第7話 コイツなんかいい匂いするな
「おりゃああああ!」
「ていやああああ!」
デイリークエストのアイテム強化で【+10】まで強化された鉄のナイフが、凶悪な前歯を持ったウサギ型魔物、キラーラビットの喉元を引き裂く。
ダメージを負い動きが鈍くなったキラーラビットの頭を、ルカが樫の杖でめった打ちにしてトドメを刺す。
「よし、これで20匹!」
ダンジョンに潜る際は、自分のレベルと同じ階層が適正レベルと言われている。
装備によって多少前後されるものも俺のレベルは9、ルカのレベルは8。
若干適正レベルに足りていないため緊張していたが、2~3匹の少ない群れにターゲットを絞ることでなんとか11層の魔物とも戦っていけるといった具合だった。
「エドさん、そろそろ休憩しませんか? ウチそろそろ息切れてきました」
「そうだな」
魔物の奇襲にも即座に対応でき、他の冒険者の通行の邪魔にもならない場所に腰を下ろして休憩する。
「エドさん、今日もランチを作ってきましたよー」
「いつも悪いな」
「いえいえー。エドさんのおかげでウチも順調にレベルがあがってますし、ウチは教会の宿舎住みなので家賃かからないので」
ルカがポーチからサンドイッチを取り出し差し出してくるので、手袋を外してそれを受け取る。
ルカのお手製ランチも最初はしなしなのレタスとトマトしか入っていないわびしいものだったが、最近は安定して金を稼げるようになり、ベーコンなどの肉類や、ソースの類も入っていて露店のものに負けないくらいおいしい。
ルカも蒸れて暑いのかローブとシスター帽を取り、金髪を露出して小さな口でサンドイッチを頬張っている。
腹を膨らませた後は、喉を潤すのも兼ねてポーションを取り出す。
11層の魔物も即死級のダメージはないものも、結構被弾してしまいダメージを負ってしまった。
「あー! エドさんなんでここにヒーラーがいるのにポーション飲もうとしてるんですか! 勿体ないですよ! ていうか何でウチに黙ってポーション買ってるんですか!? ウチから買ってくださいよ! ――ヒール!!」
飲もうとしていたポーションをひったくられ、押し付けるように回復魔法をかけられた。
「お前バカ! 1回しか魔法使えないのになんで俺に使ってんだよ! お前の方がHPも防御も少ないんだからよ!」
「怒らないでくださいよ。あれからウチも成長して、ヒールを2回も使えるようになったんですから。それに自分で作ったポーションもありますしね」
「……なんだ、そうだったのか」
念のためルカのステータスを鑑定眼で確認する。
ルカ・カインズ
16歳
職業:僧侶
レベル8
HP30/40
MP30/60
筋力4
防御4
速力5
器用5
魔力13
運値5
確かにMPにまだ余裕がある。ルカの言う通り回復魔法を2回打てるだけのMP量になっているようだ。
「ふふん! ウチだって成長してるんです」
「そうだったな。ありがとな」
「んっ……」
ルカの頭を撫でると、肩をビクンと跳ねさせた。
「あ、悪い。妹にいつもしてるからつい癖で」
「い、いえ……別に、構いませんよ。少しびっくりしただけですので……ふぅ」
ルカは頬を赤らめながらいそいそとシスター帽を被る。
おいやめろよ。そんな顔をするな。お前シスター服着てて紛らわしいけど男だろうが。
「そういや、妹さんがいたんでしたっけ?」
「ああ、大切な妹だ。まぁ妹の話はよそう。飯も食い終わったしそろそろ冒険再開しようや」
「そうですね!」
妹が重い病気にかかっていて歩くこともままならない重めの家庭の事情を話すのも憚られるので、適当に誤魔化し立ち上がる。
盗賊と僧侶のパーティは再びダンジョンの奥へと潜っていくのであった。
■■■
数時間後。
「エドさん! 右から来ましたよ!」
「おう!」
正面のキラーラビットをナイフで切り裂きトドメを刺すと、もう一匹が鋭い前歯を光らせながら横腹目掛けて飛びかかってくる。
それを紙一重で回避し、すれ違うように俺の短剣が魔物を腹を裂く。
『ギギッ!?』
「死ねえええええ!!」
聖職者とは思えない言葉遣いでルカが手負いのキラーラビットをめった打ちにする。
既に樫の杖は魔物の返り血でべっとりと汚れていた。
――レベルがあがりました。
――スキル【ダッシュナイフLv1】を覚えました。
【ダッシュナイフ】
前方へ高速で移動しすれ違い様に敵を切り裂く動きを補助するスキル。
クールタイム20秒。
エドワード・ノウエン
レベル10
HP50/80
MP35/35
筋力15
防御10
速力17
器用17
魔力4
運値11
スキル【短剣術Lv1】【ダッシュナイフLv1】【開錠Lv1】【鑑定LvMAX】
魔法【なし】
――デイリークエストを1つクリアしました。
□ダンジョン11層に到達する(11/11)
□ダンジョン11層で魔物を30匹倒す(30/30)
■宝箱を1つ開錠する(0/1)
レベルがあがったと同時に新しいスキルを獲得した模様。
攻撃タイプのスキルを覚えるのは初めてなので非常に嬉しい。
これで更に魔物狩りの効率がよくなると思われる。
「さて、残りのクエストは宝箱の開錠だが……どうしたものか」
「エドさん! 玄室の奥に宝箱がありますよ!」
「でかした!」
冒険者の探索を助けるアイテムが入っている宝箱。
誰がいつどのように設置しているのかは謎だが、無限に魔物に湧き出たり、魔物を倒すとレベルがあがったりスキルや魔法を覚えたり、死んだ魔物は灰になって魔石だけが残る仕組みも十分に謎なので、ダンジョンが誕生した1000年前から「これはそういうもんだ」と人類は考えるのを放棄している。
理由などどうだっていいのだ。
それにしても運よく宝箱が見つかってよかった。
もしデイリークエストをクリア出来なければ、俺の眼球が爆発して死ぬって書いてあったしな……。
「開錠なら俺に負かせとけ。宝箱の色からしてEランクだし、余裕で開けてやるよ」
俺の開錠スキルはLv1だが、荷物持ち時代に自分の実力以上の宝箱を沢山開けてきたので、素の鍵開け能力も上達しており、スキルによる補助を加味すればEランクの宝箱であれば問題なく開けられるはずだ。
「何が出るかな~♪」
ルカは俺の肩に両手を置いて肩を左右に揺らしながら鼻歌を歌ってうかれている。
「おいおい揺らすな揺らすな。手元がくるう」
「え~鍵開け達人のエドさんともあろうお方が、この程度の妨害で失敗するなんてことないですよね~?」
「わはは! たりめーだろ。こちとら毎日背中ゲシゲシ蹴られながら開錠してたんだ。よゆーよよゆー!」
「頼もしい! じゃあこうしちゃおー♪」
ルカはおぶさるように俺の背中に飛びついてきて、宝箱の中身をすぐ見れるように俺の肩の横から顔を覗かせている。
聖職者は教義によって常に身を清潔に保つことを定めらており、身の汚れを落とす【清潔魔法】を使うことが出来る。
だからルカからは貧乏冒険者特有の不潔な匂いはせず、むしろちょっといい匂いがするまである。男が醸していい体臭ではない。
「ほらほら、早く開けてくださいな!」
「急かすな急かすな。いいか、開錠はな、まずどんな罠があるか判別してだな……」
罠がかかってないのを確認した後、カチャカチャと錠穴に針金を通して10秒程度で「ガチャリ」と錠が外れる音がする。
所詮Eランク宝箱、造作もない。
さて中身はなんだろな、と蓋を開けた所――
――プツン。
嫌な音がした。
完全に調子に乗っていた。
蓋と箱を繋ぐように糸が張ってあるタイプの罠で、まさに先日と同じ失敗をしてしまった。
開錠後に罠が作動するタイプがあることを完全に忘れていた。
ここ数日宝箱の開錠をしていなかったのも原因の一つだろう。
「……まずっ!?」
俺の足元に魔法陣が広がる。
これは転移トラップ!?
先日のトラウマが蘇る。
どこに転移されるか分かったもんじゃないし、何より壁の中に転移させられたら即死亡だ。
「ルカ! 離れろ!!」
背中に張りついているルカを引き剥がし、魔法陣の外へ放り投げる。
「ちょ、エドさん!?」
「ああくそ! 悪いルカ、こっからは一人で地上に戻って――――」
泣きそうな顔でこちらに手を伸ばすルカの顔を最後に視界が真っ暗になり、魔法陣によって強制転移させられたのであった。
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