第6話 シドの逆鱗

それから1日半たった頃俺の目は覚めた。完全に死んだと思ったが不死鳥の炎は少なからず俺自身の怪我も治してくれたらしい。アリスはずっと俺を抱きしめながら、魔力が枯渇しても生命力を削って俺にヒールをかけ続けていた。




「シド!シド!シド!」




「おはよう、アリス。もう泣くな」




「シド!よかったー!あと泣いてねーよ!」




そこからはごねるアリスを無理やり休ませ、問題なくゲートが使えるようになってから俺たちはダンジョンから出た。




なんとか九死に一生を得た俺たちだったが、2人共フラフラだったためギルドには寄らずそのまま宿屋に戻って眠った。あと3日間分の宿賃は前払いしてるから問題ない。




とりあえず生きて帰ったことを噛みしめたかった。




そこまで長い時間をダンジョンで過ごしたわけではないが、疲労は相当だったようで、俺たちは丸二日眠っていた。




先に起きたのは俺だ。アリスはもう少し寝るだろう。ならアリスが寝てる間にすませておこう。




俺は一人で冒険者ギルドを訪れる。そして淡々と今回の依頼の達成内容を報告した。




「はい、確認しました。ありがとうございます。それではまたお願いします」




「はぁ!?」




「え?」




「ふざけるなよ!てめーら!」




さすがに我慢が出来なかった俺は炎を纏う。こんなギルドホールならすぐに燃え尽きてしまうほどの。




「報酬が少ないとかなら、最悪我慢してやってもいい。だが今回は別だ。ウチのパーティーメンバーが死にかけたんだ。ここのトップを呼んで来い!」




「そ、そう言われましても」




「急いだ方がいいぞ。もたもたしてるとこの建物だけじゃなくお前ら全員消し炭になるからな」




俺は更に火力を上げる。




「ひ、ひぃ!す、すぐに!」




受付嬢は腰を抜かして這いつくばりながら奥へとギルドマスターを呼びに行く。




すぐに奥から涼しげな顔をした男が現れた。




「あなたが我がギルドにクレームを付けている冒険者の方ですか?」




男は薄ら笑いを浮かべながら俺に言ってくる。さっきまで震えていた受付嬢もギルドマスターの後ろで勝ち誇ったような顔をしている。はぁ、どうやらほんとにこいつらは何もわかってないらしいな。もういい。




「なぜ依頼書に『深淵からの招待』からはボスを倒すまで出られないことを書いていなかった?更にダンジョン内では空間魔法が使えないことも」




「何のことやら?」




「そうだな書いてあったものな。質問を間違えた。なんでその重要な項目を俺とアリスにだけ見えないように細工した?」




「なっ!」




「アリスが言っていた『今考えると変なに匂いがした』って」




「なんですか、それ!そんなことが証拠になるわけないだろう!」




「別に俺はお前の前に証拠を出して捕まえる探偵役でここに来たんじゃねぇ。お前を脅して本当のことを聞き出そうとしてきたんだ。勘違いするな」




俺はゆっくりと薄ら笑いを浮かべるギルドマスターに一歩一歩近づいていく。さらに温度を上げながら、俺を包む炎は赤から蒼へと変わっていく。




「ひっ!」




「言わないなら殺す」




「お、お前!ギルドマスターを手にかけたらどうなるかわかってるのか!」




冷や汗を流しながらもギルドマスターの男は必死で強がる。だが彼の顔からはとっくに薄ら笑いが消えていた。




「とりあえずお前ら全員皆殺しにしてから考えるよ」




「イカレてるのか!」




「最初に気付けよ」




―炎上 蒼―




ドゴーン




うーん、とりあえずギルドハウスを完全に燃やし尽くしてみたが、どうやらギルドマスターとその後ろに隠れていた受付嬢は何とか生きてるらしい。他の従業員やたまたまいた冒険者は皆黒焦げになって死んでいた。可哀そうに。




「なんでお前らだけ生きてんだ、うぜーな」




「つ、罪のない人間を殺したんだぞ!お前は!」




「そうだな。あの世で謝っとけよ」




「はぁ?」




「お前らのとばっちりで死んだんだから」




「何言ってる。お前が殺したんだろうが!」




「お前のせいでな」




「ふざけるな!」




「はぁ?ふざけてんのはてめぇらだろ、カス。さっさと死ねよ」




「こ、殺さないでくれ!」




「じゃあすべて吐け」




「バ、バーンズ領の領主様からあなた達を罠に嵌めて殺すように言われたんだ」




「だろうな。だが俺たち二人じゃねーだろ。俺だけのはずだ」




「え?」




「俺とアリスを二人とも殺す意味がない。そもそも俺は家名を捨てさせられたんだ。今更俺を殺しても意味がない。もし俺を殺す意味があるとすればアリスの奪還だ。なのにアリスを殺せというわけがない」




「くっ!」




「本当のことを言え。次はないぞ」




「・・・」




俺は燃え上がる手でギルドマスターの腕を掴む。




「うぎゃあああ!!!!」




「言いたくないならいい。さっさと消し炭になれ」




「た、助けてくれ!話す!すべて話す!女の方が10以上の無属性魔法を持つレアだと聞いたから、あんたら二人とも事故で死んだことにして奴隷商に高額で売るつもりだったんだ!だから女の方を殺すつもりはなかった!抵抗できないように動けなくしてから回収するつもりだった!」




俺は纏っていた炎を収めた。




「全部話したぞ!これで助けてくれるんだよな!」




「アリスを奴隷にしようとしたやつを生かしておくわけないだろ。出来るだけ苦しめるように弱火でじっくりと焼いてやる」




「うぎゃああああ!!!!」




「きゃあああああ!!!!」




ギルマスとその後ろの受付嬢をまとめてじっくり焼き、叫び声が聞こえなくなってからもしばらく焼き、俺はその場を去ってアリスの元へと帰る。






「むにゃむにゃ。お!シドもう起きてたのかよ!」




「アリス準備しろ。この町を離れるぞ」




「なんでだ?」




「ギルドの連中を皆殺しにした」




「マジかよ!オッケー、わかった!ちょっと待っててくれ」




アリスはどうしてとも聞かずに楽しそうに旅支度を始める。




「いいのかよ、それで」




「どうせ俺のためにシドが怒ったんだろ?次はどこ行く?」




アリスは嬉しそうな顔で俺の顔を覗き込んでくる。こいつにはやっぱり敵わないな。




「ははは、そうだな。一気にこの国でお尋ね者になるだろうから、まずは海を越えるか」




この世界には一つの巨大な大陸がある。アルセウス大陸だ。中央に位置し、大陸最大の領土を誇っているのが今俺たちがいるバイス王国。その南に位置しているのが王国に次ぐ大国ディセウム帝国。他には東に商人の国マルグ西にエルフの国アルヴとドワーフの国ゴルゴン、そして北には獣人の国ガルズと砂漠の国サンドがある。




だが国はこれだけではない。アルセウス大陸の西岸の先にはウンディーネの島ウルがある。ここはマルグと貿易を行っている。




そしてもう一つこちらは島というかもう一つの大陸だ。ディセウム帝国の南岸の先にある。大きさはアルセウスの3分の1。だが半分以上を険しい山脈に覆われている過酷な土地だ。ここにあるのが魔族の国ハーネスである。




今回俺たちが逃げるのはこのハーネス。




とりあえずさっさとバイス王国を出てディセウム帝国に入り、海岸からハーネスへ向かう。




急いで支度をした俺たちはアリスのワープを使いながらバイスとディセウムの国境線を目指した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る