第20話 シド現着
その頃副長のゲイルは傍に2人の兵を引き連れながら、隊の再編を模索していたが、それももう無理だとあきらめかけていた。
「ゲイル副長はどうして女王様の護衛隊を抜けて日輪隊に入ったのですか?」
「間近で見てしまったからだ」
「え、何をです?」
「太陽をだ」
ある日私は護衛隊長として、ある人間を女王の前まで連れて行った。
その男は女王と対等のような口をきき、最後には燃え上がって女王に脅迫まがいのようなことを行った。
今すぐにでも殺して構わないほどの行為だ。だが私は動けなかった。その光に目が焼かれてしまったからだ。そして女王様もまた彼を処刑しようとはしなかった。
それから眠れない日々が続いた。眩しくて眠れないのだ。まぶたの裏に焼き付いてしまった。あの太陽の光が。だから私はシド様の隊へと志願した。なぜかなんてわからない。シド様がどんな人間なのかだってわからなかった。ただただ焦がれてしまったんだ。あの太陽の光に。
「もう一度あなたの光を見てみたかったです。隊長殿」
自分の命の最後の時に口から出たのはそんな言葉だった。私は人生の終わりを確信して目を瞑る。目を瞑ればまぶたに焼き付いた太陽の光が見えるから。最後に見るのはこれがよかった。
「見たいものは目を開けてみろよ」
まさか!そう思いながら恐る恐る目を開くと私の目の前に再び太陽が輝いていた。
「シド様!」
「待たせたな」
「、、、待ってなどおりませぬ!太陽は必ず上るのですから!」
私はあふれる涙越しに太陽を見上げた。
日輪隊の他の隊員たちも皆頭上に輝く太陽を眺めていた。
「シド様だ!」
「シド様が来て下さった!」
「太陽が輝いている!」
さっきまで生を諦めかけていた日輪隊が涙を流しながら口々に声を上げる。日輪隊にとっての日がやっと上ったのだ。
「アリス、ウチの隊はどうなっている?」
アリスに探知魔法で調べさせると日輪隊は半数以上が死亡していて、その中にはオールへイスとハンスも含まれていた。シドが守りたいと思ったものたちだ。
「敵将はどこだ?」
「あの船から指示を出してるみたいだな」
「わかった。助かったよ。じゃあアリス、お前はまだ生きてるウチの連中を回復してやってくれ」
「わかった!でもお前は回復なしで大丈夫なのかよ!」
「いい。久しぶりに火だるまになりたい気分なんだ」
「、、、ならしょうがねーな!燃えるだけ燃えたら俺が回復してやるよ!」
「頼むわ」
シドはアリスも見たことのないような怒りの表情で敵将がいるであろう船へと飛んでいく。
「シドが俺以外であんな顔をするのはちょっと複雑だが、俺も絶賛ブチ切れ中だぜ!やっちまえ、シド!」
突如現れたとんでもない炎の塊を見てメメもすぐに作戦を変更する。
「ユリ、逃げる準備を始めろ!」
「え?今は我らの圧倒的優位では?」
「ハーネスには切り札があるとは思っていたし、それを出来るだけ過大評価して戦術を考えた。だがそれでも過小評価だったらしい」
「あ、あれは!」
ユリもまた真っすぐ自分たちに向かってくる蒼い火の玉に気付く。自分にはどこまでの脅威かはまだ測りきれない。でもメメが退却を宣言したということはそういうことだ。すぐさま撤退を開始しなくてはいけない。いや、そうじゃない。自分たちの絶対的指揮官であるメメを生きて返さなくてはいけない。
「ここは私が!なのでメメ様は先にお逃げください!」
「いやいや、俺は退却の準備をしておいてくれと言っただけだよ。せっかくの機会だ。アレと少し戦ってみたい」
「え!?何を言ってるんですか!危険です!」
「今迫ってきてる相手はおそらくいまだ特定できていない黒幕が俺と同じぐらい排除しておきたいと思っている人間だ。しっかりと見ておきたい」
「で、ですが!」
「最後まで戦う気はない。少しだけだ。だから俺がいつでも退却できる様に準備しといてって言ってんの」
「、、、絶対に無理はなさらないように」
メメの言葉を無視して今すぐにでもこの場からメメを退却させたかったユリだったが、メメの言葉に意見することはなかった。メメの指示には二種類ある。常にそばで見てきたユリだからこそわかる違いかもしれないが。通常の指示なら誰かが反対してもちゃんとそれについて検討してくれる。だがもう一種類、絶対に曲げる気がない指示がある。いつもヘラヘラと笑みを浮かべているメメだがそんなときは決まってその笑みが若干獰猛なものに変わる。これに気付いているのは部下の中でもユリだけだ。そして今回もそう。だから反論をする気はなかった。
ユリは撤退の準備のためにメメから離れていくが逆にシドはメメに近づいてくる。そして遂にシドとメメは向かい合う。これがのちに大陸をまたにかけて戦い合う二人の初顔合わせでもあった。
「近くまで来るととんでもない熱だな。正直ここにいるだけでしんどい」
「俺の部下を随分殺してくれたみたいじゃねーか」
「戦争だしね」
「だから殺されても文句言うなよ。戦争だしな」
「俺だけじゃないだろ?」
「ああ、戦争だし王国軍を皆殺しにしてやろうと思ってな」
「さすがにそれは傲慢では?」
メメの目の色が変わる。
「そんな顔も出来るんじゃねーか」
「これでも一応軍人なんでね」
2人が睨み合っているころ、アリスとミルは走り回っていた。
アリスは重症の隊員たちを癒して回り、ミルは軽症の隊員に回復薬をかけて回った。そんな二人を守るためエンリと無事な隊員たちが王国軍を食い止める。
日輪隊の回復を一通り終えたアリスは次の大仕事のために魔力を貯めだす。
「この戦争を一人で終わらせられると?」
「終わらせられるな」
「はぁ、やっぱりそうか。でもまあちょっとそれを阻止してみようかな」
「お前、この戦争負けるってわかってたみたいだな」
「戦力差ではこちらの勝ちはゆるぎないだろうけど、この戦争が起こった経緯を見れば負けるために派兵されたとバカでもわかる」
「ならなぜ来た?」
「負けることを期待されている戦だ。これほど心が躍る戦いはない」
「変態やろうめ」
「お前も似たような類だろ?」
「、、、それでお前は死ぬ気なのか?」
「まさか。ヤバくなりそうになったら逃げるさ」
「今はヤバくないのか?」
「ああ、相当ヤバい。アドレナリンがドバドバ出てるよ」
「兵は?」
「見捨てる」
「、、、なるほど自分の兵は連れてきてないのか」
「よくわかったね」
「俺ならそうする」
「やはり俺たちは似ているようだ。じゃあそろそろこの茶番を終わらせよう。時間稼ぎはもう充分だろ?」
「はぁ、ムカつくやろーだ」
『シド!生き残った日輪隊と近くにいた他のハーネス兵を広域転移魔法で王都へと運んだぜ!』
『お前とミルとエンリも非難したんだな?』
『ああ、もう大丈夫だ!ぶっ放せ!』
「味方の非難は済んだかい?」
「ああ。でもそこまでわかっててなんでお前は逃げない?死ぬぞ」
そう言ってシドは更に燃え上がる。炎の色は蒼から徐々に変化していく。
「死なない自信があるからだよ」
「自信家だな」
「よく言われる」
シドの炎は金色に光り輝いていく。目が焼かれる程の眩しさまで燃え上がったシドは全てを焼き尽くす覚悟を決めて呟く。
―天照―
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