン
レベル10
HP50/80
MP35/35
筋力15
防御10
速力17→18
器用17
魔力4
運値11
「次は所持アイテムの強化だが、これも同じ理由で武器を強化」
――ピコン。
――鉄の短剣【+10】はこれ以上強化出来ません。
「なんだよそれ……確かに鉄の短剣とは思えないくらいよく切れるようになったけどよ……」
なら防具を強化するべきだろうか?
いや、先に3つ目の報酬を開けてみよう。
これで今よりも強い武器や防具が手に入れば、そっちを強化した方が良い。
危機的状況に陥ったことで生存本能が強くなって普段より知能指数が上がっているのを実感するぜ。
「って訳で宝箱オープン」
ジジジ――と手の平の上に魔力の波動が迸り、光が止むと果たして、出現したのは一振りのナイフであった。
ほんのりと黄色い刀身のナイフで、ギザギザとした鋸のような形の刃をしている。
「【鑑定】」
――ピコン。
【痺牙(しが)のナイフ】
レア度D
麻痺属性が付与されたナイフ。
攻撃力+8
とこのこと。
「今使ってる限界まで強化した鉄の短剣が攻撃力【+15】。これは【+8】だが麻痺属性付きか。魔物を麻痺させてその隙に逃げるのにもってこいだな。2つ目のクエスト報酬は痺牙のナイフの強化で」
すると痺牙のナイフの攻撃力補正が【+9】になったと板に表示される。
「これでなんとか地上に出れればいいのだが……」
『グルルルル……』
「っ!?」
痺牙のナイフの振り心地を確認していると、魔物の唸り声が聞こえて武器を構える。
右手に痺牙のナイフ、左手に鉄の短剣の構え。
視界の先にいるのはヘルハウンドと呼ばれる魔物。
荷物持ち時代に見たことはあるが、実際に戦うのは初めてだ。
「【鑑定】」
鑑定スキルは魔物にも有効だ。
少しでも敵の弱点が分かればいいのだが……。
ヘルハウンド
推奨討伐レベル15
筋力D
防御E+
速力D+
魔力なし
弱点:氷属性・雷属性
魔物のステータスは冒険者と比べるとざっくりとしたことしか分からないが、犬型の魔物らしくスピードが厄介だと言うことが判明する。
「たったこれだけかよ、無いよりましだが……!」
ヘルハウンドが鋭い牙を光らせながら飛びかかってくる。
俺も負けじと大地を蹴り踏みしめ魔物と対峙する。
「【ダッシュナイフ】!」
早速覚えたばかりのスキルを使用する。
「!?」
まるで強烈な追い風が吹いたかのように背中が押され、凄い加速が俺にかかる。
そしてヘルハウンドの牙をすれ違うように避けながら、痺牙のナイフを喰らわせる。
これが攻撃スキルか……。
開錠スキルでも手が勝手に動いたり次の動作が何故か分かるような感覚になるが、攻撃スキルは爽快感があって使っていて気持ちいい。
「これでどうだ!」
『グッ……グルグル……!』
振り返りヘルハウンドを見やると、一撃では仕留められなかったものも様子がおかしい。
大量の唾液をアゴから垂らしながら、小刻みに痙攣していて苦しそうだ。
――ピコン。
――ヘルハウンド。状態【麻痺】。
「一撃で麻痺が発動するのか!」
僥倖を得た俺は再びヘルハウンドに飛びかかり斬撃をお見舞いする。
『キャウン……!』
追撃を食らったヘルハウンドは灰となり、魔石のみが残る。
収納魔法で魔石を回収。これなら1対1であればなんとかなりそうだ。
――レベルが上がりました。
エドワード・ノウエン
レベル11
HP50/85
MP35/35
筋力15
防御11
速力18
器用18
魔力5
運値11
「よし! レベルも上がった!」
推奨レベル15の魔物を倒したのが幸いし、レベルもあがった。
「強制転移させられた時はどうなるかと思ったが、これならなんとかなりそう…………は?」
安堵も束の間。
玄室の至る所に魔法陣が浮かび上がり、そこから出現する無数のヘルハウンド。
敵意を持った無数の目線が俺を射抜いてくる。
「モンスターハウスかよ!?」
転移魔法によって大量の魔物が転移してくるダンジョンのトラップであり、玄室を覗き込んで魔物がいないと油断して入ったら最後、大量の魔物に囲まれるという厭らしいトラップだ。
1匹ずつならなんとかなる、と希望が湧いてきた直後に振りかかる絶望。
思わず腰が抜けそうになるが、歯を食いしばって耐える。
『お兄ちゃん、死なないでね』
『当たり前だ、リエラを置いて死ぬ訳ないだろ』
脳裏に浮かぶは最愛にしてたった一人の家族の顔。
「ミノタウロスならまだしも、お前らに食われる訳にはいかねぇんだ……! 全員魔石にして妹の治療費にしてくれるわボケがあああああ!!」
『『『グラアアアアア!!』』』
同時に左右と前方から飛び込んでくるヘルハウンド。
「【ダッシュナイフ】!」
ダッシュナイフを発動して包囲を抜け出しつつ、すれ違う敵を両手の武器で切り付ける。
『グギギギ……!』
右手の痺牙のナイフが命中したヘルハウンドは麻痺が付与され動けなくなる。
その後は玄室内を走って逃げ、スキルのクールタイムが終わったと同時に方向転換。
再びダッシュナイフで追ってくるヘルハウンドにダメージを与える。
そうして孤立した麻痺状態の奴から順に一匹ずつトドメをさしていく。
スキルなしの素のステータスでは奴らのスピードに対応するのは難しいし、取りつかれてしまえばそのまま無数の牙に食われてしまうだろう。
だがダッシュナイフによる補正がかかれば、一瞬とはいえヘルハウンドのスピードを上回る。
ヒット&アウェイ戦法でなら戦える!
こうして俺以外全員鬼という命がけの鬼ごっこが始まったのであった。
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