第13話 地獄の炎

「ふーん、意味わかんねぇ展開だな。初めは帝国が一方的に圧していた。まずここから珍しい。定期的に行われる帝国と王国の小競り合いは本当に小競り合いだから。恒例行事、国同士の関係の仕切り直し、国民へのポーズ、そんな感じのただの茶番だからな。そしてそのあと圧されていたはずの王国軍が一気に帝国軍を殲滅する?これはもっと意味が分からん」




俺は王国と帝国の戦争について話がしたいとメリダに呼ばれていた。




「わらわたちもどうしていいのかわからない状況なのじゃ。だが偵察に行っていた我が国の兵が亡命者を連れてきた。そなたにこれと会ってほしい。本人が言うにはどうやらお主の兄のようじゃぞ」




「俺の兄?」




「クソ兄貴のどっちかだろうぜ!ジド!」




気が付くと当たり前のようにアリスが横にいた。




「お前なんでいるんだよ」




「そりゃシドの横には俺がいるだろ!」




「、、、まあ、、、そうか」




「だろ!」




よく分からない理論だったがアリスは嬉しそうだ。




「それで俺がそれと会ってどうするんだ?」




「お主がこの国にいると知って、どうしても会いたいと言っておるのだ」




「「あのゴミが?」」




俺とアリスの声が被った。




「あのクズ兄貴がお前に会いたいなんてもう死んでるんじゃねーか?」




「かもな。一応手を合わせに行ってやるか」




「そうだな。俺も付き合うぜ!」




「お主の兄なんじゃよな?」




俺とアリスのやり取りを聞いてメリダが確認してくる。




「ああ、そうだが?2人いたからそのうちのどっちかだろ」




「そ、そうか。ま、まあ良い。着いて来てこい、その男の元へと案内しよう」




俺とアリスはメリダの後を付いて行く。途中いくつかの検問を通過し俺たちは地下牢獄へと入って行く。




しばらく歩くとその牢があった。中にいるのはみすぼらしい男。




「シ、シド!助けてくれ!」




みすぼらしい男が俺に助けを求めてくる。




「うーん、これどっちだ?アリス」




「長男っぽくもあるが次男っぽくもある。うーん、、、まあ別にどっちでもいいんじゃね?」




「貴様はアリスだな!従者の分際でバーンズ家を裏切りよって!恥を知れ!」




みすぼらしい格好のくせに、いっちょ前なことをのたまう。イラっとした。




「おい、長男か次男かわからねぇ兄よ。アリスに暴言を吐くようならこの場で殺すぞ?」




俺は怒りのままに燃え上がる。




「ひ、ひぃ!」




熱に堪え切れられず、兄は必死に後ずさる。




「立場をわきまえろよ」




「兄に対してその態度はなんだ!」




「お前みたいなクズ、兄だなんて思ったことねーよ。そもそもいまだにどっちかわからねーし」




「シド!こいつ次男のクズだ!俺は分かったぜ!」




「マジか、ちなみに何で?」




「魔力量がしょぼ目だ!」




「なるほど。よく見ると髪の色が銀だから次男のクソかもな」




「いや、普通は髪の色で最初に気付くじゃないのかのう」




俺たちのやり取りをなぜかメリダが呆れたような顔で見ていた。






「で、何があったんだよ。クソ」




「貴様!兄に対して―




「そういうのもういいから」




「貴族において次男と三男は―




「だからそういうのはもういいって言ってんだろうが。さっさと要件を言えよ、カス」




「ひっ!」




再び俺が燃え上がると次男のクズは震えながら王国軍で何があったのかを話し出した。




「悪魔を召喚したじゃと!?」




メリダが驚きの声を上げる。




「なるほど。だから一気に戦況がひっくり返ったのか」




「やっぱシドの親父もクズだな!」




「そうだな」




「「あはははは!」」




「笑ってる場合じゃないじゃろ!」




俺たちが笑い合っているとメリダがツッコミを入れてくる。




「で、その悪魔軍はどれぐらいでハーネスに上陸するんだ?」




「2,3日もしないうちにやってくるはずだ!俺がアルセウスから逃れた時にはすぐ後ろまで迫っていた」




「じゃあ連中が上陸する前に海上で片を付けるか」




「シドそんなことができるのか!?」




「シドに出来ないことなんてねーぜ!俺もいるしな!」




メリダから俺への問いにアリスが自信満々で答える。




「メリダ、もしかしたらしばらく漁獲量が落ちるかもしれないがいいか?」




「民の命には代えられん。上陸前に対処できるなら構わん」




「なら俺たちは好きにやらせてもらう。で、そこのクズ次男は好きにしていい」




「わ、わかったのじゃ」




「いっちょやってやろーぜ!シド!」




「メルも行くの!」




アリスの肩に乗っていたメルが少女の姿になって抱き着いてくる。




さて快適な公務員生活を壊されるわけにはいかない。それに一応身内から出たさびだ。はぁ、めんどくさい。でもやるしかない。何度も言うがこの快適な生活を壊されるわけにはいかないのだ。








この日は3人で準備を整えた。




そして翌日、俺たち3人は海岸線に立っていた。




「アリス、俺が海に落ちないように転移させ続けてくれ。あとヒールも頼む。今回は盛大に燃えるからな」




「お安い御用だぜ!」




「メルは?メルは?」




「メルは俺と一緒に行くか」




「うん!メルも一緒に行くの!」




「俺は好き勝手暴れるからきっと海を汚す。メルにはそれを全部平らげてもらいたい」




「うー!腕が、いやお腹が鳴るの!」




「さあそろそろお出ましだぜ」




黒いオーラをそこら中にまき散らしながら何隻もの船が目の前にずらっと並ぶ。




「準備はいいか?シド!」




「ミル!俺の肩に乗れ」




「はいなの!」




スライムの姿になってミルが俺の肩に飛び乗る。そしてミルに不死鳥の炎を纏わせる。これで俺の傍にいても燃えることはないだろう。




「さて行こうか」




こうしてハーネス防衛戦は始まる。











俺はアリスの浮遊魔法により宙に立っていた。目の前には悪魔の軍団。その中には確かにクソ親父の姿が見えた。




『やっぱりクソ親父がいるじゃねーか』




アリスは海岸に立っていながら沖の上に浮かぶ俺の頭へと話しかけてくる。これはアリスの通信魔法によるものだ。そしてなぜ俺が見えてるものがアリスにも同じく見えているのか。これはアリスの共鳴魔法により俺の視覚と聴覚が共有されているからだ。




やっぱこいつの魔法はすごい。




『ああ、結構な悪魔を呼び出したらしいな。とっくに魂は食われてんじゃねーか?』




『ああ、クソ親父の魂は一切感じられねぇ。あの体の中にいるのは悪魔だけだ』




『まあどっちでもやることは変わらねぇ。消し炭にしてやる』




元々そのつもりだ。そして気付くと俺は笑みを浮かべていた。




『ヒールと転移は任せとけ!』




『ああ、頼んだ』




俺は真っ青に燃え上がる。そしてアリスの転移魔法によって移動しながら、人も船も全てを燃やしていく。




『シド!ちょっと火力を抑えろ!回復が間に合わねぇ!』




『、、、無理だ、アリス。楽しくてしょうがない』




『え?』




酒でも飲んだかのような高揚感に俺は包まれていた。見知った家紋を背負う兵士たちを殺すたびに胸がすっと晴れていった。




―皆殺しにしてやる―




―皆殺しにすればいい―




―俺を母様をアリスを弄んだクズども―




―焼き尽くせ―




―燃えろ!!!―




―灰さえ残すな―






シド




魔力総量 ∞


有効魔法範囲 0


属性 火




スキル


火耐性 強




エクストラスキル


不死鳥の炎


”#地$%獄%の$炎#”

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