第14話 アリスは絶対にシドを救う

俺の身体を包んでいた炎の色が蒼から黒へと変わっていく。そしてその黒い炎は俺に語り掛けてくる。焼き尽くせと灰さえ残すなと。




『ダメだ!シド!それじゃお前まで焼かれちまう!』




アリスの声が聞こえた気がしたが、それは目の前の連中を燃やし尽くしてから考えようと思った。






―獄炎火葬―






黒い炎は一度点けば消えない。悪魔の戦艦たちは黒く燃え上がった。消えることなく、灰も残さず。




「素晴らしい。地獄の炎を使える人間がいるとは」




クソ親父の姿をした悪魔が手を叩きながら俺の前にやって来た。




「燃え残りがいたのか。うぜーな」




「燃え残りというならあなたもでしょう?獄炎によってあなたも焼かれていってるじゃないですか。海岸の方からヒールをかけている者もいるみたいですが、獄炎で焼かれた傷はヒールごときじゃ気休めにもならない。私には貴方の方が先に燃え尽きるように思えるのですが」




クソ野郎がクソみたいな笑みを浮かべてクソみたいなことを言ってる。クソみたいな気分だ。




「確か悪魔ってのは契約に魂を縛られるらしいな。契約によって相手の魂を食らう代わりに契約を履行できなかった場合はその存在自体を失う。そうだったよな?」




「もちろんそうですが。それがどうかしましたか?」




「じゃあお前は終わりだってことだ。お前は契約を果たせない」




「なぜ?」




「俺を殺せないからだ」




俺は更に燃え上がる。気分がいい。自分の肉体が焼けていくことさえ心地いい。




「愚かな!待っていれば灰になるんでしょうけど、私が直々に食べてあげましょう。私は美味を、あなたは絶望を味わいなさい」




ベルゼビュートは器であるクソ親父の身体をも呑み込み、巨大な漆黒のハエとなる。




「虫唾が走る姿だ。燃やしがいがある」




「私を殺せるとでも?」




「虫は火に飛び込んで燃えるだけのゴミだろ?」




「調子に乗るな!」






―暴食の罪―






ベルゼビュートから溢れ出した闇は辺り一面を包み込む。




「へぇ」




「ここはもう私の胃袋の中だ。このあとのお前の未来はただ一つ。消化される。ただそれだけだ」




「自分から胃袋に招いてくれるとはな。自殺願望でもあるのか?」




「はぁ?何をほざいている?」




「内側から焼かれるのは初めてか?」






―獄炎火葬 惨―






「うぎゃあああ!」




俺は胃を内側から焼く。耐えきれなくなったベルゼビュートは俺をあっさり吐き出した。




「おいおい、消化しなくてよかったのか?」




「はぁはぁはぁ、貴様舐めやがって!」




「口調が変わってるぞ?キャラは貫けよ」




「なぜ燃えてられる!このままだとお前こそ灰も残さず燃え尽きるんだぞ!」




「それが?お前を放っておいてもどうせ俺は殺されるだろーが。だったら道連れだよ、クソ野郎」




「愚かな!」




「おいおい、ビビってんじゃねーよ。悪魔のくせに」




「貴様!」






―暴食の






「させるかよ」






―獄黒炎 黒―






「うがああ!」




この辺からの記憶はない。ここからはあとでアリスに聞いた話だ。











「理解したか?お前じゃ俺を倒せない。だからお前は契約を果たせない」




「そんなことは!」




「理解しろよ、ゴミが」




シドももうギリギリ。いつ死んでもおかしくない状態だ。もう意識もなく正常な判断も出来ない。ベルゼビュートはただ黙っていれば勝てていたかもしれない。だがシドの凄まじい殺気がベルゼビュートを突き刺す。




「お前は俺に焼かれる」




頭ではわかっている。目の前の男は放っておいたら死ぬ。虫の息だ。だがその男の目に恐怖を感じた。魂が震えだしたのだ。そして自分が存在を保てなくなってきていることに気付いた。




「なっ!私の魂が敗北を認めたというのか!」




目の前の男にもう戦う力はない。ハッタリだ。それでも一旦この場を離れた方がいいとベルゼビュートは判断した。こいつが死んでからゆっくり契約を果たせばいい。それまでに自分の存在をしっかりと定着させて。だがそうはいかなかった。シドは最後のカードをまだ切ってはいなかったのだ。




「メル、食え」




シドが口を開けると口からスライムが飛び出してくる。ベルゼビュートを弱らせても止めを刺せなくて逃げられそうになった時のために、シドはメルを飲み込んでいた。




「いただきますなの!」




「なに!?」




メルは巨大化してベルゼビュートを丸呑みにする。




「ごっくん。ごちそうさまなの!げっぷ、あんまりおいしくなかったの!」




スライムの姿でベルゼビュートを呑み込んだミルは再び少女の姿に戻る。








フーカ・ミル・ハーネス




魔力総量 2000


有効魔法範囲 10000


属性 無




スキル


吸収


変身


言語理解




エクストラスキル


暴食








「ミル、どんな感じだ?」




「ミルの辞書から満腹の文字が消えた!そんな感じなの!」




「そりゃあよかった。他も全部食べちゃってくれ」




「わかったの!」




「、、、頼んだ」




すでに意識などなく、なぜ立っていられたのかわからない。とっくに意識など虚ろで、朦朧としていたシドがここで力尽きる。






―転移―






海に落ちる寸前、アリスの魔法でシドは海岸まで運ばれる。




「シド!」






―メガヒール、メガヒール、メガヒール、メガヒール、、、、






いまだに地獄の炎に焼かれ続けているシドの身体はメガヒールでさえ気休めにしかならなかった。それでもアリスはメガヒールをかけ続ける。




「バカやろう!何をしてやがんだ!あの悪魔の魂が敗北を認めたからよかったけど、あのまま戦い続けてたら間違いなくお前が先に死んでたぞ!俺とずっと一緒にいてくれるんじゃなかったのかよ!バカヤロー!」




地獄の炎は消えない。そして地獄の炎がもたらした傷跡も決して消えない。




このままではシドは燃え尽きてしまう。それこそ灰も残さずに。




「アリスお姉ちゃん!どいてなの!」




ミルがベルゼビュートとその部下を呑み込んで帰って来た。




「ミル?」






―暴食の王―






ミルはベルゼビュートと自分のスキルを融合してシドを燃やしていた地獄の炎を呑み込む。




「ぐふぅ。やっぱりこれもおいしくなかった、、、の」




そう言ってハードワークだったミルは眠りにつく。






フーカ・ミル・ハーネス




魔力総量 2000


有効魔法範囲 10000


属性 無




スキル


変身


言語理解




エクストラスキル


暴食+吸収=暴食の王








「ミルありがとよ!シド!」




炎が消えたシドにアリスが抱き着くが、炎が消えたとはいえその身体はとんでもない熱に覆われていた。その熱でアリスも焼かれていく。それでもアリスはより強くシドを抱きしめる。




「こんなぐらいでシドを諦めてたまるかよ!今の魔法じゃ回復できないなら作れ!作れないなら死ねよ!俺!」




アリスは天才だ。過去の歴史を見てもここまで多彩な無属性魔法を使えるものはいなかった。その彼女がすがった。神にではなく自分に。自分を人質にして。








アリス




魔力総量 10000000


有効魔法範囲 10000000


属性 無




スキル


収納魔法


転移魔法


変身魔法


通信魔法


共鳴魔法


回復魔法


補助魔法バフ


補助魔法デバフ


洗脳魔法


幻影魔法


呪術魔法


探知魔法


鑑定魔法


結界魔法


浄化魔法


錬成魔法


付与魔法


強化魔法


魔力供給魔法


魔力需給魔法




エクストラスキル


天界魔法←NEW










―地の業を天の傲慢が消し去る 神威―




「うがあああ!」




シドが叫び声をあげる。アリスの魔法はシドに焼け付いた黒い痣を剥ぎ取っていった。力づくで無理やりに。




「うがああああ!」




「がんばれ!シド!お願いだから!」




「ぐあああ!」




「お、お願いだ、、、」




ここでアリスも力を使い果たして倒れるが、ギリギリのところでシドは一命をとりとめた。




そしてシドが目覚めたのは今回の戦争の10日後だった。

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