第9話 第12代ハーネス国女王メリダ・ハーネス

「ふぅー!ハーネスに着いたぜー!」




「ふぅ―はやめろって言ってんだろ!それにしてもなんとか辿りつけたな」




「もっと薄暗いところかと思ってたけど天気もいいし海もきれいだ!いいとこじゃねーか!」




「、、、だがのんびりバカンスをしてもいられなそうだぜ」




船を降りると森の奥から巨大な魔物が群れをなして現れた。おそらく狼の魔物だが、アルセウス大陸のものと比べて3倍もの大きさがあった。




「この何か手伝うか?シド」




「いらねーよ。下がってろ」




―蒼火葬―




犬っころに足止めされるわけにはいかない。そして俺はもうこの程度じゃ止められない。




俺が放った小さな蒼い炎は一気に燃え広がり、狼たちを焼き尽くした。元々ハーネス大陸は強力な魔物が生息し、環境も厳しかったために、発見はされたが人が住めるところではないと捨てられた大陸である。だからこそ魔族たちはここに移り住んだ。ここなら人族に追われることもないからである。




昔読んだ文献によると、魔国はハーネスはハーネス大陸の中央に高い壁を作って自国を囲んだ閉鎖的な国であるとされていた。




だからここから魔国ハーネスまではかなりの距離があると思われる。それとこの島というか大陸、空気中の魔素量が半端ない。魔素とは余剰魔力が空気中に溶け込んだものだ。こんなにしっかり感じ取れるほどの魔素となれば、どこかで相当な魔力が放出され続けていることになる。




そしてそれはおそらく




「この大陸の中央からとんでもない魔力が噴き出してるぜ!」




「だよな。それがどこかわかるか?アリス」




「ああ、場所ははっきりと補足できた!ここに向かうんだろ!」




「ああ、その通りだ!で、胸元のそれは?」




「かっわいいよなー」




なぜかどさくさに紛れて船に乗り込んできたスライムはいつの間にかアリスの胸元を定位置としていた。




くそ!このゼリー野郎!羨ましい。




「くぅ~ん?」




なんかこのスライム今イラっとする顔をしたような気がした。






「アリス、とりあえず魔国ハーネスの方へ案内してくれ」




「わかった!」




こんな未開の地でもアリスはとても楽しそうだった。こいつはいつも楽しそうだ。だから俺は何も怖くないんだ。




5日間俺たち森の中を進み続けた。魔物を倒し、野営をしながら。そして遂に俺たちの目は魔国ハーネスを象徴する高い壁を捉えた。




とりあえず俺たちは魔国ハーネスの前でこれからどうやって入国するかを話し合っっていた。




「で、アリスなんとかできる?」




「うーん、ハーネスに入るために必要なものもこの国の身分証明書が何かもわからねーから無理だな!」




「そりゃそうだよな」




「だから正攻法は諦めた方がいいんじゃね?こっそり入るなら楽勝だぜ?それからのことは入ってから決めようぜ」




「、、、そうだな。じゃあちゃちゃっと入るか!」




「おう!そうしよーぜ!」




俺たちはアリスのワープを使いながら誰にも気づかれることなく魔国ハーネスに入る。姿もアリスの変身魔法で魔族に変えた。アリスの変身魔法は姿形だけでなく種族そのものの生体反応まで変化させる。これで割と自由にハーネスの中を歩き回れるようになった。




ハーネスは王国や帝国ほどではないがそれなりに栄えていた。むしろどことも国交を結ばずにここまで栄えていることに疑問を覚えた。




ハーネスは農耕と海洋資源によって食料をまかなっていた。だが他国と最も違ったのは魔道具の性能だ。基本的な性能は他の国と変わらない。だがエンジンが違う。魔石が蓄えている魔力量が何倍も上なんだ。それによって同じ術式でも効率が全く違う。アルセウス大陸の魔道具なら1時間かかる仕事を彼らの魔道具は5分程度で終わらせてしまう。




さらにこれらの魔石はハーネスで作られた人工魔石だった。




人工魔石なら王国や帝国でも作ることが可能とされている。だが、そこに更に魔力を注ぎ込むなんてことは聞いたことがない。これはおそらくハーネスだけが持つ技術だろう。




「そんでもってここの連中一般市民も全員強いぜ!」




「ああ、そうだな。一人一人の魔力量が半端ねぇ」




「それはそうとなんか囲まれてるぜ!」




「え、マジかよ」




アリスとのんびりハーネス探訪をしているといつの間にか兵たちに囲まれていた。




「お前ら!大人しく王城までついて来い」




マジかよ。もう人間ってバレたのか?でもアリスの魔法がそう簡単に見破られるか?




「シド!ぶっ飛ばすか!?シュッシュ!シュッシュ!」




だからシャドーはやめろって言っただろーが!




「いや、せっかくここまで来たのにすぐに暴れて追い出されるのはごめんだな。大人しくついていこう」




「大丈夫なのかよ」




「大丈夫じゃなかったら燃やし尽くすまでだ」




「ならいいか。ミルも来い!」




いつの間にかアリスにミルと名付けられていたスライムはアリスの肩に飛び乗った。




こうして俺たちは王城へと連れていかれ、そのまま王との謁見の間へと案内される。




玉座に座るのは美しい、、、幼女?




「よく来たのう。わらわが第12代ハーネス国女王メリダ・ハーネスじゃ!」




「なあ、シド。この偉そうなちびっこはなんなんだ?」




「おいバカ。それはこういう類に一番言っちゃいけないやつ」




「わ、わらわがちびっこだとぉぉぉ!」




ほら見ろ、ちびっこがプルプル震えてるじゃねーか。




「かわよかろ?きゅぴーん♪」




ヤバいと思っていると女王さんは痛々しいポーズをびしっと決める。ん?予測していた反応と違う。全然違う。なにこれ。




「女王様はアンチエイジングの鬼であり、本来なら200歳を超えているのについに幼女の姿へとたどり着けたのです」




横に立っていた兵士の人が小声で教えてくれた。いい人だな。




「それで俺たちはなんでここに呼ばれたんですか?」




今のところそんな感じはしないが、ヤバそうならアリスを連れて逃げないと。




「そんなに構えなくてもよい」




まだ魔力を出してはいなかった。使おうと思っただけだ。それだけで気付くのか。やべぇな、女王。こえー。




「お主たちをここに呼んだ理由はそのスライムじゃ」




「このスライム?」




はぁ?スライム?




「ママ!この人たちは悪い人たちじゃないの!」




ミルはスライム姿から一瞬で少女の姿になる。




「はぁ!?喋れたの?お前」




「しゃべれることよりこの可愛い姿に興味を示してほしいの!」




「ミルは優秀なんだぞ!シド!」




アリスが胸を張る。




「アリスは知ってたのか?ミルが話せること」




「いや全然」




やっぱこいつすごいな。




「彼女はわらわの側付きでのう。ちょっと菓子を買って来てもらいに海を越えてもらったんじゃが、なかなか帰ってこなくて心配していたのじゃ」




「ただいま戻ったの!」




「何をしていた?人間どもに掴まっていたのか?」




「違うの!ママに貰ったお小遣いでお菓子買ったんだけど、毒味にハマってしまってお小遣いが無くなってしまったの!」




「そ、それで?」




「ママに貰った転移石も質に入れたの!」




「ん?それで?」




「そのお金も無くなって、最終的にはスライムの姿になってお金を払わずにこっそり毒味を続けていたの。というか最初からこうしていればよかったの。でもそのうち連中もスライムを警戒しだしたの!無念だったの。それからは何も食べれなくなり、魔力が底をついたミルはスライムの姿から人型に変わることも出来なくなったの。そんな感じで途方に暮れているとお兄ちゃんとお姉ちゃんが助けてくれたの!」




「ふむ、ツッコミどころが多すぎて全部言っていくとかなりしんどそうだからもういいのじゃ。というか怒られる部分を逆に限界まで増やしてお説教を回避する方法があったとは。お主やはり恐ろしい子じゃの」




女王様はなんか遠い目をしていた。




「ママ!でもこれだけはママに食べてもらいたくて食べないように我慢して持って来たの!」




そう言ってミルは懐から7色のおはぎが入った箱を取り出す。






「うお!ここでそう来るか!1の健気さが100の失態を呑み込みそうじゃ!何なんだお主は!狙っとるのか!?確信犯なのか!?そしてうんまーい!」




このあと女王から詳しく聞いたが、ミルは女王が幼いころに拾って育ててきたらしい。それが100年を超えたころから言葉を話すようになり、更に50年経ったあと人の姿になることも出来るようになったという。




スライムは進化する魔物として知られているがここまで進化したスライムは聞いたことがない。


本当の名前はフーカというらしいが本人はアリスに付けてもらったミルという名前も気に入っていたらしく、正式に彼女の名前はフーカ・ミル・ハーネスとなった。


そしてスライム騒動は一旦解決して、今俺は第12代ハーネス国女王メリダ・ハーネスと向かい合っていた。祖国に帰れて安心したミルは寝てしまい、それにアリスも付き添った。




「で、お主は何なのだ?魔族ではないだろう?」




「やっぱり気づいてたんだな」


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