第5話 人類最強の凱旋
その後地上に戻って魔石と籠手を買い取りに出すと、魔石は1000G、籠手は23000Gで売れた。
属性攻撃に耐性のある防具は魔法による加工が必要なので自ずと価値も高くなるらしい。
一番安い防具を買って以降新調していないので知らなかった。
「ルカ、24000Gになった。山分けで12000Gでいいな?」
「えええええ!? なんでそんなに高いんですか!?」
「あー、ダンジョンでしょん便するためにお前と別れた時、偶然宝箱を見つけてな。その中に入ってたんだ」
「そうだったんですね! だったら見つけた時に教えてくださいよー」
「最初はネコババする気だったんだが、思ったより高く売れたから罪悪感がな……」
「流石盗賊……さらっとクソ野郎発言しますね」
「いいだろもう、ちゃんと最終的に山分けにしたんだからさ」
「もぅ、しょうがないですねー」
ルカはほくほく顔で山分けした貨幣を受け取る。
もし今後もデイリークエストの報酬でこれだけの金が手に入り、更にステータス強化とアイテム強化も出来るのであれば、もしかするとひょっとすると、この底辺生活から抜け出せるかもしれない。
そんな希望が芽生え、胸が熱くなってくる。
「どうしたんですか? 手が震えてますよ?」
「ああいや、1日でこれだけ稼げたのは初めてだったからな……」
「ですよねー。そうだ、今日は一緒に夕飯食べに行きません?」
「そうだな。たまには贅沢するか」
「よーし、それじゃあ出発!」
軽い足取りで先を行くルカに付いていく形で、冒険者協会を後にする。
だが建物を出てすぐ、ルカの小さな背中が足を止めた。
「どうした?」
「大御所ギルド、ブラックロータスの列で道が狭くなってて。どうやら遠征帰りみたいですね。アホみたいな量の魔石を荷馬車いっぱいに乗せてます。これから協会で買い取り査定に出すんでしょう」
ルカの言う通り、協会の通りには多数の荷馬車を運ぶ冒険者ギルドの列が出来ていた。
ブラックロータス。
その歴史は王都の地下に突如ダンジョンが出現した1000年前から存在しており、最古参にして最大手ギルドだ。
王宮からはその実力を認められ、騎士爵の爵位を下賜されており、腕っぷしだけで貴族の地位を得たことで冒険者貴族とも呼ばれている。
領地は持っていないので領民からの税金ではなくダンジョンの魔石を王宮へと上納することで数百年もの間その地位を維持しているんだとか。
トップクラスのギルドの名に恥じず、団員は皆高そうな装備に身を包んでいるが、その中でも一際目立つ冒険者を発見する。
「おお! ギルドマスターのサーニャ・ゼレノイですよ! ウチ本人見るの初めてです!」
ルカが指さす先を見れば、確かに一際目立つ冒険者が立派な馬に騎乗していた。
桃銀の豊かな髪を腰まで伸ばし、黒いファーで襟を縁取った高そうなコートを着ている。
あれは魔法が施されたコートだろうから、ああ見えて防御力は金属鎧より遥かに高いと思われる。
そして何より整った顔立ちが目を惹いた。
パーツ一つ一つは童女のような作りだが、キリリと引き締まった顔立ちと数々の修羅場を潜り抜けてきたことが伝わってくるオーラによって、この距離でも強い威厳を感じ取ることが出来る。
馬に乗っているので正確な背丈は分からないが、100センチあるかないかと言った所か。
「驚いた……ブラックロータス、名前は知っていたがホビット族がギルドマスターをしていたのか」
「そうですよ。でも見かけに騙されちゃダメですよ。彼女の髪は銀色。桃が混じった混銀ではありますが、生まれつき攻撃魔法に特化した〝天賦〟の特徴を持っています。若干14歳にしてついた2つ名は〝人類最強〟。エドさんなんて彼女にかかれば2秒とかからず3枚おろしですよ」
「うっせ。お前は金髪の天賦を持ってる癖にクソ雑魚僧侶じゃねーか」
「ウチのことは関係ないでしょ!」
試しに彼女に焦点を当て、ステータスを確認する。
サーニャ・ゼノレイ
14歳
職業:侍
レベル71
HP5500/5500
MP3000/8900
筋力630
防御290
速力550
器用220
魔力600
運値550
「……えっぐ」
人類最強の名は伊達ではないらしい……。
サーニャのホビット族らしからぬえげつないステータスを見て唖然としていると、馬上のサーニャが人混みの中からピンポイントで俺の目を見返してきたような気がして、慌てて目を逸らした。
「やばっ!」
なんだ? 歴戦の冒険者だから、他者からの妖しい視線に敏感なのか?
「ルカ、そろそろ飯食いに行くぞ」
「あ、そうですね」
逃げるようにルカの細い手首を掴んで、ブラックロータスの行列から逃げるように冒険者協会の通りを抜けていった。
■■■
「サーニャ様、どうされました?」
一方。
不思議な視線を感じ、その視線の主を探っていたサーニャは並走するように馬に乗って近づいてくる副ギルドマスターに声をかけられる。
水色の髪を肩口で切り揃えた美しい女エルフだ。
「いや、なんでもない」
自分では低い声で喋っているつもりだが、他者から見れば可愛いソプラノボイスにしか聞こえない声で副ギルドマスターに返事をする。
不思議な視線も感じなくなったし、気のせいだろうと彼女は再び視線を前へ戻した。
やがて一団は冒険者協会の前へ到着する。
「サーニャ様、お足下にご注意ください」
一足早く馬から降りた副ギルドマスターは、サーニャの乗る馬の足元に土台を設置し、サーニャは短い足でトンと土台の上に着地した。
「ねぇ、別にこの高さでも問題なく降りれるんだから、毎回乗り降りするたびに台を置くのやめてくれない? 恥ずかしいのだけれど」
「いえ、サーニャ様の手足の如くありとあらゆるサポートをするのがわたくしの役割ですので」
「……もういい」
何度言っても改善してくれないため、サーニャは諦めるようにため息をつき、桃銀色の長髪をなびかせながら冒険者協会のドアをくぐった。
勿論先行する副ギルドマスターにドアを支えて貰いながら……。
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