第6話 魔導昇降機

 デイリークエストなるものが毎朝発行されるようになってから10日が経過した。

 あれから俺はルカと一緒に毎日ダンジョンに潜り、指示されたクエストを消化していき、クリア報酬によってそれなりに強くなっているのを実感していた。


 一つ問題があるとすれば、毎日休みなくデイリークエストが発行されるため、休む暇がない。

 金にある程度余裕が出来たので、たまには1日中まったりと体を休ませたいのだが、デイリークエストのペナルティがそれを許さない。

 まるでこの一連な不思議な板に、強くなるサポートをしてやる代わりに、強くなれと強要されているかのようにも捉えられる。



エドワード・ノウエン

レベル9

HP70/70

MP35/35

筋力14

防御9

速力16

器用16

魔力4

運値11

スキル【短剣術Lv1】【開錠Lv1】【鑑定LvMAX】

魔法【なし】



 このように、以前から3レベルも上がり、デイリークエストを1日こなすことで任意のステータスを1上げることが出来るので、10日でステータスを10もあげることが出来た。

 塵も積もればなんとやらだ。


 更にデイリークエスト報酬の宝箱から出てくるアイテムはだいたい売っているのでお金の方も余裕が出てきた。

 このまま貯金が出来ればもう少しいい部屋を借りることも出来るだろう。

 妹に良い暮らしをさせてあげたいし、がぜんやる気が湧いてきた今日この頃である。


「どうしたんですかエドさん。楽しそうですね」


 ダンジョンへの入り口の道すがら、隣を歩くルカが不思議そうに尋ねる。


「なんか、冒険者してんなーって感じがして」


「なんですかそれー? ずっと冒険者じゃないですかー」


「今まで荷物持ちだったり宝箱の鍵開け係だったからさ、こういう魔物を倒してその報酬に一喜一憂してうまい飯で1日の疲れを癒して明日も頑張るぞって生活が、凄い充実してるというか」


「なるなるですね。ウチも似た感じです」


 ルカもダンジョン捜索よりポーション売買の方が収入多かったもんな。

 そんなルカはシスター服の上から赤い糸で刺繍が施されたローブを着ている。

 これはデイリークエスト報酬で出てきたアイテムで、火属性耐性を上げるローブで僧侶向けのアイテムだったのでルカにあげたものだ。


 俺もそろそろ装備を新調したい。今日のクエスト報酬は盗賊向けの防具が出て来てくれるとありがたいのだが……。



――ピコン


――デイリークエストが更新されました。


■ダンジョン11層に到達する(0/11)

■ダンジョン11層で魔物を30匹倒す(0/30)

■宝箱を1つ開錠する(0/1)



 噂をすればなんとやら。

 今日も時計塔が8時の鐘を鳴らすと同時に、俺にしか見えない板が出現して本日のデイリークエストを発表する。

 俺の実力に合わせてくれているのか、クエストの内容も日に日に難しくなっているようだ。


「ルカ、今日は11層まで潜らないか」


「11層ですか!? 結構深いけど確かにアリかもですね。11層なら1層からエレベーターで直ですし」


 ルカの承諾も得れた所で、本日の目的地も無事決定した。




 王都地下に広がるダンジョンの1層にはエレベーターと呼ばれる魔導昇降機が存在しており、10階層刻みで下のエリアまで運んでくれる。

 つまり11階層へはエレベーターを使えばすぐ到着するということだ。


 冒険者たちはエレベーターを使って自分のレベルに見合った階層まで潜り、広いダンジョンの移動時間を短縮している。

 ちなみに1つのパーティは6人までが好ましいと言われているのもエレベーターの定員が6人なのが理由の1つだ。


「ウチ、エレベーター乗るの初めてです!」


「俺は荷物持ちで20層まで潜ったことあるから、初めてではないがな」


 エレベーターの位置は頭に入っているので、最短距離でダンジョン1層のエレベーターホールに到着する。

 幸い順番待ちのパーティはおらず、ルカと共にエレベーターに乗って【11】と書いてあるボタンを押す。

 ゆっくりと下降していくエレベーター。


「これ……途中で壊れて一番下までまっさかさま、なんてことなんですよね?」


「さぁ? 俺も冒険者になって日が浅いから分からねぇな。でもダンジョンが誕生して1000年くらい経ってるらしいし、老朽化してるかもしれないな」


 ぎゅ、っと不安そうに俺の防具の袖をつまんでくるルカがおかしくて、わざとエレベーターが揺れるように重心を左右に動かしてみる。


「ちょっと! やめてくださいよ! 落ちたらどうするんですか!?」


「ははは」


 ルカは泣きそうになりながら俺の腕にしがみついてきた。


「なに笑ってるんですか。ポーションちびる所でしたよ」


「すまんすまん」


 以前まではずっと荷物持ちで、パーティメンバーは仲間というより雇用主といった感じで立場が一つ下の関係性だったから、こんな風に仲間とふざける経験もなかったのが関係し、ついつい楽しくて遊んでしまった。


 ガタン――とエレベーターが止まる。

 エレベーターから降りるとそこは広々とした玄室になっており、大きく『ここは11層です 冒険者協会』と協会が設置した看板が建っている。


「さて、どっちに行こうか」


 エレベーターは正方形の玄室の中央にあり、四方にそれぞれ廊下が伸びている形だ。


「エドさんは11層の地理に詳しかったりします?」


「あんまり」


「ちなみに地図とか持ってます? ウチは持ってませんけど」


「俺も持ってない。迷わないようにマッピングしながら行こうや」


「そうですね」


 魔石を回収するウエストポーチから紙とペンを取り出し、後衛のルカにマッピングをお願いする。

 そして11層の奥へと進んでいくのであった。



――本日のデイリークエスト


□ダンジョン11層に到達する(11/11)

■ダンジョン11層で魔物を30匹倒す(0/30)

■宝箱を1つ開錠する(0/1)

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