第17話 メメ・レイス
一方上陸を始めた王国軍。そして今回異例の15万人を率いているのはメメ・レイス。長い王国の歴史の中でも15万人を出兵することなど一度もなかった。だからこそ彼が呼ばれた。10代のうちに少佐まで上り詰めた王国始まって以来の天才軍師が。ただここ2年、彼は自分の直属の隊を連れて王都を離れていた。もちろんこの間一度も戦場に出ていない。招集されても何かと理由を付けて断っていたのだ。ただ今回だけは断れなかった。なぜならこれを断れば死刑だと言われたからだ。
「メメ様!もうすぐ全兵たちの上陸が完了します!」
「なあ、ユリ。王国はイカれているな。集団洗脳にかかっているとしか思えない。王都中がだ」
線上には似つかわしくない優男と美しい女性が眼前の王国兵を見ながら話している。
「私も今回の進軍は異常だと思いますが、ここまで来たらやるしかないでしょう」
「はぁ、帰りたい。そもそも何で俺が指揮官に指名されたと思う?」
「それはもちろんメメ様が王国一の指揮官だからです!」
「そんなわけないでしょう」
「え?」
「こんな国を左右するような大事な戦争を王の言うことも碌に聞かない男に任せるわけないだろ」
「ではどうしてですか?」
「まあ俺を殺すためだろうな」
「は?」
「王国の上層部は完全に洗脳されている。おそらく外部から。他所の国は俺を恐れてくれてるようだね。光栄だよ」
「し、しかし今回の戦争は完全な勝ち戦のはずでは!?だって15万ですよ!」
「端から見るとな。だがどう考えてもこの戦争はおかしい。きっとこれは王国を滅ぼすための戦争だ。だが簡単に負けてほしくはないんだろう。向こう側にも死んでほしい人間がいるのかもな」
「で、ではどうするのですか!?」
「まあ普通に戦争するだけだ。勝つために」
「でも!」
「でもすぐに諦める。負けそうになったらさっさと逃げる」
「ですがこんな大軍の敗走など」
「逃げるのは俺と君だけだよ?」
「え?」
「どうせ王国はこのままじゃ放っておいても潰れる。負けたら負けたで置いて行っていいでしょ」
15万人の命を捨てることをまるで穴の開いた靴下を捨てるかのようにあっけらかんと言い放つ。
「だから我が隊を私とメメ様以外全て領地に置いてきたのですか?」
「ああ、こんなところでウチの隊の人数を減らすなんてもったいなさ過ぎる」
「そこまで確信しておられるならなぜ!?」
「楽しそうだろ?負けイベントでどこまでできるか。久しぶりにワクワクする」
「はぁ、なるほどそう言うことですか」
メメはさっきからとんでもないことを言い続けているが、逆にユリはやっとメメの本心が分かり呆れたように安心した。彼女にとってメメとはそういう男なのだ。
「で、私の役割は?」
「もちろん、いつも通りさ。今回の駒は一般市民に毛が生えた程度の兵士15万人。彼らを猛者にしてくれよ」
「はっ!」
「指示はその時出す。とりあえず一旦適当に攻めてみよっか」
開戦は突然だった。王国軍は上陸をすませてハーネス国に向けて進軍を始める。だが王国軍の進軍は簡単なものではなかった。待ち構えていたハーネス軍がゲリラ戦闘を始めたからだ。
序盤はハーネスの作戦が成功。数の不利を逆手にとって王国軍の戦力を削っていく。
「なるほどね。まあこうなるだろうね。でも思っていたほどじゃないな。ユリ!各隊に指示を。少しとっ散らかしてみよう」
「はい、了解しました」
そんな外の情報を知らないアリスたちはひたすらに天の呼び声の攻略を進めていた。
「副長殿!もうすぐ最下層ですよ!」
そして遂にアリスたちは最下層に辿り着いた。
「なんだよ、これ」
最下層に辿り着いて戦車を飛び降りたアリスは絶望に膝をつく。目の前には干からびた泉があったからだ。他には何もない。最下層に居るはずのボスモンスターさえもいない。ただの空の階だった。
「な、なにもないの」
続いて下りてきたミルも呆然としている。
「そんな、、、」
エンリもまた同じである。呆然とする3人だったが突如ミルはスライムの姿になって干からびている泉に飛び込む。そして泉があったであろう場所をスライムの身体で埋め尽くす。しばらくして再び少女の姿にもどったミルは叫んだ。
「アリスお姉ちゃん!泉が湧くところになにか魔法がかけられているの!調べてなの!」
「ん?え!?マジか!」
この世の終わりのような顔をしていたアリスはミルの声で目を覚ます。
―探知魔法×強化魔法(範囲10倍×集束10倍)―
アリスは天の呼び声全てを包み込めるような探知魔法を半径10メートルまで凝縮し、この枯れた泉の周りのどんな異常さえも見落とさない精度で展開した。
「高度な隠蔽魔法がかけられてるがこの泉の下に大きな穴がある!エンリ!この地面を貫きやがれぇ!」
「了解しました!」
―爆剣 エクスプロージョン―
エンリは飛び上がり地面に剣を突き立てる。その瞬間切っ先から大きな爆発が起こる。
爆煙が収まったころ3人の目に見えてきたのは溢れる泉の中に浸かる巨大な女王蜂のような魔物だった。女王蜂は多種多様な魔物を生み続けていてその魔物たちは泉から出てきて列を作っている。そしてその列の先にあるのは明らかに人為的に作られたであろうゲートだ。
「なんだこれ!」
「なんかキモいの!」
「もしかして我々が駆除して来た魔物とはここから溢れてきていたのでは!?」
「、、、よくわかんねーから説明しろ!結構長尺でしゃべっていいぞ!」
「わかりました!この泉はあらゆる状態異常を回復すると言われています。もしダンジョンに住む魔物たちがダンジョンの外に出ると存在を保てないというのも状態異常の一種だとしたら、この泉に浸かった魔物たちはダンジョンの外でも存在を保てるのではないでしょうか。そしてあのゲートでハルネ山脈のいたる所に転送されているのでは」
「なるほど!何となく大発見の雰囲気は感じ取れたぜ!それでシドを助けるためには何をすればいい?」
「ここにいる魔物を皆殺しにして隊長がゆっくりと泉に浸かれるようにすればいいかと」
「よし!それだけわかれば十分だ!いくぞ!」
―鈍重なる世界―
アリスの魔法で魔物たちの動きが鈍くなる。
―爆裂剣 ボマー―
エンリは切っ先から爆発する高速の突きを無数に繰り出す。
―暴食―
そしてミルは魔物も瓦礫も煙も炎も片っ端から呑み込んでいく。
えげつない攻撃が収まった後にあったのはただの泉だけだった。
「ミル!早くシドをこの泉にぶち込め!」
「了解なの!」
アリスの言葉通りにミルは自分の胃袋からシドを泉に向けて吐き出した。
「シド!シド!シド!」
泉に浸かるシドをアリスは我慢できずに揺さぶりまくる。
「アリスお姉ちゃん!少し待つの!大体3分くらいで出来上がると思うの!」
「固めでいいから早く目覚めろ!シド!」
カップ麺みたいなことを言う二人。
「お二人とも落ち着いてください!」
3人がワチャワチャしている間に天の泉の水はシドの身体に浸みこんでいく。そして皆がずっと望んでいた瞬間が訪れる。
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