第25話 メメの戦い、そして奴隷になるシド

突如ガルズ軍の上から妖しい光が降り注ぐ。




太陽のようなそこら中を圧倒的な光で照らすものではない。闇と溶け合いながらゆっくりと浸みこんでくるような光。




「レオン様!大変です!」




レオンが眠っている部屋のテントへ焦りながらフライがやってくる。




「どうした?」




何事かと思ってテントから顔を出すレオンだったが、フライの顔を見て事の重大さを一瞬で把握した。




「被害は?戦況を伝えろ!」




「帝国軍は攻めてきていません」




「はぁ?」




「ただ我が軍が同士討ちを始めました」




「、、、はぁ。いやな予感はこれか。おそらく精神干渉系の魔法を使われたんだな。魔法にかかっているのは何人程度だ」




「、、、全軍です」




「1万の兵全てがか?」




「は、はい」




「伝説にある最大級の精神干渉魔法でさえ干渉できるのは30人程度のはずだ。、、、そうか、やられたな」




レオンは自嘲気味に笑みを浮かべた。




「しかし本当にこれが魔法などということがありえるのでしょうか?」




「現にありえているんだから仕方ないだろう。というか今までなかったものがこれからもないなんてことはありえない。出なければ世界は発展できないだろう。それよりも今はどうやってこの状況を凌ぐかだ。精神干渉を受けていないものは俺たち以外にもいるのか?」




「私たち以外で正気なのは4将軍だけです。我々は指揮官として精神干渉を防ぐ国宝級の魔道具『レジスター』を渡されていますから」




「残ったのはそれだけか」




「しかもこの魔法は依然行使され続けており、このままこの場に居続ければレジスターでも精神干渉を防ぐことはできなくなるかもしれません!」




「どれぐらい持つ?」




「あまり猶予はありません。おそらくあと30分程度かと」




「、、、そうか」




フライの言葉を聞いてレオンはゆっくりと考え込む。フライはレオンの決定を静かに待つ。彼の決定に間違いがあったことは1度もなかったからだ。だからこそ緊急時であってもフライが答えを急かすことはない。




「それほど強力な魔法なのであればこの場にいるわけにはいかない。フライ!4将軍のゾウとゼブラにも協力させて一人でも多くの兵たちを戦闘不能にしろ。コアラにはその兵たちの収納を、キリンには俺たちをガルズへ転移させる準備をさせろ!20分後には撤退する!それまでに一人でも多くの兵を連れて帰るぞ!」




「は!それでレオン様は?」




「俺は戦闘不能にするのは苦手だからな。殺しちまう。だったらせめて敵の顔ぐらい見てくる」






―獣真化―






レオンは黄金の獅子の姿となって空へと飛びあがっていく。




フライは言われた通り4将軍に指示を出し撤退までの間に一人でも多くの兵を連れて帰るために奔走する。




そしてここは空の上、レオンは宙を蹴りながらメメと向き合っていた。




「お前が我が軍に強大な精神干渉を行った者か」




「ああ、そうだ。というかいい対応だった。最適解と言える。本当なら戦争で戦ってみたかった」




「これは戦争ではないと?」




「こんなものが戦争であってたまるか」




「ではなぜこんなことを行った?納得していないように見える」




「俺の愛すべき戦争を汚す奴がいるからだ。彼を消すまでは戦争はできない。戦争はその後だ。その時は思う存分戦おう」




「今この場で俺に殺されるとは思わないのか?」




レオンの目が獲物を狩る獅子の眼へと変わる。




「お前じゃ俺は殺せないよ」




「やってみなければわかるまい!」




レオンはメメに飛び掛かりその爪で体を裂きその牙で首を食い千切った。




「ちっ!近づき過ぎたか」




レオンは悔しそうにそう呟く。そう、レオンが嚙みついたメメは幻だったのだ。




この日帝国はマルグとガルズから元王国領を奪い取りアルセウス大陸最大の国となった。






「シド!すげーぜ!やべーぜ!ぱねぇーぜ!」




アリスが俺に駆け寄ってくる。ははは、言われなくてもわかってるよ、アリス。大繁盛なんだろ?日輪亭は開店してから売り上げはひたすら伸び続けている。




「もう金数えるのがしんどくなってきたぜ!」




俺は浮かれていた。




「日輪亭が訴えられたぜ!賠償金がえーっとすげぇ多いぜ!」




「ちょっと待って。なんて?」




「だから日輪亭が訴えられたぜ!賠償金がすげぇ多いぜ!」




「なんで訴えられたんだ?」




「集団食中毒だってよ!」




「食中毒?」




「ほら!売れ残ってた海鮮をシドがもったいないからそのまま出せっていったじゃん!それがめっちゃ腐ってたらしいぜ!ウケるよな!」




なんでこんなときまでアリスは楽しそうなんだ。




「アリスはなんでそんな楽しそうなんだ?」




聞いてみた。




「シドと一緒にいられるならなんだって楽しいぜ?俺は」




何を言ってるのかわからないといった顔でアリスが答えてくる。うん、俺もだよ。いやいやそんな場合じゃない。




「賠償金いくら?」




「1000万だってよ!爆笑だよな!」




「いや、笑えねーよ!女王に言ってなんとかなんねーのか?」




「それならメルに言ってもらったけど、さすがにそれは自分で何とかしろってよ!大爆笑だろ?」




「俺たち英雄だよね?」




「それとこれとは別だってよ!爆笑!」




アリスは本当に爆笑していた。楽しそうでよかった。で、うーんとどうしよう。1000万なんて持ってかれたら今の贅沢な生活が維持できない。




「おい、アリス。裁判で勝つぞ!」




「おお!燃えてきたぜ!」




そうして俺とアリスは裁判所に来ていた。




「被告は消費期限の切れている食材を提供したとのことです!」




めっちゃできそうな女弁護士が目の前にいる。なんでできそうな奴来ちゃったんだろう。




「シド!早く反論しろよ!負けちまうぜ!」




「そ、そうだな!」




俺は気合を入れて立ち上がる。




「、、、」




うん、立ち上がったはいいものの言うことがない。だって明らかに俺たちが悪いもの。全然際どくないもの。これって争えるの?




「消費期限が切れた食材を提供したことに関してはどうお考えですか?」




「、、、えーっと、そもそも消費期限とは何でしょうか?」




ん?何言ってんだ俺。




「消費期限とは食材が安全に食べられる期間です。消費期限を過ぎたものを提供するということは毒を出していることと変わらないんですよ?」




「もっと食材の底力を信じましょうよ!なぜなら―






・・・






「ドンマイ、シド!」




うん、惨敗した。人ってこんなに見事に負けられるんだっていうほどの負けっぷりだった。




「結局1000万払わなくいけなくなっちまったな」




「ないけどな!」




「え?いや、あるだろ!儲かってたろ、ウチ!」




「だって使っちまったから!」




「ん?ちょっと待って。言ってる意味が分かんない。なんに使ったの?」




「あれ?言ってなかったっけ?二号店出したんだよ!調子のいいときはどんどん攻めて行かなきゃいけねーからな!」




「え、マジで?あの、俺に確認とかは?」




「だってシドが店は俺に任せるって言ったんじゃねーか」




「、、、うん、言った」




こうして賠償金の支払いができない俺は労働奴隷として売られた。




「早く帰って来いよー!」




アリスに笑顔で見送られながら。たぶんあの子は奴隷の意味を分かってない。絶対分かってない。




俺は魔力を封じる魔封石というそのまんまのひねりもないクソみたいな石でできた手錠をはめられ、荷馬車に揺られていた。




「おい、降りろ」




「はい」




俺は今日から鉱山で死ぬまで働くことになりました。

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