第8話 スライムが仲間になりたそうにこちらを見ていた
帝国は軍事国家であると同時に経済大国でもある。栄えた都市がそこら中にあり、その一つ一つにある程度の自治権が認められていた。だから都市が変わるだけで文化もがらりと変わる。
ダラスは王国に面しているため王国に似たような文化が根付いていたが、次に俺たちが訪れた街インディアは褐色の肌をした民族たちが住む原始的な街だった。
彼らは全身のいたる所にタトゥーを入れ、派手な民族衣装を身に纏っていた。
「なあ!シド、なんかここの連中派手でおもしれ―な」
「逆に俺たちが浮きまくってるけどな」
「おい!あそこに面白そうな屋台があるぜ!」
「お前は本当にブレねーな」
「親父!串焼き一杯くれ!」
「ひゅー!いいねぇ!嬢ちゃーん!じゃんじゃん焼いちゃいまーす!」
「「ひゅー!!!」」
「なんでお前は一瞬で合わせられるんだよ」
「ガンガン飲んじゃってー!」
「「ひゅー!!!」」
「モリモリ食べちゃってー!」
「「ひゅー!!!」」
どう見てもよそ者の俺たちに街の人間たちは優しかった。というかひゅーひゅーうるさかった。目がイっていた。なんか皆紫色の煙を吸いまくっていた。だけどその辺はあまり考えないようにした。
宿屋を探してると怪しそうというか間違いなく怪しいテントを見つけた。血みたいな色で占い屋と書いてある。そしてこんなのを見つけたらアリスが黙ってない。
「いこーぜ!絶対いこーぜ!すもーぜ!」
「行くのはまあいいとして、住みはしねーよ、絶対!」
中に入ってみるといかにもな感じのババアが座っていた。
「おい!シド!いかにもだぜ!」
「本当にいかにもな人にはあんまりいかにもって言っちゃダメなんだよ」
「おやおや騒がしいのう。なんじゃお主ら、客か?」
いかにもとか言いまくってたのにババアは普通に話しかけてくる。メンタルはかなり強いみたいだ。
「ばあさんが占い師ってことでいいんだよな?」
「いかにも」
「いかにも引きずってんじゃねーかよ」
「まあええわい。占ってやる。恋愛か?」
「それはいい!わかってるからよ!な!シド」
「あ、ああ」
たまにこいつはこういうこと言う。
「なんだい熱々だねぇ。それじゃあ2人のこれからについて占ってやろう」
そう言ってからババアはいかにもな呪文を唱えだし、いかにもなろうそくに火を点け、いかにもなことを言った。もういかにもが止まらなかった。
ババアは当たり障りないことを言うだけだったが、一つだけ耳に残った。
『黒い炎は自分も相手も燃やすから気を付けな』
ババアのドヤ顔が忘れられない。
その後なんとか宿屋を見つけた俺たちは食堂で夕飯を食うことにする。まずはビールで乾杯して、インディア名物を頼む。何でもかんでもサルサにつけて食うのがこの街のスタンダードらしい。味はまあまあ、辛さは異常。とりあえず酒は進むからいい。あとやっぱりここの連中はなんかこうフワフワしてる。紫の煙を吸ってるからかな。
「おい!シド!ここの連中全員ラリってやがるぜ!はははは!」
「いやそれ俺が言わないように気を使ってたやつ!」
翌朝俺たちはこのラリった街を街を後にし、南の海岸を目指して進む。
途中いくつかの街を通り過ぎたが、すでに俺の手配書は帝国にまで届いていた。それはいい。わかっていたから。でもなぜか俺の仲間としてアリスの手配書まで出回っていた。
「なんでアリスまで!」
「お、いい感じに写ってんじゃねーか!」
「はぁ!?何言ってんの、お前」
「この前シドが居ねーときによ、記者のやつに会って、俺がシドの相棒だって言ったら写真撮ってくれたんだよ!」
「お前マジか。てか何やってんだよ!」
「恋人の方がよかったか?」
「そうじゃねぇ!!!」
「うるさい!俺は死ぬまでお前と一緒だ!お揃いだ!」
「お揃いって、、、。まあいいか」
俺はいつもこんな感じでアリスに言い返せなくなる。そんな感じで結局俺もアリスもきちんとお尋ね者になった。
まあそんなこともありながら俺たちは遂に港町アイビスに到着する。
「ひゅー!海すげーぜ!シド!」
「そろそろひゅーやめろ。なんかイラっとするから」
アイビスに到着すると見渡す限りの海が目に飛び込んできた。もちろんアリスは大興奮だ。
アイビスは港町として栄えていた、名物は魚介類。俺たちはたらふく魚を食べて、海の向こう側を眺めた。
「で、どうすんだ?アイビスからはハーネスへの船なんて出てねーぞ!」
「いや、お前船持ってるだろ」
「そうだった!でもあれ石炭がないと動かないぜ?」
「要するに火が必要なんだろ。それなら俺が燃えればいい」
「なるほど!冴えてるじゃねーか、シド!おっしゃあ!じゃあ船をドカンと出すぜ!」
そう言ってアリスはアイテムボックスから船をドカンと出した。
だがドカンと出し過ぎたために周りの視線が集まってきている。人が集まり過ぎる前にさっさと出航した方がいいだろう。
アリスのアイテムボックスには様々な物が入っている。母が死んだあと気が付いたら身に覚えのないものがたくさん入っていたらしい。
「じゃあさっそく出発するか!」
「おい、シド!なんか仲間になりたそうにこっちを見てるやつがいるぜ!」
「はぁ!?なんだそのスライムみたいな奴」
アリスが指さした方を見る。本当にスライムだった。
「くぅーん」
虹色に輝く珍しいスライムが足にすり寄ってくる。そして今度はアリスの胸へと飛び込んで、やたらと媚びている。そのやたらとあざといスライムにアリスは、
「シド!こいつペットにしよーぜ!」
簡単に懐柔された。
「いや、言っても魔物だぜ?」
「大丈夫だ!こいつを鑑定してみたけど、いいやつっぽいぜ!」
「いいやつっぽいってなんだよ?」
「勘!」
「鑑定とは?」
「とりあえず連れて行こうぜ!面白そうだ!」
アリスがキラキラと目を輝かせて俺に言ってくる、そして俺はこの目に抗えない。抗うすべを知らないのだ。
まああんまりのんびりもしてられないから、とりあえず連れていくことにした。正直スライム一匹増えてもあまり変わらないし。
「あの二人を止めろぉぉぉ!」
出発しようとしていると、後ろから騎馬隊が迫ってくる。そして完全に俺たちを見てる。間違いなくこれは俺とアリスに向かって来てるんだろう。
騎士たちの鎧にはバーンズの家紋が入っていた。だが解せない。しかしいくらアリスが有用だとしてもここまで追ってくるか?しかもここはいつ戦争が起こってもおかしくない緊張状態にあるディセウム帝国。入国することだって容易くないし、リスクも高い。
何考えてるんだ、連中は。
「早く行くぞ!シド!あれはバーンズ家の家紋だぜ!」
俺が色々考えているとアリスが俺の背中を叩く。
「でも奴らになんでこんなところまで来たのか聞いた方が!」
「うるせぇ!そんなもん無駄だ!さっさと出航するぞ!燃えろ!シド!」
俺たちは船に乗りこみ俺の炎によって蒸気機関を動かし、船を発進させた。
追いつけなかった騎馬隊たちが港で何か叫んでいるようだったが、もう俺たちには何を言っているかは聞こえなかった。
「おい、アリス。お前なんか知ってるんじゃねーのか?」
「いや、俺もよくわからねぇ。だがお前がバーンズ家から追い出されることが決まった後、俺の元にバーンズ家の連中が金を積んでなんか話しに来たけど、興味なかったから何も聞いてなかった。それで返事もせずにお前に付いてきたからそれかもな」
「聞いとけよ。まあそれだけでここまで来るとは思えねーけどな」
「で、どうすんだ?お前は俺を渡すのか?」
「何寂しそうな顔してんだよ。俺がお前を誰かに渡すわけねーだろ!お前は俺のもんだ」
「へへへ」
「くぅーん、くぅーん」
「スライムが不満そうにしてるぞ。まあ自分が主役回だと思ってたら一気に持ってかれたからな」
「とにかく出航だぜ!」
「うおらああああ!!!」
俺は一気に燃え上がり船は一気にスピードを上げてアルセウス大陸を離れていく。
ハーネスへの航海は1月に及んだ。近づくにつれて強力な海洋モンスターが襲ってきたがそのたび俺が焼き殺して食料にした。
そして俺たちは遂にハーネス大陸に上陸する。
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