第33話 いろいろ始まる

黄金十二宮は一気に獣人国マルグを四方から攻め込んでいく。


その光景を空から眺めながらライブラは煙草に火を点ける。このままなら問題なく国盗りは成功するだろう。ある男が動き出さなければ。だからこそライブラは空にいた。自軍の動きだけでなく、その男の動向を見張るために。




そしてライブラの目は戦場に向かって意気揚々と動き出す一人の男を捉えた。




「はぁ、大人しくしてろよ。めんどくせぇな」




そう呟いたライブラは吸いかけの煙草を放り投げて、その男の元へと急降下していく。











獣人国にはあまりの強さ故に愚かな王に恐れられ左遷された男がいた。ライガーの獣人、名はイリエ・ガウル。




戦場へと向かっていたイリエの前にはライブラが立っていた。




「久しぶりだな。イリエ」




「いよいよ国盗りを始めたみたいだな、ライブラ」




「やっとな。それでお前に邪魔されると面倒だから一応会いに来たんだが」




「別にどうでもいい。頭が誰に変わろうと。俺はただ『国のため』って殺人許可証が欲しいだけだ」




「じゃあ黙ってみてろって言ってもお前は黙ってないんだろ?」




「ああ、今も『国のため』ってことでお前らを皆殺しに出来るからな」




「というわけで俺はお前の足止め役だ」




「止めてみろよ」




イリエの魔力が噴き出し紅い紋様が全身に浮かび上がる。




「通ってみろよ」




ライブラからも魔力が噴き出す。ライブラは白い狼の獣人。その白い毛に紅が混じっていく。




「ガチでやるのはいつぶりだ?」




ギラギラした目で楽しそうにイリエが言う。




「忘れたな。どうせ俺の全勝だ」




「ははは、やっとお前に借りを返せるぜ」




「出来もしねーことを言うんじゃねーよ。だせーぞ?」




「じゃあ体で分からせてやるよ!」




2人は共に孤児であり同じ施設で過ごした。だが二人の仲が良かったわけではない。なぜなら二人とも狂っていたから。




同い年で同じ時を過ごした。本当なら親友になっているようなものだが、2人は違った。互いにそんなものを必要としていなかったから。




進む道も違った。ライブラは国を乗っ取るために黄金十二宮を作り、イリエは一番多く人を殺せるという理由で軍に入った。




イリエは幼い時から生き物を殺すことでしか生きているを実感できなかったし、ライブラはこの国では生きている実感を得られなかった。そんな互いを各々気持ち悪いと思っていたし、今も思ってる。




「やっと殺せると思うとせいせいするぜ」




イリエの全身を魔力で作られた深紅の無数の蛇が包みこんでいく。これはイリエの無属性魔法『蛇王の血判』。対してライブラの手元には魔力で作られた天秤が現れる。これはライブラの無属性魔法『運命を支配する天秤』。




イリエの身体から血に塗れた無数の蛇がライブラに向かって襲い掛かる。しかしその蛇はライブラの目の前まで来たところで無理やり90度方向転換させられる。




「ちっ!やっぱりうぜぇ魔法だな」




「お前こそ相変わらず気持ち悪い魔法だ」




「さっさと死ねよ、クソ野郎」




「今日こそ殺してやる」




この二人の戦いは今回の歴史的なクーデターにおいて、全く歴史に残らない戦いだった。だがこの戦いの勝敗はこれからの世界において重要な意味を持つことになる。











一方マルグ魔術学園では1年生たちのクラス対抗戦が始まろうとしていた。Sクラス以外のクラス代表たちがくじを引きトーナメント表が埋まる。Sクラスはもちろんシードだ。




場所は学園の裏山。山全体は学園に所属する術師たちの結界で覆われていた。








一回戦を端から言っていくと、第一試合はBクラス対Cクラス。Sクラスのシードの下だ。




そしてもう一つの一回戦はAクラス対Dクラスである。




「初戦はAクラス、次はSクラス。割と最悪なくじ運」




「いやSクラスのシードの下に入らなかったんだから最悪ではねーだろ」




「言われてみれば。ではこのくじは公正だった?」




「そりゃそうだろ。連中は番狂わせが起こるなんて微塵も思ってないんだから」




まずは第一試合Bクラス対Cクラスのが始まる。もちろん勝ったのはBクラス。Cクラスは悔しがる様子もなく、Bクラスはもう大会が終わったような顔をしていた。こいつらも全員上のクラスに勝てるとは全く思っていなかったようだ。だからこの対抗戦とはただの形式的なもの、上下関係を今一度明確にするものであると捉えているのだろう。




そしてすぐにAクラス対Dクラスの試合が始まる。




「こんな茶番はさっさと終わらせてしまおう。なぜSクラス首席殿がこんな大会を開催したのかはわかりませんが、所詮結果は見えています」




なんか優等生っぽいイケメンがさわやかに言ってくる。まあ言いたいことは分かるんだけど、なんかイラっと来るんだよな。なんでだろ、ああイケメンだからだ。




「大丈夫、シドもそこそこイケメン」




「こんな時だけ気を使ってこなくていーよ。むしろ今こそ寝とけよ」




それはそうとこのイケメン勿体ないな。




「なあAクラスのイケメン。お前もSクラスには勝てないと思ってんのか?」




「当たり前です。魔法の実力順にクラス分けされているのですから」




「そうか。やっぱりお前もったいないよ」




「え?」




「俺はシドだ。お前名前は?」




まあ知ってるけど、こいつの口から聞いてみたかった。




「ワイズ・フリーズです」




「そうか。なら俺が見せてやるよ。力の使い方を」






『それではAクラスとDクラスは所定の位置についてください』


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