第34話 決勝戦迫る

今回の対抗戦は一クラス代表者5人のチームで戦う。勝利条件は単純。全員を戦闘不能にした方が勝ち。ただ戦闘不能と言っても一人一人に降参が認められているし、現に本当に戦闘不能になった者など今のところいない。上位クラスの生徒と対面した時点で下位クラスは碌に戦いもせずに降参したからだ。だから今のところこの対抗戦は戦いでも何でもない、出来損ないの鬼ごっこのようなものだ。




ちなみにウチの代表5人は俺とマーナとあとは名前も知らない3人。他のクラスはどうか知らないが、Dクラスで代表になりたいというものはいなかった。どうせ恥をかくだけだからだ。つまり俺とマーナ以外の3人は押し付けられただけ。やる気なんかない。一刻も早く帰りたいだろう。まあ帰らせないけどな。




「シド、どうする?」




「てかお前今日は珍しく起きてるな」




「ん?」




「ありがたいけどな。お前がいないとさすがにキツイ。他の3人はおそらく一試合目みたいに敵に会った瞬間に降参するだろうから」




「作戦は?参謀!」




こいつ結構ノリノリだな。いつも通りの無表情だがどこか楽しそうだ。




「作戦なんかない。全部倒して終わりだ」




「、、、はぁ。盛り上がらない。作戦が欲しい。喉から手が出るほど欲しい」




「ま、まあ最初は気配を消しながら他の3人達を尾行する。連中は敵に会ったら降参する。ならその瞬間に俺たちで敵を討つ。それだけで少なくとも3人潰せる」




「それそれ!そういうの!」




「あ、これでテンション上がるんだ。とりあえずモブ3人のうち2人は一緒に行動させる。この2人は俺が追うからもう一人はお前が追ってくれ」




「わかった!それでその後は!?その後は!?」




めちゃめちゃワクワクした顔してんな、こいつ。でも正直ここからの作戦はないんだよな。




「えーっと、作戦通りに事が運べばあとは2対2だ。俺はその時近い方をやるから、お前はその時近い方をやるんだ!」




勢いで言ってみたけど作戦でもなんでもねぇな。




「なるほど!作戦了解!」




あ、こんなんでいいんだ。こいつにとっての作戦って何なんだろう。まあいいか。ノリノリだし。




「じゃあ行こうか、マーナ一等兵!」




「お任せを!シド少佐!」




入り込んでるな。マジこいつに一体なにがあった。でもまあそれは一旦置いておこう。スタートだ。






『Aクラス対Dクラス対抗戦、開始!!!』






始まってすぐにウチのモブたちはAクラスの連中と会敵する。そしてモブたちは食い気味で降参した。逆に清々しい連中だ。そして予想通り。




まずはAクラスを2人戦闘不能にする。




マーナの方も心配はいらないだろう。何せあいつは単純な戦闘能力だけならアリスさえ凌ぐだろうから。








マーナ・ガルズ




魔力総量 10000000


有効魔法範囲 100


属性 無




スキル


身体強化魔法 極


隠蔽魔法 極


月を飲み込む狼






アリスに言うと怒られそうだから王都でこっそりと買っていたものがある。『鑑定の目薬』だ。一滴たらせば一時間ぐらいは他人のステータスを見ることができる。かなり高価だったがアリスがいない時には必要になるから買っちった。




というわけでマーナのステータスは知っていた。魔力量は高いが魔法の数は少ないし魔法の効果範囲も狭い。基本この世界ではどこか一つに欠陥があると無能の烙印を押される。だが強さはまた別のところにある。マーナは間違いなく強い。少なくともAクラスには負けない。寝ぼけていても。




そんなことを考えていると俺の方に次の相手がやって来た。




「DクラスのあなたになぜAクラス2人がやらるんですか?」




勿体ないと思っていたイケメンだ。




「どうせ汚い手でも使ったと思ってるんだろ?」




「いえ、あなたはそういう人には見えません」




「へぇ」




思っていた感じとは違う男のようだ。なおさら勿体ない。




「一つ聞きたい。貴方は私を勿体ないと言った。私でもSクラスの生徒たちに勝てると思いますか?」




「思うね」




「・・・」




俺が迷うことなく答えると、彼は驚きの表情で固まった。だがその目はだんだんと光を宿していく。強い光だ。




「自分のステータスは理解してるんだろ?」




「はい」




「そして俺のステータスも見えてるな。ならこの学園で教わったことなどすべて忘れて俺に勝つためだけに戦え。自分の力を駆使してな」




「やってみます」




「じゃあ行くぜ」




「はい」






―火炎装―






俺はいつもの様に自分を燃やす。






―氷結装―






一気に周りの気温が下がり始める。そしてワイズは氷の鎧を纏う。こいつのステータスは俺によく似ている。だから他人事のようには思えなかった。そして口では分をわきまえているようなことを言っているが、本当は諦めていない。それはステータスだけでなくこいつ自身を見ればわかる。






ワイズ・フリーズ




魔力総量 10000000


有効魔法範囲 0


属性 氷(水+風)




スキル


氷結耐性 極




エクストラスキル


絶対零度


凍える魔力






「すごい熱だ。私の冷気を浴びても炎の勢いが一切衰えない。貴方はそうやって戦うのですね」




「ああ、俺は焼き焦げるしか能がないからな。でも誰にも負ける気はない」




「私の氷は届きますか?この国の頂点へ」




「試してみろよ」






―絶対零度―




―日輪の炎―






圧倒的な冷気と熱がぶつかり合い大爆発が起きる。爆発が収まったころワイズはボロボロで壁に叩きつけられていた。




「がはっ!さすがです。やはり届きませんか」




血を吐きながらワイズは残念そうに呟く。




「いや届く。それをこのあと証明してやるからしっかり見てろ」






『A、Aクラス全員戦闘不能により、、、D、Dクラスの勝利です!』




マーナはちゃんと仕事をしてくれたみたいだ。











「シド!めちゃめちゃ火傷してるじゃねぇか!早くヒールをぶっかけねーと!」




試合が終わった俺にアリスが駆け寄ってくる。




「ダメだ、アリス。それはルール違反だろ。今日は敵なんだ」




「うっ!」




今にも抱きついてきそうだったアリスはその場で足を止める。




「シド!回復薬!」




逆方向からマーナが駆け寄って来て回復薬を飲ませてくれる。アリスのヒールとは違い完全に回復するわけではないがそれなりに傷は癒えた。結局アリス抜きでは丸焦げだ。せっかく覚えたんだから闘気を使ったほうがよかったんだろうけど、ワイズには炎でぶつかりたかった。




「ありがとう、マーナ。そんじゃまた後でな、アリス」




「きぃー!」




アリスは悔しそうにハンカチを噛んでいた。ちょこちょこ芸が細かいなあいつ。




Sクラス対Bクラスの試合はあっという間に終わる。そもそもBクラスに戦う意志などなかった。






『最終戦、Sクラス対Dクラスの試合は30分後に開始されます』






マーナと昼食を買いに売店に向かっていると、待ち構えていたかのように立っている男がいた。その名ももちろんセレス・メルトさんだ。はぁ、ウザい。

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