第27話 眠れる狼、マーナ
今回の遠征にはアリス、ミル、エンリを連れていくことにした。荷物や食料などをアリスの収納魔法に入れ、アリスの変身魔法で姿を変え、アリスの転移魔法を使いながらマルグを目指した。
ちなみに今回どうやってマルグに潜入するかというと、メリダがそれこそ潜入していた部下たちを使ってお膳立てをしてくれていた。
「おい!シド!似合うか!?」
「ああ、めっちゃ似合ってるよ」
「シドも似合いまくってるぜ!」
「ねえねえ、ミルはミルは?」
「ミルも可愛いよ」
「私もおかしくないでしょうか?」
「エンリも似合ってる。大丈夫だ」
俺たちは全員学生服に身を包んでいた。そう、俺たちは身分を偽ってマルグ中の魔術師の卵が集まる学校『マルグ魔術学園』へと入学することになった。この学園の上層部が何か怪しげなことを行っているというのがメリダが放ったスパイが手に入れた情報らしい。そしてそれは国に黙って行っているようだった。メリダ的にはこの辺のやつらが獣人国と繋がってるってことらしい。
「てか今更学校に通うことになるとはなぁ」
「俺は楽しみだぜ!クソ兄貴たちが通ってる時からそう思ってたんだ!」
「ミルも楽しみなの」
「皆さん、今回は潜入調査であることをお忘れなきよう」
「まあいっちょ学生やってみますか!」
俺たちはとりあえず学生寮の入寮手続きを済ませ、荷物を部屋に運び込む。まあアリスの魔法があるからすぐに終わった。部屋割りは俺とミル、アリスとエンリの二部屋だ。
「なんで俺がシドと同じ部屋じゃねーんだよ!」
「お兄ちゃん同じ部屋でミルは嬉しいの!」
「一応書類上はミルは俺の妹ってことになってるからな。そんでお前らは幼馴染の二人ってことになってるみたいだぜ」
メリダに渡された手紙というか、今回の説明書みたいなものに書いてあった。
「あと入学式前にというか明日クラス分けの試験があるらしい」
「クラス分け?なんだよそりゃ!」
「試験の出来によってクラスが振り分けられるんだってよ」
翌日俺たちはクラス分け試験を受けた。想像した通りの魔力適性を測るものだった。もちろんアリス、ミル、エンリは成績上位者10人が入れるSクラスへ。そして俺はもちろん最下位クラスであるDクラスに決まった。まあ別にいいけど。
というか一番ごねていたのはアリスだった。
「俺とシドが違うクラスなんてありえるわけねーだろ!シドがDクラスなら俺もそっちにする!」
だがアリスの意見は通らなかった。なぜならアリスの魔法の才能は『マルグ魔術学園』始まって以来のもので、そんな人間を遊ばせておくわけにはいかなかったのだ。最終的に学校をやめてハーネスに帰ると言い出したアリスを鎮めることの方が試験なんかより大変だったぐらいだ。
登校初日Sクラスに向かうアリスたちと別れ、俺は一人Dクラスの教室へと入る。中には30人ほどの生徒がいたが全員目が死んでいた。まあスタートから落ちこぼれの烙印を押されたんじゃあしょうがないか。
俺は空いている席に座る。少しすると先生が入って来た。あ、こけた。
「痛たた」
結構派手に転んだが、ポケットから絆創膏を出して膝に貼って立ち上がった。慣れた動きだった。きっと転びなれているんだろう。だってどう考えてもつまずく要素のないところで転んだからな。
「私はメイコ・メルリス。今年度のDクラスの担任を任されました!」
背丈は小学生ぐらいで少女にしか見えなかったが担任らしい。
「皆さん!今はDクラスですが、成績によってはSクラスに上がる可能性だって0ではないかもしれません!頑張りましょう!えいえいおー!」
メイコ先生はそう言って拳を振り上げたが、クラスが盛り上がることはなく。全員がバカバカしいという顔をしている。
Dクラスになったときに聞かされたが、この学校創立以来Dクラスから上のクラスに上がった者はいないらしい。CからB、BからA、AからSに上がった例は極稀にあるらしいが。だがDからCに上がった例はただの一度もないらしい。ましてやDからSに上がるなんて夢のまた夢だ。バグだ。だからこそDクラスの生徒はメイコの言葉を馬鹿らしいと溜息を吐いたのだ。
うん、まあ俺もそう思う。昨日学園内でのルールが書かれたしおりを貰ったが、一ランク上のクラスに上がるためには学園教師の半数以上の推薦が必要となっていた。魔力量・属性・有効範囲は滅多なことでは変化しない。この国でもやはりその三点が何よりも重要視されるから、いくら自分なりの戦い方を見つけて磨いても評価されないだろう。
「えっと、えっと、、、えいえいおー!」
レスポンスが全く返ってこなかったメイコ先生は気を取り直してもう一度拳を振り上げる。結構メンタル強いな、この人。
適当にオリエンテーションを済ませて初日は午前で終わりとなった。Dクラスの面々は一目散に教室を出て帰って行った。多分他のクラスに会いたくないんだろう。それでも彼らが一応通っているのは学園卒業の資格のためだ。もちろんDクラスを卒業したところで大したことはない。だがそれはこの学園の中ではということである。学園を一歩出ればマルグ魔術学園卒業という肩書は他の学校の首席卒業よりも意味がある。だからこそ彼らは他のクラスからバカにされ虐げられても必死に通い続けるのである。
一気に誰もいなくなった教室でゆっくりと荷物をまとめ帰る準備をしていると、隣に気配を感じた。
「すー、すー、すー」
うわ、ビックリした。俺の席の隣に鼻ちょうちんを膨らませながら思いっきり熟睡してるケモ耳の少女がいた。綺麗な白い髪、耳は狼みたいな感じかな。
「おい、起きろよ!授業は全部終わったぞ!」
「ん?ん?もう食べられない?」
「いやそれ聞くやつじゃねーだろ」
「もぐもぐ」
「お前には寝言があとから聞こえてくる性質でもあるのか?」
「これは失敬。起こしてくれてありがとう。私はマーナ。あなたは?」
起きたマーナは眠たそうな顔をしながら無表情で淡々と自己紹介をしてくる。なんか変な感じのやつだな。
「俺はシドだ」
「グゴゴゴゴ……。シド、貴様か?わが眠りを妨げる者は?」
「え、これってそういう展開になるの?」
「冗談」
「見た目によらず寝起きで結構攻めたボケをしてくるんだな」
「これは鉄板」
「確かに。やけにグゴゴゴゴ……の言い方が様になってた」
「それで、、、このクラスは私とあなたの二人だけ?」
辺りを見渡してマーナは首を傾げる。
「いや、いただろ!さっきまで」
「わからない。私は誰よりも早く学校に来て誰よりも早くから眠りについていた」
「、、、なんで?」
「遅刻はいけない。なら学校で寝ればいいじゃない。ということで深夜に学校に潜入しここで寝ていた」
「それにしても寝すぎじゃね?睡眠時間よりももっと他にツッコむところがあるじゃない。とか言われそうだけどめんどくさいからいいわ」
「私は眠るのが好き。そしてそんな自分も好き」
「、、、自分を好きなのはいいことだよな。オッケー、応援する、応援する。とりあえずさっさと帰ろーぜ」
「なんか投げやりだったけどまあいい。帰ろう、早く帰って寝ないと」
「ぶれないな、お前」
これが俺とマーナの出会いだった。
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