第35話 決勝戦スタート
「約束は覚えているな、シド!」
「あんたが勝ったら俺は今後一切アリスに近寄らないだっけ?」
「そうだ。ついでにもう一つ付け足そう。私が勝った場合はこの学園を辞めてもらう!」
「はいはい、もうなんでもいいよ。なんなら死んでやってもいいぜ?」
何かもうこいつめんどくさい。
「な、なに!?」
「俺が負けたらな。ちなみに聞くけど俺が勝ったらお前はどうするんだ?」
「あり得もしないことの話をしても意味がないだろう」
自分はリスクを背負わない。いかにも貴族って感じだ。自分を上等なものだと思い込んでいる。気持ちが悪い。
「おいおい、さすがにそれは通らないだろう。こっちは命かけてんだぜ?」
「ちっ!平民の分際で偉そうに!まあいい。何か欲しいものでもあるなら言ってみろ!」
「じゃあお前の命を貰う」
「はぁ?」
「ほら契約を結べよ」
「公爵家の私の命を欲しがるなど身の程を知れ!」
「怖いなら怖いとそう言え。そうしたら契約を結ばないどいてやるよ」
「ふふふふふ!そういう魂胆か!本当に恐れているのはお前であろう!お前こそそうやって契約から逃れようとしているのであろう!」
「だったら結べよ」
「はぁ?」
「はぁ?じゃねぇ。契約を結べ。命かけろよ」
「なぜお前のような平民の言うことを聞かなければいけない!」
「おーい!公爵家のセレスさんは俺に負けるのが怖くて契約を結ぶのを拒んでいるんだが、学園の皆さんはどう思う!?」
突然大声を上げた俺に周りの生徒たちの視線が集まる。
「貴様!こんなことをしてどうなるかわかっているのか!」
「だから命かけてやるって言ってんだよ」
「くっ!」
「ビビってんじゃねーよ」
「後悔するなよ」
歯を食いしばりながらセレスが俺を睨みつけてくる。それをさらに煽るために笑みを浮かべる。
「いい顔だ。小物っぽさがよく出てるぜ」
「こ、殺してやる」
顔を真っ赤にしたセレスと再び契約を結ぶ。おそらくあいつはもうまともな判断ができていない。まともな判断が出来なくても普通こんな試合に命なんかかけないんだが。かなりバカなんだろう。あ、これブーメランだ。そう言えば俺も賭けてたわ。
まあ俺は命を賭ける気なんか全くないんだけども。
怒りに震えながら取り巻きと共に自分たちの控室に戻っていくセレスを見送って俺たちも控室に戻る。ちなみに俺とセレスが言い合いをしているときマーナは売店の食べ物を買い占めていた。全く興味がなかったんだろう。
俺とマーナが控室で買って来た昼食を食っているとモブ3人衆がやって来た。
「ん?どうした?」
「あの、えっと、まさかAクラスに勝てるなんて思ってなかった」
「最初っから諦めていた。だからAクラスの連中に会った瞬間に降伏しちまった」
「もし、もしも次の試合も勝とうと思ってるなら、俺たちにも協力させてくれ。俺たちは何をすればいい?」
予想していなかった申し出に思わず笑みがこぼれた。
「いいね。じゃあまず名前を教えてくれ。俺はシド、横の眠そうなのはマーナだ。いや、名前だけじゃない。お前たちのことを教えてくれ」
*
『SクラスとDクラスは所定の位置についてください。5分後に試合を開始します』
Sクラスの代表はセレス、アリス、エンリ、ミル、ゴウズの5人だ。
一方ウチのモブ3人衆改め、ベス、モス、ネスの3人は俺の指示通りに動いてくれた。3人ともそこまでの戦闘能力はなかったために危なくなったらすぐに降伏するように言った。ただどこでいつ遭遇させるかで戦況は大きく変わる。
Sクラスの連中の動きを予測するのは簡単だ。なんてったって5人中3人が知り合いだからな。故に遭遇する場所と遭遇するタイミングを思いのままに操作するのは楽だった。
というかアリスもミルもエンリもあのリーダーの言うことなんて聞かないだろう。間違いなく勝手に動く。
そして今ベスに引き寄せられたミルが俺と向かい合っていた。今頃モスがおびき出したエンリとマーナがぶつかっているころだ。
「やったの!ミルが一番乗りでお兄ちゃんに会えたの!」
「俺も会えて嬉しいよ、ミル」
「じゃあお兄ちゃん!ミルとバトルなの!」
「本当に俺とバトルするのか?」
「うん!オラわくわくすっぞ!なの!」
「今ここで降参してくれたらインド軒のカレーライス極盛りを好きなだけ食べさせて―
「降参するの!」
ミルは食い気味で降参した。それはもう清々しく。
エンリはマーナに任せた。おそらく二人にとって有意義な戦いになるだろう。
さて俺はさっさと大将の首を獲りに行くか。一端の貴族のロールプレイをしたくて堪らないあいつの居場所なんて簡単に予測できる。というわけで俺はさっさと大将の首を獲りに行く。
「な、なぜお前がもうこんなところに!?」
「いや、いろいろいかにもな小屋が見えたからな」
隠れようと若干は思ってるのかもしれないが漏れ出してる貴族感が酷かった。
「よくわかったな」
ああ、やっぱこいつバカだな。
「よう、貴族さん。お前負けそうだぜ?」
「ふざけるな!Dクラスぐらい私一人で葬ってやる!」
「あ、そう。てかそろそろまずいな。あんまりお前に構ってる時間ないわ」
―火炎装―
「へ?」
俺は炎を纏う。そして一瞬で黒焦げにする。更に近くで控えていたであろうセレスの側付きの男ゴウズもついでに燃えた。
ドゴン!
そして俺の前に本当のラスボスが降り立つ。
「シド!やっと見つけたぜ!」
アリスである。
「ちなみにアリス、ここで降参してくれたら高級焼き肉店で好きなだけ肉食わしてやるけど?」
「それならシドに勝って焼肉も奢ってもらうぜ!」
「やっぱお前ならそう来るよな」
「ああ!俺はいつだって両取りだぜ!」
目の前のアリスはとても楽しそうな顔をしていた。アリスは本気で来るだろう。確かにアリスは身体能力は低く攻撃手段も特にない。だが決して弱いわけじゃない。
アリスは数多くの無属性魔法を何も気にせず使いまくれる魔力量があり、そして異なる無属性魔法を混ぜ合わせることも出来る。そんな魔術師なんて聞いたことない。さらにアリスはバカだが、実戦においてはバカじゃない。むしろ頭がいい。要するにめちゃめちゃ手強いんだ。
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