第10話 なぜか部隊を任されるシド
「すれ違っても気づけなかっただろう。長い時間見続けてやっと違和感に気付けた。それでも魔族ではないことが分かっただけ。本当の姿が何なのかはわからない。とんでもなく高度な変身魔法じゃな。お前の魔法か?」
「いや、俺の相方のだ。で、どうする?俺たちを追い出すか?」
「いや、そうするとフーカが泣きそうだからのう。とりあえず話を聞こう。嘘偽りは許さんぞ」
そう言って俺の目を見る女王には小賢しい嘘など通用するわけがないと一瞬で悟った。
「では聞こう。お主らはなんだ?」
「お尋ね者だ」
俺は嘘偽りなくハーネスに至るまでのことをメリダに話した。
「ふむふむ。なるほど、やり過ぎてここまで逃げてきたということじゃな」
「で、俺たちはここで暮らせるのか?」
「そうじゃのう」
「役には立つと思うぜ」
俺は蒼い炎を纏う。
「くっ!」
女王はあまりの熱に顔をしかめる。
「この国に何かするつもりはないが、ここに住めないのであればもう俺たちに行くところはない。だったらしょうがないから力尽くという選択肢も視野に入れることになる」
「わかった!わかったから炎を鎮めてくれ!」
「じゃあ俺たちがこの国に住むことを認めてくれるんだな?」
「み、認める!」
「それはありがとう」
「はぁはぁはぁはぁ!」
炎が収まってやっと息が吸えるようになったメリダが汗を流しながら深呼吸をする。
「悪いな。ちょっと威嚇した。本気じゃない。信じてくれ」
「はぁはぁ、お主の力はよくわかった。この国に住むことを許そう。ただ民が混乱するため人間であることは隠してもらいたい」
「本当にいいんだな?」
「まあ一応お主たちは我々を害する存在ではないらしいからのう」
「なんでわかるんだ?」
「フーカは人の本質を見抜くやつを持ってるからのう」
「見抜くやつってなんだよ」
「なんか見抜けるらしい。看破の魔眼というスキルを持っているからな。ただそもそもあいつ目ないし、だからなんかそう言うやつがあるんだろうというのがわらわの結論じゃ」
「お前も大分いい加減だな」
「ある程度いい加減でないと女王なんてやっておれん」
「でも俺たちをこの国に住まわせてくれることには心から感謝する」
俺は立ち上がってメリダに頭を下げる。これは本当に心からの感謝だ。やっと安心できた。アリスをなんとか安全な場所へ連れてこれた。よかった。ずっと逃げ回ることになったらどうしようかと思っていた。俺一人なら問題ないが、アリスだけは、愛しい人だけは巻き込みたくなかった。
「で、お主たちはこの地でどうやって生きる?」
「考えてないな。アルセウス大陸で言うところの冒険者みたいな仕事はないのか?」
「ここはとても小さい国だ。そういった仕事はない。だが似たような仕事なら紹介してやれないでもないぞ?」
メリダはニヤニヤといたずらっぽい笑みを浮かべた。
「いやな予感がするけど、一応聞く。その仕事ってなんだ?」
「冒険者と同じ何でも屋だ。ただわらわ直属のだが」
「女王直属の何でも屋?」
「そうじゃ。わらわの依頼をこなしてくれれば衣食住とそれなりの給金を保証しよう。ミルもそなたらはとんでもない強さだと言っておったしのう」
「めっちゃいい話だな。主な仕事は?」
「この国の背に控えるハルネ山脈からは湯水のように魔物が湧き続ける。これは建国から変わらずいまだに我が国を脅かす脅威じゃ。この魔物たちを討伐してほしい」
「そんなことでいいのか?」
「ハーネス大陸の魔物はアルセウスのものとは比べ物にならないぞ」
「マジかよ。じゃあちょっと考えさせてもらおうか―
「任せろよ!俺とシドに不可能はねーぜ!」
いつの間にか満面の笑みのアリスが俺の隣で拳を振り上げていた。
「アリス何でここに、、、」
いや、考えてみよう。ミルと一緒に眠ったが起きる。俺がいないことに気付く。探知魔法を使って俺の居場所を突き止める。ワープを使ってここに来た。うん、納得。できるできる。完璧な推理。
「ふむふむ」
俺は自分の完璧な推理に酔いしれていて、肝心なことを忘れていた。いや、心のどこかで忘れたかったのかもしれない。このあと訪れるであろう面倒ごとに。
「では頼めるのじゃな!」
「巨大客船タイタニックに乗ったつもりでいろ!」
アリスは胸を張って女王に答える。なんか沈みそうな船の名を言った気がしたが、まあいいやと俺は目の前のワインを一気に飲み干す。こうなったらどうせやるしかないんだ。だったらめんどくさいから飲んでおこう。これがアリスと旅をしてきて学んだことだ。
「シドもよいのか?」
「はいはい。オッケー、オッケー。とりあえず酒もっと持ってきて―」
この日はとりあえず飲み、翌朝俺たちはハルネ山脈の麓に来ていた。
そして目の前には一個中隊が整列していた。
「アリス、なんでこいつら俺の前に整列してるんだ?」
「え?整列するのが好きだからじゃねーか?ふわぁ」
アリスは寝起きでアホ度が3割増しだな。はい、聞いても無駄。あと俺が質問できる相手は、、、
「ダメ元で聞くけど、これって今どういう状況かわかる?」
とりあえずミルにも聞いてみた。
「今日からシドお兄ちゃんとアリスお姉ちゃんはこのウジ虫たちの指揮官になったの!そして彼らを率いてハルネ山脈から転がり落ちてくるゴミどもの掃除をしろということなの!」
「うん、よくわかった。てかお前案外口悪いのな」
「アリスお姉ちゃんがよくこういう風に言ってるの!」
「うん、それはこっちがごめん」
よくよく聞くとハルネ山脈から降りてくる魔物を討伐する隊の指揮官に俺が任命されたらしい。隊の名前は日輪隊。うん、ギリかな。というか来たばっかりのやつに普通隊なんか任せるかよ。あの女王頭おかしいんじゃねーのか?
とりあえず朝早すぎてアリスはまだ使い物にならない。目の前には200人ぐらいの兵士たち。ミルはスライム。
そして相手側だが、目視した感じ100匹以上の魔物が山を下りてきている。
「シドお兄ちゃん!ちなみにゴミどもは日が沈んでる間は山を下りてこないの!理由は不明なの!」
「ミルいいねー。いいタイミングでいい情報くれるな。才能あるぞ!それ系の!」
「、、、ありがとうなの!ちなみに土日も下りてこないの!」
日の出から日の入りまで、この国なら朝の7時から16時までの9時間。それで土日は休み。更に国から雇われている公務員。ん?いつの間にか勝ち組になってる?
「てかなんで土日は下りてこないんだ?」
「謎なの!」
謎か。それならしょうがない。
「とりあえず今日は初日だ。まずは俺が行く」
急に上司になったと言われても納得できないだろう。それなら自分が率先して働いた方がいい。
俺は蒼い炎を身に纏い魔物の群れに突っ込んでいく。そこからは途切れることなく山を下りてくる魔物を俺は燃やしていく。
「「「「「「おおおおお!!!!隊長殿!!!!」」」」」
さっきまで不審な目で俺を見ていた部下たちが声を上げる。皆の声援を受けて気持ちよくなってきたところで魔物の発生がピタリと止まる。ちょうど正午になった瞬間にだ。
「え?なんで?」
「魔物たちは昼の12時から1時までの1時間は下りてこなくなるの!」
意味が分からないと思っていると説明上手のミルがいつの間にか俺の横に来て説明してくれる。
「一応聞いとくけど、なんで?」
「それも謎なの」
「やっぱりな」
俺たちは昼食を取り、午後からはしっかり目が覚めたアリスの補助魔法で強力なバフをかけられた兵たちが魔物を蹂躙していくこととなった。
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