第16話 再び迫る王国
「ここが天の呼び声か」
アリスが山頂にぽっかり空いた穴を見て呟く。
「ここから下層へと入って行くダンジョンのようですね!」
「ミル、ダンジョンは初めてなの!」
ダンジョンとは一つの巨大な生き物のようなものだ。中には魔物が溢れ、退治されれば少し時間をおいてまた現れる。故にハイネ山脈から降りてくる魔物はこのダンジョンが原因なんじゃないかと思われがちだが、それはない。ダンジョンに作られた魔物はダンジョンの外で形を保っていられない。だからふもとに降りてくる前には跡形もなく消えてしまうだろう。
アリスたちはシドを目覚めさせるために天の呼び声の最下層を目指してダンジョン攻略を始める。
天の呼び声にはいつも駆除しているのと似た魔物が溢れていた。アリスは味方へのバフ、敵へのデバフをかける。そしてエンリは攻撃、メルは片っ端から呑み込んでいく。
「げぷっ、やっぱりおいしくないの!」
「副長のバフとデバフのおかげで簡単に倒せます。やはり副長の魔法はすごいです!」
「いいから急ぐぜ!」
アリスは一刻も早くシドに会いたい、もうそれしかもう考えられなかった。そしてその強い思いはこの規格外の天才の扉を更にこじ開けた。
―錬成魔法×付与魔法=創成魔法―
アリスは二つの魔法を合成して新たな魔法を作り出したのだ。
アリスの新たな魔法により、ミルとエンリの目の前に巨大な戦車が現れる。
「アリスお姉ちゃん!このおっきいのは何なの!?」
「こんなものを作り出すとは、、、」
楽しそうにはしゃぐミルとは対照的にエンリは目の前で起こった光景に僅かながらの恐怖も覚えていた。
「さあ皆乗れ!これで一気に最下層まで行くぜ!」
3人は戦車の中に乗り込み一気に走り出した。運転はアリス、まあほとんどアクセルべた踏みだ。周辺の警戒はアンリ。そして
ドゴーン!
「やったの!一気にゴミ掃除してやったの!」
砲撃はメル。本人たっての希望だ。
こうしてアリスたちはハイスピードでダンジョン攻略を進めていく。
一方そのころメリダの元には王国へ潜入させていた斥候が報告に来ていた。
「お主がわらわの指示なしに本国に戻って来ると言うことは聞きたくないような報告なのじゃな」
「申し訳ありませんが、その通りにございます」
「お主のせいではない。聞かせてくれ」
「王国が15万の兵でハーネスを攻めてきます」
斥候は歯痒そうに報告を行う。
「、、、ふぅ。最悪の展開じゃのう」
「連中がこの島に上陸するまであとどれぐらいじゃ?」
「遅くても20日、早ければ15日程度で」
「そうか。連中の狙いは我々の命ではなくこのハーネス大陸の資源。つまり壁の内側に籠城してもあまり意味がないということじゃ。むしろ拠点など作られてしまえばこちらの不利。ならば地の利を生かしてゲリラ戦で上陸してきた王国軍を迎え撃つのが得策じゃろう。何より正面から当たっても勝ち目はない。数が違いすぎるからのう」
「ではゲリラ戦に有利な場所を算出。そしてそれを軍に伝達します」
「頼んだ」
「はっ!」
そう言って斥候の男は消えていく。
「王国は何を考えておるのじゃ。自国の守りを放棄してほぼ全戦力をこちらに向けてくるとは。このままではハーネスは滅ぶ。もしシドがいてくれたなら」
1人になったメリダは悔しそうに呟く。
その頃アリスたちは最下層に向けて戦車でバリバリ進んでいた。かなりの速度でダンジョンを攻略?していたがそれでも10日たってもまだ天の呼び声の半分までしかこれていなかった。
「ミル!シドはどうだ?」
「シドお兄ちゃんは変わらずメルの中で寝てるの!」
「そうかよ、、、そうかよ」
安心したような、それでいてがっかりもしたようにアリスは呟く。
「副長、メル様、少し休んでください。私が外を見張っておりますので」
「いやいい!一刻でも早くシドを治さねぇと!」
「ですがこのままでは副長の体力が!」
「体力なんてどうでもいい!これ以上シドがいない日々が続けば体力なんかより俺の頭が先におかしくなっちまう」
「しかし!」
「頼むよ。もう限界なんだ」
そう言ったアリスの顔はエンリが見たことないほどに憔悴しきっていた。
「アリスお姉ちゃんの疲れはメルが食べちゃうの!だから大丈夫なの!」
2人とも強がっていることをエンリは分かっていた。だがそれでもこれ以上彼女たちを止めることはできなかった。それならば一刻も早く最下層に辿り着くしかない。
「ではこのまま進みましょう。ですが役割分担を変えます。私は索敵に魔力を裂くのはやめ、副長と同じくこの戦車の推進力に全魔力を注ぎます。向かってくるものは無理やりはねのけ、それでも対処できないような敵はメル様の砲撃で攻撃。これなら最速で最下層へ向かえます」
「ありがとな、エンリ」
「礼など言わないでください。副長らしくありません」
「そうなの!お姉ちゃんらしくないの!でも気持ちは分かるの。お兄ちゃんがいないのはとっても寂しいの」
メルは目に涙を浮かべながらアリスに抱き着く。
「副長、メル様。急ぎましょう」
3人は更にスピードを上げて下層を目指していく。
「明朝には王国軍がハーネス大陸に上陸する!我々はゲリラ戦で敵を迎え撃つ!隊長と副長、そしてエンリ・メメシスは不在だ!だからこそ今回は団長たちに我々の有能さを示す絶好の機会だ!」
「「「「「おおおおおお!!!!!」」」」
日輪隊もまた王国軍からの防衛戦に参加していた。
檄を飛ばすのはもう一人の副官ゲイルだ。彼は旅立つ前のアリスから留守を頼まれていた。戻るまでの日輪隊の指揮を任すと。そして必ず隊長を連れ帰ってくると。
確かに了承したゲイルだったが、まさかこんな時に国の危機が訪れるとは思っていなかった。今回の王国軍からの防衛戦は国を挙げてのものになる。もちろん日輪隊も最前線で戦うことになる。
そう、ゲイルは途轍もなく不安だった。
「私ごときで隊を率いれるのだろうか。というかこの隊はシド隊長とアリス副長ありきの隊。お飾りの副官でしかない私が王国軍との戦いの指揮をとれるのか。いや、マジ無理無理。絶対無理」
「まあまあ落ち着いてくださいよ、副長。キャラが崩壊してますよ?」
「大丈夫です。我々も協力しますので」
「お、お前たち」
「それにアリス副長は言ってたんでしょう?必ず隊長を連れ帰って来てくれると」
「あ、ああ」
「だったら俺たちはそれまで国を守ればいいんっすよ!」
「隊長殿が来てくれれば王国軍など恐れるに足りません!では我らは耐えましょう。隊長殿が帰還されるまで」
ゲイルの不安を察してハンス・リーグとへイス・マーレンが声をかけにくる。ゲイルは部下たちの優しさに触れて覚悟を決めた。そして日輪隊は開戦の時を待つ。
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