第23話 メメの亡命、そして日輪亭の開店
「メメ様!ご無事で何よりです!」
こちらは王国の外れにあるメメの領地だ。ここにはメメ直属の屈強な兵たちが待機していた。
「王国はマルグとガルズに乗っ取られようとしてるみたいだな」
「はい、王国がハーネスを攻め込んだと同時にマルグとガルズが一気に王国へ攻め込んできました。王国にはほとんど兵が残っていなかたためにあっという間に占領されました。我々はメメ様の言いつけ通りこの戦いには参加しませんでした」
「帝国も元の領地を取り戻していたな。あれはうまく使われたってとこだろう」
「メメ様これからどういたしますか?」
「俺たちはディセウム帝国に亡命する」
「え?」
「王国は終わった。なら帝国で地盤を固める。利用されて疲弊しているから取り入りやすい。位置的にもちょうどいいしな。まあ安心しろ、お前ら。すぐに戦争をさせてやる!」
「「「「「おおおお!!!」」」」」
*
戦争が終わってから1月が経った。メリダの話ではその後王国は商人の国マルグと獣人国ガルズによって占領されたらしい。領土はきれいに当分され、アルセウス大陸から国が一つ減った。
「帝国は?」
「元の領地を取り戻したらしい。そしてそこに王国から凄腕の軍師が自分の隊全てを連れて亡命しとのことじゃ」
「間違いなくあいつだな」
「それは今回の戦争で王国軍の指揮をしていたという男か?」
「ああ、アレは人に従うような人間じゃない。そして何よりも強い」
「お主よりもか?」
「さあな。ちゃんと戦ってみないとわからない」
「そこまでの強者か」
「だが連中がすぐに攻めてくることはないだろう。というか今回は王国を潰すためのダシに使われたな」
「そのようじゃのう。それでお主たちはハーネスに残ってくれるのか?」
「ああ、他に行くとこねーしな」
「それはありがたい。それでなのじゃが、お主たち日輪隊の仕事がなくなってしまった」
「はぁ!?どういうことだよ!」
「お主が天の呼び声の最下層にあった泉を干からびさせたためにもう魔物が下りてくることは無くなったのじゃ」
「、、、マジかよ」
「他の仕事を与えようと思っていたのじゃが、今のところ頼みたい仕事がないのじゃ」
「ちょっと待てよ!俺たちはこの国の英雄だぜ!見捨てるなんて言わねーよな!」
「もちろん感謝はしておる。だから3カ月は今まで通りの給料を日輪隊に出そう。だが我が国も多大な被害をこうむった。だからそれ以上の援助は不可能なのじゃ」
「じゃあどうしろってんだよ!」
「言いにくいのじゃが、3カ月の間に食い扶持を稼ぐ方法を見つけてほしい」
「おいおい、マジかよ」
*
女王と会談した後、俺は日輪隊の面々を集めてとりあえず言ってみた。
「というわけで仕事がない。何かアイデアのある者は言ってみろ!」
「シド様!私はどんな道だろうとあなたに付いて行きます!」
まずゲイルが跪く。いや、今そう言うのいらないんだよなぁ。
「他は?」
「アルセウス大陸を攻めるのはどうでしょう?」
次はエンリか。
「いやわざわざこっちから攻めてどーすんだよ。他!」
「じゃあ店でもやりますか?酒場なら大将も大好きでしょう」
そう言ってきたのはハンスだ。死にそうだった所をアリスの魔法で一命をとりとめた。だが下半身に致命的な傷をおい、もう一生歩くことはできないそうだ。元々アリスの部下だったということで車椅子をアリスが押している。うん、若干イラっとする。だがそれよりもハンスの意見に興味を持った。
「酒場?」
「はい、有事の時のために日々訓練をするのでその分の給料は貰えるんですよね?でもそれじゃあ時間が余るので酒場を経営してはどうっすか?」
「めっちゃいいじゃん!それ採用!」
そして俺たちは日輪亭という酒場を開いた。ここで驚いたのはエンリの料理の腕が相当だったということだ。
「うまっ!なんでエンリはこんなに料理が上手なんだよ!?」
「上手ですか?料理をしたのは初めてだったので嬉しいです!」
「初めて?じゃあレシピとかどうしてんだ?」
「レシピ?ですか?味見をしながら作っているだけですが、、、」
「マジか」
ここで天才が現れるのかよ。でもまあいっか。むしろ最高だ。これでウチの店も盛り上がる。でも店長も隊長も俺。
「アリス、一応聞いておきたいんだけど、もしかして俺って今のところあんまり役に立ってない?」
「全くだな!店長って肩書がイラっとするぐらいだぜ!」
本当にアリスは可愛いな。一切俺に気を使わない。本当マジで清々しい。この子は俺が鋼のメンタルで一切傷つかないとでも思ってるのだろうか。
「だからってあきらめるんじゃねーよ、シド!今のお前は確かに部下におんぶにだっこのクソみたいなゴミ野郎だけど、これからだぜ!」
「あ、ああ」
この子にはクソを付けられたゴミ野郎のダメージ量を把握してほしい。
「料理はエンリだ!接客は隊の連中!なら俺たちは仕入れだろ!」
たまにアリスは的を得たことを言う。
「ちなみにどんな感じで?」
「俺の転移魔法を使っていろんな場所にいってよう、そこで珍しい酒を仕入れたり、珍しい生き物をシドが狩ったりしたらいんじゃね?」
「お前ホント天才だな。大好き」
「な、なんだよ、いきなり!俺も大好きだっての!言わせんな!馬鹿野郎!」
「ミルも行くの!」
ミルも俺たちの元へと走ってくる。
「じゃあ、まあ、行くか!」
「「おお!!!」」
*
こんな風にハーネスに和やかな日々を流れているころ、帝国では大事な会談が行われていた。王国から亡命してきた天才軍師が皇帝に呼ばれていたのだ。
「よく来たのう。メメ」
「我らを受け入れてくれたこと感謝します。イルム皇帝陛下」
「堅苦しいことはいい。どこまで読んでの亡命だ?」
「今回の王国の暴走は仕組まれたものです。そして帝国もこのことに一枚かんでいる。しかしそこまでの見返りは貰っていない。あなた達も半分は利用されたようなものだ。今回の首謀者はマルグとガルズ。ざっくりと言うとこれが私の見解です」
「さすがだな。その通りだ。だがそこまでわかっていながらなぜ我が国に亡命してきた?」
「主導権を握られるのは嫌なんですよ」
「帝国でなら主導権を握れると?」
皇帝が不快そうな顔でメメを睨みつける。
「はい」
悪びれずにメメは答える。だがそのままメメは続ける。
「だが私は勝ちます。どんな不利な状況であろうとも。どんな強大な敵であろうとも」
「さすがだな。そしてお主は帝国に何を与えてくれる?」
「マルグとガルズがかっさらっていった元王国領を奪い取って見せましょう」
「なっ!」
皇帝はメメに特になにか求めているわけではなかった。天才軍師と名高いメメがいるだけで周辺諸国は帝国を恐れる。だから今回は体裁的に煽ってみただけだ。だがメメの返答は予想の範疇を超えていた。確かに旧王国領が手に入れば帝国の国力は跳ね上がる。だがそんなことはどう考えても無理だ。だがメメは簡単なことのようにそう言った。
そしてその3か月後、ハーネスにも知らせが届いた。アルセウス大陸で最大の領地をディセウム帝国が支配したと。
その頃、シドもまた調子がよかった。日輪亭は大繁盛していたのだ。
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