第31話 アリスとシド
朝になって俺が目覚めると俺の両脇にはアリスとミルが眠っていた。きっとまた二人が看病してくれたんだなと思った。
死を意識したからかもしれないが二人がとても愛おしく思えた。気付くと俺は2人の頬にキスをしていた。
「むにゃむにゃ、もう食べられないという感覚がわからないの~」
ミルは気持ちよさそうに眠っている。そして反対側のアリスは、、、ん?アリスの顔ってこんな赤かったっけ?
「もしかしてアリス起きてる?」
「し、シド!いきなりチューするなんて!結婚にはまだはえーんじゃねーか!?いや別に今すぐしても俺は構わね―んだけどよ!でも俺そう言うのはまだよくわかんねーし。でもでも俺は絶対にシドと結婚するから!それは絶対に決まってるから!だからその別にいいと言えば、いいのであるが、、、」
モジモジしながらあたふたしているアリスが可愛すぎて気付くと抱き締めていた。
「こ、子作りなのか!?すぐに、この勢いで子作りなんだな!勢いは大事だもんな!だ、大丈夫!任せろ!こちとらお前のチンコなんか見慣れてるんだ!チンコなんて怖くねーぜ!ど、ドンと来やがれ!ドンと、、、ぷしゅう~」
茹蛸みたいになったアリスはそのまま目を回して倒れた。本当に愛おしい。だけどチンコチンコ言わないで欲しい。それについてはあとで注意しておこう。
ミチコさんに聞いた話では、さすがのDクラスもそろそろ授業が始まるらしい。気付くと季節は夏に変わっていた。
*
時間は少し遡り、場所は獣人国ガルズ。メメにしてやられたレオン・ハイレインが帰還していた。レオンは王の元へ行く前にスラム街にある廃墟に来ていた。
「やられたみたいだな。レオン」
そこには11人の獣人たちがいた。その一番奥に腰かけている黒ずくめの不吉そうな男がレオンに声をかける。
「悪い」
「いや、こんな戦争どうでもいいさ。そんなことよりもお前退けたメメってやつはどんなだった」
「相当だ。お前と張るかもしれない」
「おい、獅子。ライブラ様には敬語を使いなさい!」
ライブラの横に立っていた眼鏡でスーツの女が一歩前に出てレオンに噛みつく。
「ライブラが俺たちのリーダーだってことは分かってる。だからって敬語を使わなきゃいけないなんて決まりはねーだろ。てか敬語使ってんのってお前だけだろ」
「ちっ!」
レオンの表の顔は獣人国の将軍だが、彼にとって王への忠誠心など一切ない。彼が最初から最後まで所属するのはこのテロ組織『黄道十二宮』だ。黄道十二宮の目的は獣人国ガルズの裏からの支配。レオンはそのために王国軍へ潜入している。
黄道十二宮は皆このスラム街で育った幼馴染だ。そしてあることをきっかけに獣人国を王族から強奪すると誓った者たちでもある。
「ライブラ、天秤はどう傾いている?」
白のスーツに身を包んだ背の高い男がライブラに尋ねる。彼の名は白羊宮のリースだ。
「天秤は揺れている。獲るなら今だ」
「始めるのか?」
目を瞑り黙って座っていた巨体の男が目を開く。
「サジー、起きてたんだ。寝てるのかと思った!」
「茶化すな。キャップ」
メンバーたちのやり取りを眺めながらライブラはゆっくりと立ち上がる。
「さあ、国盗りだ」
シドたちがマルグに潜入して学園に通いだしたころ、ガルズでは水面下でクーデターが始まろうとしていた。
*
「えーっと、長く休講が続いてしまいましたが、今日から授業スタートです!」
担任のメイコ先生だ。ドジっ子っぽいキャラで登場したのにこの人も随分のあいだ出番なかったな。是非とも頑張って欲しい。
「シド、あの人誰?」
「そうか、マーナは初日がっつり寝てたもんな。あの人はDクラスの担任教師だ」
「すー、すー、すー」
「わかってたから!そうくるって分かった上で敢えてお前に答えたんだからな!」
「シド君!授業中です!静かにしてください」
「は、はい」
授業の内容はこの学園に入学できたなら誰もが知っているような当たり前のことだった。メイコ先生は一生懸命授業をしているが真剣に聞いている者は誰一人いない。見ていて少し不憫になるな。そしてマーナはずっと寝ていた。
「シド、お昼の時間」
「お前なんで飯の時間だけはしっかり起きるの?」
俺とマーナは食堂でポツンと二人だけで並んで座っていた。他のクラスは午後から外で実習訓練らしいから昼は弁当を買って訓練先で食うらしい。Dクラスはそんな必要ないけどまあなんか誰も来てないみたいだ。
俺たちが新作激辛定食の到着を待っていると、遠くから声が聞こえてきた。
「俺も一緒に食うぞー!!!」
「ミルもミルも!なの!」
「二人ともお待ちください!」
もちろんアリスたちだ。
三人も同じテーブルに腰かけ、注文を済ませる。
「お前たちSクラスは午後から実習だから今のうちに移動しとかないと間に合わないんじゃねーのか?」
「実習先は一通り行ったからな!俺の転移魔法で一瞬だぜ!」
「そっか、アリスだもんな」
「そういうことよ!」
皆の料理が届き、食べながら午前の授業について話をする。うん、やっと学生っぽい。
「へぇ!シドのクラスはそんな授業やってんのか!てかそれって聞く意味あんのか?」
「まあないな。こいつもずっと寝てたし」
マーナは黙々と飯を食っている。こいつ飯食ってる時が一番機敏だな。
「だってマーナには特に必要ねぇだろ、そんな授業」
当たり前だろと言った顔でアリスが答える。
「ん?」
「そんなことよりシドお兄ちゃん!聞いて聞いてなの!ミル、今日一番を取ったの!」
「マジかよ!すげぇじゃん!何のテストだ?」
「ききポーション対決なの!」
「なにそれ?」
「ポーションを飲んでそのポーションの性能を当てるというものなのですが!ミル様はどこの蔵で作られたかまで全て正確に答え、皆さんの度肝を抜いていました!」
若干興奮気味にエンリが言ってくる。
「う、うん。そっか。ミルよくやったな!」
「お兄ちゃんご褒美になでなでしてなの!」
「はーい、よしよし」
「むふふふ~なの~」
ポーションが作られた蔵を当てられることがこれから何の役に立つのかはわからないが、それでも一番をとることはすごい。褒めて上げなくては。
「し、シド!俺も魔法実技で一位になったぜ?」
アリスがモジモジしながら頭を俺の方に向けてくる。かわいい奴め。
「さすがアリスだな。よしよし」
「な、なんだよ!やめろよ!照れくせーだろ!」
そう言いながらもニコニコしているアリスが可愛くて少し意地悪したくなる。
「じゃあやーめた」
「おい、やめたら殺すぞ?」
ゴゴゴゴ
凄まじい圧でアリスが俺を睨みつけてくる。
「や、やめるわけねーじゃん」
「しょ、しょーがねーなー。もっとやっていいぜ!」
どういうツンデレ?これ。
「し、シド様!私も剣の実技で―
「ん?」
「い、いえ!何でもないです!」
エンリはなんか恥ずかしそうにしている。そしてこの流れだとと思って横を見てみた。
「すー、すー、すー」
「まあわかってたけどね。今回もお前の寝息で落ちるってことは」
ギン!
そんな楽しい昼時に突如殺気のようなものを感じた。いや殺気とまではいかないかもしれない。だが間違いなく俺に向けられた強い負の感情だ。そんなものを感知できる魔法は俺にはないが、闘気を会得してから感覚が鋭くなり自分に向けられる敵意に関して敏感になった。俺たち以外でこの近くにいる人間は食堂の人たちだが、彼女たちのものじゃない。すぐにその気配は去っていったが、確かに誰かに見られていた。
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