第28話 SクラスとDクラス
一緒に帰ろうとしていた時に教室に飛び込んでくる奴がいた。
「シド!一緒に帰ろーぜ!!!」
もちろんアリスだ。
「おう、アリス。一緒に帰るか」
「ああ、ってお前の横にいる女は誰なんだよ!この浮気者クソ野郎!」
アリスのドロップキックが俺の顔面を捉える。運動神経ないくせに俺への攻撃ではアクロバティックなことをやってくる。
「落ち着け!アリス!俺は浮気なんてしてないぞ!だよな!マーナ!」
「すー、すー、すー」
「もう寝てんのかよ!アリス、信じてくれ!俺は浮気なんかしてない!」
「ああ、わかってるぜ!」
「へ?」
「お決まりのパターンってやつだ!面白かったな!」
アリスは楽しそうに親指を突き出してくる。俺は痛かったんだけど。というか元気が有り余ってる感じだ。学校で黙って座ってるだけってのはアリスのような元気っ子には不完全燃焼だったのかもしれない。でもまあ何事もなかったようでよかった。
「お兄ちゃん!一緒に帰ろうなの!」
「シド様、学生寮まで護衛いたします」
少し遅れてミルとエンリもやって来た。
「まあいいや。帰るか。てかお前はさっさと起きろ!」
「も、もう食べられない?」
「だからそれはもういいって」
俺たちは寮に帰り着替えてから夕飯を食べるために食堂へ向かった。マーナだけは部屋から出てこなかった。まあ寝たんだろう。
「シド!俺はハンバーグステーキとラーメンかつ丼を頼んだぜ!」
「それってハンバーグとステーキとラーメンとかつ丼じゃないの?」
「違うぜ!ハンバーグステーキはハンバーグの上にステーキが乗っかってて、ラーメンかつ丼はラーメンの上にかつ丼が乗っかってるんだ!」
「ラーメンの上にかつ丼が乗っかってるってのがいまいちわかんねーけど。ここのメニューすげーな」
「お兄ちゃん!メルはカレーライスにカレーラーメンにカレーパフェなの!」
「やっぱりこの食堂のメニューすげぇな」
「シドは何頼んだんだよ!」
アリスもミルも楽しそうだ。
「お前たちの後だとあんまパンチ力ねーな。『内臓を焼き尽くされた方がまだマシ激辛ラーメン』だ」
「長い名前だな!」
「カッコいい名前なの!」
それにしてもこの食堂は本当にメニューが多いな。メニュー表が辞書ぐらいあった。
「ああそうだ。エンリは何頼んだんだ?」
「、、、私はトマトパスタです。不甲斐なくて申し訳ありません」
エンリがなんで謝ってるのかよくわかんなかったが、みんな注文を済ませあとは料理が来るのを待つだけだ。
料理が来るまでの時間を待ち遠しくも楽しみに過ごしていると、余計な邪魔が入った。
「アリス様、ミル様、エンリ様。そんなDクラスの出来損ないと食事を共にしては皆さまの評価が下がります。是非とも私たちと共に食べましょう」
金持ちそうな金髪の男が後ろに二人引き連れて俺たちの席までやってくる。3人ともSクラスのバッチを付けている。アリスたちのクラスメイトなんだろう。
「クラスメイトなら一緒に食べてきていいぜ。俺は一人でも―
「おい、出来損ないってのは誰のことだ」
俺の言葉を遮ってアリスが小さい声で呟く。
「そこのDクラスのことですよ。名前など知りません。Dクラスのものの名前など覚える価値もないので」
「「「はははは!」」」
三人は周りにアピールするかのように大声で笑う。
ピキピキ
なんかそんな音が聞こえた気がして隣を見るとアリス、ミル、エンリから今にでも目の前の3人を殺しそうなほどの殺気が溢れだしていた。
「殺す」
「殺なの」
「シド様、無礼者どもを殺す許可を」
何とか3人を鎮めなければと焦ったが、意外な人物がこの場を収めてくれた。
ドン!
「お持ちどう!」
2メートルを超え恰幅も相当いい巨大な女性?が料理を運んできてくれた。
「ちなみにウチの食堂で揉め事は許さないよ!」
食堂全体にまで彼女の圧が及んだ。
「ちっ!」
悔しそうにウザい3人組はその場を去っていった。
「あんたたち3人もだよ!食堂で殺気なんか出すんじゃないよ!」
アリスたちでさえも面食らってポカンとしていた。
「おばちゃんは?」
我慢できなくて聞いた。重要キャラな気もしたから。
「わたしかい?わたしはこのまんぷく食堂の店主兼料理長兼バイトリーダーのミツコ・マンプクだよ」
「いやバイトリーダーはおかしいだろ」
「この前バイトリーダーが逃げ出しちまってね!」
「バイトリーダーって逃げ出すんだ。まあいいや。ミツコさん、助かったよ。俺はシド、これからも通わせてもらうからよろしく」
「シドちゃんね。じゃんじゃん食べに来ておくれ!」
こうして初日は変な出会いがいくつかありつつ終わっていったのだった。
翌日、簡易的な入学式が開かれた。クラス分けが終わり、しっかりと各クラスのやるべきことを教えられたうえで開かれるらしい。この辺からもクラスのランクはこの学園の全てと言ってもいいのかもしれない。
「新入生代表挨拶はSクラスの首席セリス・メルト君です」
そう言われて壇上に上がったのは昨晩に食堂で絡んできた金髪の男だ。
「私がSクラス首席のセリス・メルトである。学園のSクラスからは将来この国にとって重要な人材が羽ばたいていく。だからこそSクラスは研鑽を、そして他のクラスは私たちの補助に徹すること。そうやって有意義な学園生活を送ろう!以上!」
パチパチパチパチパチ!!!!!
とんでもない挨拶だったが会場は拍手に包まれた。ここでは、いやここでもあいつの言い分が正義なんだろう。現に誰も不満を感じていたりしていない。当たり前のことなのだ。疑うことも忘れてしまうほどに。
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