第29話 アリス抜きでの戦い方

入学式のあとは午後から授業が始まる予定だったが、Dクラスだけ帰宅を命じられた。授業初日からDクラスに構ってられる暇はないらしい。よくよく聞くと時間割は同じでもこうした授業の急な中止は多いらしく、結局毎年Dクラスは半分以上の授業が中止になるという。教師陣もDクラスを指導しても意味がないし、生徒も卒業できればいいだけだなので暗に両者の利害が一致している結果なのだろう。




「はぁ」




「どうしたんだい?溜息なんかついて」




「お、ミツコさん、ありがとう!」




1人だけ寮に帰って来た俺は昼食を取ろうとまんぷく食堂に来ていた。今日頼んだのは『全身を地獄の業火に焼かれた方がまだマシ激辛定食』だ。




「さすがにこの学園のクラス至上主義に辟易してさ」




「わかるよ。だがこれはこの国だけじゃない。世界中さね。私はそうは思わないけど。魔法とは強さの一端に過ぎない」




「え?」




それから学校へ行く時間より寮の食堂へ通う時間の方が長くなっていった。同じく暇なマーナもついてくるようになった。




やることのない俺たちはまんぷく食堂に入り浸り、毎日『全身を地獄の業火に焼かれた方がまだマシ激辛定食』を食べ続けた。




「作った私が言うのもなんだけど、あんたたちよく毎日こんな辛いもの食べられるねぇ」




「問題なし。ミツコさん、これはとても美味。そして辛い物を食べている時だけ私は現世に存在できる」




「いや、お前はただ辛いもんの刺激で眠気さめてるだけだろ。かっこよく言うな。てか本当に授業ないんだな。入学してからまだ一回もないぜ」




「入学当初はSクラスやAクラスが学園生活のスタートをスムーズに切れるかの大事な時期だからねぇ。毎年Dクラスの授業スタートは夏ごろからだよ」




「マジかよ」




「というかDクラスの生徒たちはそのことを知っているから入学式が終わったと同時に一旦里帰りをしているよ。てか残ってんのってあんたら二人ぐらいじゃないのかい」




「だからこの食堂はいっつも俺たち二人だけなのか」




「そもそも授業がある生徒たちは基本お弁当を買って行くからね。食堂に人が集まるのは朝食の時と夕飯の時だよ」




「そうなんだ。それにしても暇だなぁ~。なあ、マーナ」




「むにゃむにゃ、もう食べられない」




「お前現世に存在できる時間みじけーな」




「そんなに暇なら私が稽古でもつけて上げようか?私も仕込みが終われば夕飯時まで暇なんだ」




「それはありがたい。ミツコさん。あんたはこの学園で見た誰よりも強そうだ」




そうずっと気になっていた。入学式に出てきた学園長や教師陣、Sクラスの先輩たち誰を見ても脅威には感じなかった。だがミツコさんだけは違う。




「まあ魔法は得意じゃないけどね」




「だが強い」




それは確信だ。ミツコさんはおそらく世界でも有数の強者だ。初めて勝てないと本能が言っている。




「じゃあ裏に行こうか」




厨房の裏口から出ると少し広めの庭があった。芝の禿げ方を見て日々ここで誰かが鍛錬しているのが見て取れた。もちろんミツコさんだろう。




「とりあえずかかっておいで。辺り一面を燃やすのは勘弁だけど、それなりになら燃えてもいいよ」




「ミツコさん、俺の魔法知ってたのか?」




「私が唯一使える魔法が鑑定魔法でね」




「シド、気を付けた方がいい。この人ヤバい」




「なんだ起きてたのか、お前」




いつの間にか後ろにいたマーナが俺の袖を引っ張ってくる。




「私も使えるから。鑑定魔法」






ミツコ・マンプク




魔力総量 100


有効魔法範囲 100


属性 無




スキル


鑑定魔法


闘気


闘神化


鬼神化








「お嬢ちゃん使えるんだね。でもまあ私も全力は出せないよ。まんぷく食堂を吹き飛ばすわけにはいかないからね。だから軽い手合わせって感じだから安心しな」




「それならいい」




そう言ってマーナは俺の袖を離してくれた。




「じゃあ行きますよ」




俺は当たりを燃やし尽くさない程度の炎を纏う。同時にミツコさんはシンクのオーラを纏いだした。




「かかっておいで」






・・・






「、ド、、ド、シド!シド!」




「はっ!」




マーナに呼ばれて目が覚めた。目の前には心配そうにしているマーナ。そしてその奥にミツコさんの姿が見えた。




「マーナ、ありがとう。もう大丈夫だ」




「すー、すー、すー」




あ、もう寝てた。




「ミツコさん、あんた思ってた以上に強いな」




「まああんたが本気で炎を纏えばこうはならなかっただろうけどね」




「いや、あんただってまだ本気を出してないだろ。てかさっきの赤いオーラは何だ?」




「あれは闘気。魔力とは逆の力さね」




「なによりもあんな動きを俺は見たことない」




「魔術が主流になって廃れた武術というものだよ」




「武術?てか魔術って?」




「昔は魔法のことをそう呼んだんだ。私の武術は摩天流と呼ばれるものさ。要するにどれだけ小さな動きで攻撃を当て、攻撃を避けるか。そしてどれだけ小さな力で最大限の力を発揮できるかを追求したものだよ。あんたには必要な力だと思うがね」




「その通りだ。ミツコさん、俺にそれを教えてくれ!」




「そのつもりさね」




「恩に着る。ミツコさん!」




「だけど今日はもうここまでだね。そろそろ夕飯の閉業が始まる。この続きはまた明日だね」




「はい!」




その日は久しぶりに疲れたからすぐに眠りについた。




翌日からDクラス以外の学園生たちが授業を受けている間、俺はミツコさんの稽古を受けることとなった。




「むにゃむにゃ。もうシドは食べられない」




「どんな夢見てんだよ!こえーわ!」




マーナも毎日一緒に来た。まあほとんど寝ていたが。




「シド、あんたの炎はすごい。だが見たところ今のあんたの火耐性じゃ回復魔法をかけ続けてもらわないとある温度を超えるとあんた自身が燃え尽きてしまう」




「その通りだ」




本当にその通りだ。何日か稽古を受けてはっきりとわかった。気付いてはいたが俺はアリス抜きでは力の半分も出せない。




「あんたの火耐性は強だが、耐性ってのは強から一気に成長しづらくなる。私が知ってる範囲では強の後に極があるが、そこに辿り着くにはまだまだ時間がかかるだろう。だからあんたは闘気を覚えた方がいい」




「確かに」




「闘気は身体能力を何倍にも引き上げるからね。ただそのかわり魔力と同時に使うことはできない。つまり闘気を纏った状態では燃えることはできないってことさ。それでも―




「それでも今の俺には必要だ。教えてくれ!ミツコさん」




「もちろんそのつもりだよ」




魔力とはこの世界で無限に溢れるだす魔素を取り込んで自分の力にするものらしい。故に魔力総量とはどれだけ魔素を取り込めるのかということ。ミツコさんが言うには魔力総量とは胃袋の大きさみたいなものだと言った。人それぞれ食べられる量が違う。そして許容量を超えて食べれば吐き出してしまう。




逆に闘気とは誰にでもある生命力に方向性を持たせて力にするもの。生きるための力を全て闘うための力にするのだ。長時間は使えないが、それでも強大な力となるだろう。




「じゃあ今日から炎は禁止。魔力なしでかかって来な」




「おっけー」




闘気を纏うための修行が本格的に始まった。そしていつも以上にボコボコにされた。

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