第7話 Go to ハーネス

「ところでなんでハーネスなんかに向かうんだ?」




「ハーネスはどの国とも国交を結んでない鎖国国家だから安全だし、一度行ってみたかったしな」




「そうなのか。でも魔国に行ってみたかったなんて初めて聞いたぜ?」




「だってお前の母さんの故郷だろ?」




「そうだっけ?」




「いや、そうだろ!お前が言ってただろうが!」




「そう言えばそうだったな!ずっと隠せって言われてきてお前にしか言ってなかったからすっかり忘れてたわ!」




「ふつう忘れるかよ。そんな大事なこと」




「親父は俺が物心ついた時にはとっくに死んでたし、お袋もすぐに死んじまった。だからそこからはずっとシドだけだ。だからあんま覚えてねーんだよ。唯一覚えてんのが『魔族の血を引いていることは言ってはいけない』って言葉だけだ」




「なんかそう言われると行く気無くなって来たんだけど」




「なんでだよ?」




「いや俺はてっきりアリスが家族について知りたいんじゃねーかと思って、行ってみたかっただけだから」




「そうなのかよ!じゃあとんだ無駄足になるな!」




「いや、お前。ちょっとぐらいキュンとしたりしろよ」




「まあいいじゃねーかよ!シドと一緒なら俺は無駄足でも楽しいぜ!」




「はぁ、俺がキュンとしたわ」




「何だって?」




「なんでもない。とりあえず先を急ぐぞ!」




まあアリスのデレは見られなかったが、ハーネスに行きたい理由は他にもあった。魔族とは最も魔法能力に長けた種族だ。だがそれ故に最果てへと追いやられた。自分たちの力に過信し、世界征服を企んだ魔族たちを人族が力を合わせて数の力で外界へと追いやったとされている。だがそれはありえない。数の有利など強力な魔法の前では何の意味もないのだから。


ということは魔族たちは自分たちの意志で大陸から出ていったのではないかと俺は考えていた。


だとすればその理由が知りたかった。




だが鎖国している国だ。入国するのは大分難しいだろう。でもまあアリスの魔法だったらどうとでもなるだろう。




それよりもハーネスに行く前に通らなきゃいけないディセウム帝国の方がめんどくさそうだ。帝国は大陸の覇権をかけてしょっちゅう王国と戦争を繰り広げている軍事国家だ。帝国は強力な魔法使いの数では他国に劣るが、強力な魔道具を大量に生産して、魔法適性のない者たちも戦争に参加できるようにした。これによって近年急速に領土を広げてきた国である。




「さて、アリス。そろそろ国境線だ。問題なく帝国に入れる魔法とかある?」




「うーん、そうだな。とりあえず洗脳魔法を使えばいんじゃね?」




「お前マジ便利な。じゃあそれで頼むわ」




「任せろ!」




俺たちはアリスの洗脳魔法で門番に自分たちが帝国民であることを信じさせて、あっさりと帝国内に入る。そして門番から入手した情報から、アリスの模造魔法で身分証も作った。




俺たちが入ったのは王国との国境にある城塞都市『ダラス』だ。




「アリス、サンキュー!これで帝国内でもある程度自由に動き回れる」




「こんなもん楽勝だぜ!」




一応他国とはいってもお尋ね者だから念のためにアリスの変身魔法で姿も変えた。とりあえず路銀を稼ぐために道中で討伐した魔物たちの素材を換金しにダラスの冒険者ギルドへ向かう。




「いらっしゃいませ~」




やる気のなさそうな受付嬢が適当に対応してくる。冒険者ギルドは国境に縛られない一つの独立組織らしい。だからだろうな、この女もイラつく。だがこれ以上こいつらに腹を立ててもしょうがない。こういうものだと思おう。




「この素材を換金してくれ」




「わかりました~」




俺が素材を渡すと受付嬢はそれをもってだるそうに奥へと向かって行った。




1時間ほど待たされてやっと受付嬢が戻ってくる。




「38万ゴールドですね~」




この程度の査定に1時間もかかるか?どれだけ長くても20分ぐらいだろう。だがまあ査定結果に間違いはないようだから黙って金を受け取った。




「シド!その金で旨いもの食おうぜ!あと酒も!」




「そうだな。宿を取ったらその辺のバーに行ってみるか!」




「おう!」




アリスはすごいな。どんなに淀んだ気持ちになっても彼女の声を聞くと前向きになれる。未来が楽しみになる。アリスとの未来が。




「じゃあ行くか」




「おう!早くいこーぜ!うまいもんが食いて―!」




俺たちは安宿を取り、一息ついてから街に繰り出す。




「アリス、何食いて―んだ?」




「肉肉肉!肉の鬼コンボだぜ!」




「だと思ってた!宿屋の店主に聞いといた!俺たちが今晩頂くのはここ!『キングオブミート!ミートオブキング!ステーキ王!』だ!」




城のような外観をした割と痛そうなステーキ屋だ。まあ宿屋のおっさんはうまいと言ってたから大丈夫だと思うけど。




「なんだよ、これ!」




アレ?さすがに名前が長すぎてダサすぎたか?




「めっちゃ燃えるじゃねーかよ!俺たち二人で王を倒してやろーぜ!」




「ああ、気に入ったんだ」




こうして俺たちは『キング オブ ミート!ミート オブ キング!ステーキ王!』に入店する。




「「「「ウェルカム トゥ キング オブ ミート!ユア キング オブ 


ゲスト!」」」」






店に入ると店員たちが全員一斉に声を上げる。うーん、このノリきついな。




「イェス!ウィ アー キング オブ ゲスト!」




アリスは完全にのっかった。すごく活き活きしている。めちゃめちゃ楽しそうだ。




「とりあえず今日は好きなだけ肉食っていいぞ!」




「よっしゃあ!今日が俺のラグナロクだぜ!」




何を言ってるのか分からなかったが、楽しそうだからいい。




そんなわけでこの日は2人共吐きそうになるまで食いまくった。




これまでの疲れを肉で癒した俺たちは翌日から南の海岸を目指すことにする。

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