津多絵姫子は伝えたい!!

山岡咲美

津多絵姫子は伝えたい!!

「ねえ、つきあってよ」


 夕暮れの教室で津多絵姫子つたえひめこは告白した。


 津多絵姫子は好きな人が居る、ずっと好きだったが告白には二の足を踏んでいた。


 津多絵姫子は中学校のときも小学校のときも幼稚園のときも初めてママに連れていってもらった公園でも赤ちゃんの保育器の中でも今思えばずっと彼が好きだった、でもずっとなかの良い幼なじみとして生きてきた。


 津多絵姫子は高校の若草色ブレザーの白いプリーツスカートに手の汗をにじませた、顔と耳は真っ赤になり、スカートを握った指のせいでスカートが少し持ち上がるほどだった。



 心臓の鼓動が彼に伝わりそう……



 津多絵姫子は今まさに少女漫画(小説)のヒロインだった。



********************



「……どこに?」



 僕は「きょとん」とした顔で聞き返した。


 僕、真知界王子まちかいおおじが考えた結果の答えだった、「ねえ、つきあってよ」イコール「好きです愛しています付き合って下さい!」これは「勘違いだ!」青春のよくある自意識過剰、女子を意識しすぎた男子の持つ勘違いフィルター、落とした消しゴム拾ってくれたとかシャープペンシルの芯貸してと頼まれたとか「おはよう」って挨拶してくれたとか目があったってだけですら自分に好意があると勘違いする青春の罠! 間違いに気づいた瞬間自分一人で真っ赤になるあれ! きっと何か別の用事があるのだ。


 間違いない!!


 僕は考える、では用事とは何か? おそらく力仕事、かくいう僕はスポーツだけは少し自信があった、女子より小さな背丈で他の男子と対等に渡り歩ける実力、県大会一回戦で敗北したとはいえバスケットボール部でレギュラーだった男、(バスケ部で控えに回ったの僕と同じ背丈の親友、誠翼まことつばさ君だけだったけど一応レギュラーで公式戦に出たのが僕の小さな誇り)、そう女子一人では持てない何かを運ぶ仕事だ、先生に頼まれて僕に? イヤ、先生もバカでは無い、女子にそんな力仕事を頼む筈は無い、では私的な用件か? 津多絵姫子は僕の幼なじみだ、イヤ、幼なじみをさせていただいている、津多絵姫子は中学校のときも小学校のときも幼稚園のときも初めて母さんに連れていってもらった公園でも赤ちゃんの保育器の中でも今思えばずっとモテていた、美人よりの可愛い系だった、幼なじみをさせていただいているだけで幸せなくらいだ。


 買い物か!!


 僕はその考えに気づいた! そうだ! そうに違いない! 幼なじみをさせていただいている僕にはわかる! 友達の女子に荷物を持たせ連れ歩くほどのスクールカーストなどこの高校には、イヤ、小説や漫画の世界でしか存在しない! 他の男子だとつきあってると誤解されるかもしれない、そのてん幼なじみをさせていただいている僕ならばそういった気遣いは無用だ、他者から見たらただの幼なじみ、もしかしたら女子としても小柄な津多絵姫子より背の低い僕は弟、姉弟きょうだいだと思われるかもしれない。


 僕は考える、「では、どう答えるべきか?」


「どこへ?」


 これはダメだ、「どこへ?」では表現として遠くへ行く感じだ(そんな気がする)、そんな印象がする言い回しだ、これでは買い物に行く気が満々に聞こえ先生の用事とかだったら「何? アタシとプライベートでお出かけ出来るつもりだったの? 頭、大丈夫?」とか言われるかもしれない、イヤ言われない! そもそも津多絵姫子の一人称は「アタシ」ではなく「私」、そしてさすがに幼なじみだ、幼なじみをさせていただいている、津多絵姫子は性格もいい、そんな人を傷つける言葉など津多絵姫子は言わない「ごめんなさい王子君勘違いさせて、私を好きなのはわかっているけど一緒に買い物とかじゃないから」とか心のなかで謝られそうだ。


 これは辛い! 気を使われるとさらにみじめさがきわだってしまう。


 そうだ「どこに?」はどうだろうか? これなら買い物とかの遠出でも対応した言葉だし校舎内とも受け取れる、そんな言い回しに聞こえる(気がする)、もし先生に頼まれた用事だったとしてもそれで間違はない! 「遠く行く」より「遠く行く」「近く行く」より「近く行く」方がしっくりくる(多分)日本語って素晴らしい!


 僕は思う、こんなだから「文章オタク」だとか「ガリ勉君(古語)」とか言われるのだ、イヤ言われてない! 言われてる気が、陰口が聞こえる気がするだけだ、被害妄想はなはだしい。


 僕はさらに考える「ではどんな表情でその言葉を発するのがいいのか?」


 めんどくさそうに首でもかきながら「どこに?」


 ダメだ、まるでイケメン幼なじみだ、僕はイケメンじゃない! 小さな頃から「王子君可愛い! 王子君格好いい!」とか言われ勘違いして来た人生だが小さい子供は可愛くて当然だ! 「ネコちゃん可愛い! ワンちゃん可愛い!」と同じ感じの可愛いだ! そして女子よりイヤ、小柄な津多絵姫子より背の低い僕は可愛いなら万が一、イヤ、億が一にもあるかも知れないが「格好いい!」とかは天地がひっくり返ってもあり得ないレベル!


 めんどくさそうに首でもかきながら「どこに?」なんて言う権利は僕に与えられる筈がない! そんな事は神様が許しても僕自身が許さない!!


 少し驚いたように「きょとん」と答えるのはどうだろうか?


 これはアリだ! 「底辺人間の僕なんかに声をかけてくださる方がいるんですね」「声をかけられて驚きました」「僕ボッチじゃないんだありがとうございます!」これなら美人よりの可愛い津多絵姫子に声をかけられたこと事態に驚いている風でもある、ひれ伏す誠意!!



 これにきまりだ!!



 そして僕は上記のように少し悩んだ末。



「……どこに?」



 と返事をした。



********************



 真知界王子はとんでもないネガティブ野郎だった。



********************



「え?!」


 私は驚いた、伝わってない???


 一世一代の告白に失敗した???


 私には心辺りがあった、それは初めてお弁当を作って渡したときの事だ。


 女子である私、津多絵姫子が男子である彼、真知界王子に手作りのお弁当を高校の教室であげる、これはもう愛の告白に準ずる行為、二人はラブラブ、もはや愛し合ってる、二人の間に入る隙間などないんだとクラスの女子に、否、全校女子生徒に、果ては全世界の女共に知らしめる行為だった! だった筈だ!!


「あ、うん、ごめん、ありがとう、僕、気を使わせてしまって……」


 あろうことか真知界王子は自分がボッチで寂しいから一緒にお弁当食べましょうなどと、お弁当を恵んでもらったと勘違いしている風なのだ、確かに真知界王子はボッチだった、否、ボッチになってしまった、一学期の時はバスケットボール部のチームメイト誠翼君が居る二組にお昼になるとたずねていっていたが「真知界君と誠君は付き合ってる♪」とBL疑惑の噂がたち行きづらくなっていた。



 ちなみにその噂を流したのは私だ、仕方がなかった(言い訳)。



 私、いえ……違うわ、否、違わない、噂を流したのは本当だけど、ボッチが可愛そうでお弁当を恵んでるは違う! そもそもボッチが可愛そうなどと思うならBLの噂など流して二人を引き裂かない、二人が愛し合ってるならばなおさらだ。


 彼、真知界王子は私に「何時も一人で昼ご飯の僕に気を使ってくれたんだよね、幼なじみのよしみで……」とかハッキリ言われたことがある、勘違いもはなはだしい、愛だ、愛ゆえにお弁当をみついでいる、毎日毎日朝早く起きて栄養のバランスと「津多絵姫子は可愛いお弁当を作るんだな」の融合弁当だ。


 そして私は叫ぶ。


 「真知界王子がボッチなのは女子が牽制しあってるからだ! 女子の醜い足の引っ張り合いと紳士協定がこのクラスに一人のボッチを産み出してしまっているんだ! 真知界王子君可愛そう! でも私だって幼なじみのアドバンテージがなければイジメにあうくらいのリスクをおかしてお弁当を渡しているんだ! だから気づいて私のLOVE!!!!」


 私は真知界王子の勘違いを知ったときそう心の中で叫んだ、そしてこれではバレンタインデーにチョコレートを渡したときの二の舞三の舞になる、



「悪いな気を使ってもらって」



 とかなったのも当たり前だ、中学のバレンタインデーとき手作りチョコレートを渡したときは「なんだ? 格好つけて、ツンデレか? じらしやがって私のリスクも考えろ♪ 大好き♪♪」とか結構な余裕かまして思ったが、こいつ自己評価が低すぎる! 否、卑屈すぎる!!



 真知界王子はモテていた。



 彼の自己評価と違い私は、否、女子達はその少し目にかかる黒髪とその影のある細身の顔だち、身長こそ低いもののバスケットボールで見せるその身体能力の高さとセンスの良さ、去年の成績が悪く県大会において全国制覇した強豪校(圧巻の強さ)に一回戦で破れはしたものの誠翼さえ怪我をしなければ負ける筈は無いとまで言われたほどの実力。


 真知界王子の親友、誠翼(BL疑惑あり)は「王子の翼」と呼ばれ真知界王子がドリブルとパスワークで相手チームを置き去りにするために真知界王子のパスコースに常に居て煌めく真知界王子をサポートすると共に必ずシュートレンジでフリーの味方にパスを通すか、自ら持ち込みトリックプレイで相手選手を翻弄してシュートを決める逸材であり、スリーポンイントシュートを軽々決める青春あおはる高校の王子様、真知界王子と出場していれば「必ず全国取れた!」と全校生徒が、全教員が、否、プロチームのスカウトまでもそう言って隠さないほどだった逸材で彼さえ居れば真知界王子は無敵だった、だった筈(バスケットボールは一人では出来ないのだ……)。



 真知界王子のスペックは派手に高い!



 そもそもこの高校からして出来るやつ入る系のモテ高なのに真知界王子は私が「あっ、この高校の制服可愛い♪」と言った一言を聞いて「姫子さんはこの高校行くの? だったら僕も!」と勘違いした挙げ句あっさり推薦で合格を決めしまい私は必死に勉強をして勉強をして勉強をして入らざるおえなくなったという逸話があるほどだ。


 そして真知界王子は自分が私に付きまとってメイワクなんじゃと勘違いをさらにこじらせていた、付きまとってるのは私!



「ぐぬぬぬぬ、誰にも渡さん! このハイスペックボーイは、真知界王子は私のものだ、私の幼なじみで恋人(妄想)そして将来の結婚相手だ!!」



********************



 津多絵姫子の方が大概だった。



********************



 日曜日、二人は買い物に出掛ける。



「ごめんね王子君、つきあわせちゃって」

 津多絵姫子の言葉からは苦渋の念がにじみ出る。


「いいんだ姫子さん、僕なんかで役に立つんなら荷物持ちでも何でもやるよ」

 真知界王子の下っぱ意識が酷い。


「王子君、ショッピングはあとでするからまず映画につきあってよ、荷物かさばっちゃうし」

 津多絵姫子はデートの既成事実を作りクラス、否、全ての女共にマウントを取るかまえだ。


「でも姫子さん、勘違いされたら……」


「いいわよ王子君、気にしないで」


 勘違いしてるのはお前だ真知界王子、津多絵姫子は愛してる! これはデートだ! あいびきだ! みんなこれをデートだと思え! これは津多絵姫子が真知界王子を自分の男だと勘違いさせるための策略だ!! 



「うん、ありがとう姫子さん誘ってくれて」


「いいよ王子君、私も誘えてよかった」



 街を歩く二人はほかの人からは付き合っているように見えるだろう、でも付き合ってなどいないのだ、真知界王子のネガティブ勘違い思考をなんとかしないかぎりどうにもならないと津多絵姫子は思った。



「手を繋ぐのは僕が迷わないため?」


「………………………………(怒)」



本当にどうにもならないと津多絵姫子は思った。

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