第5話 『深淵からの招待』攻略

「ごぎゃー!」




飛び掛かってくる魔物もいるが、構ってる暇はない。更に火力を上げ周りの魔物を一瞬で焼き尽くす。




「シド大丈夫か!?」




「いいから集中しろ!一分でも早く最下層まで行かないとラスボス倒せねーだろが!」




「だ、だよな!俺はヒールをかけ続ければいいんだよな!」




「それだけでいい!俺を信じろ!」




「、、、う、うん!」




俺たちはひたすら下へ下へと向かって地面をぶち壊していく。そして6時間かけてギリギリ最下層までたどり着いた。




「はぁはぁはぁ」




「はぁはぁはぁ」




しかし俺たちはラスボス戦を前にもうすでに満身創痍だった。




―ヒール―




「わりぃ、もうヒール使えねぇ。魔力が空っぽだ」




「充分だ。やっぽお前はすげーよ。ほら、これ飲め。少しは回復すると思うぜ」




俺は覚悟を決めてアリスに回復薬を渡す。




「ありがとよ!これでラスボス戦に挑めるぜ!」




「そうかもしれねーけど、一つだけ約束しろ。ボス部屋には絶対入ってくるな」




「はぁ!?行くに決まってんだろ!」




「まあ、そう言うよな、、、。だから持っててよかった、痺れ薬!」




「はぁ!?あれ体が動かねぇ」




アリスはフラフラしながら膝をつく。




「さっきの回復薬に混ぜといた。ちゃんと回復はするけど1時間ぐらいは動けねーよ」




「てめぇ!!!」




「ゆっくり休んでゲートが使えるまでの魔力を蓄えろ。それまでに俺がこのダンジョンを終わらせておくから」




「おい!シド!お前も一緒に帰れるんだよな!?」




アリスは泣きそうな顔で俺を見てくる。俺はその顔を見ていられなくて背を向ける。




「運がよかったらな」




「ふざけんなよ!シド!」




後ろからアリスの声が聞こえてくるが正直聞いてる余裕はない。ここからはガチで命がけだ。もしかしたらもうアリスにもう会えないかもしれない。だが最悪でもアリスだけは地上にかえす。




なんかもうアリスの声を聞いてられなくなって俺はボス部屋の扉を開く。そんな理由でボス部屋の扉を開く奴はまあいないだろうな。




扉が開くと目の前には鉈を持った巨大な赤い鬼が息を荒くしながら立っていた。




「さすがにここまで来てラスボスが楽な相手なわけねーか」




見ただけで相当強いのは分かった。そしてもうアリスのヒールは期待できない。正直詰んでる。1人だったらとっくに諦めてる。でも今俺の後ろにはアリスがいる。




さっきまでもしかしたら二人で帰れるかもと思ってたが、このボスを相手に恐らくもう二人で帰るのは無理だと確信した。なら目的を少し修正する。アリスを生かす。じゃあ俺はこいつと一緒に死なないといけないな。もちろん死にたくはない。だがさっきまであった色々な選択肢が一つに絞られたことでむしろ頭はすっきりしていた。俺がやることはやっと一つだけになった。




『こいつを燃やし尽くして燃え尽きる』




「うおおおおおお!」




燃え尽きると決めたから、もうセーブする必要はない。燃えるだけ燃えてやろう。俺には無限の魔力があるんだろーが!




そこからは何も考えず戦い続けた。小難しいことを考えても無駄だ。俺にはこれしか出来ない。燃えて燃やすだけだ。




「ぐがぁぁぁ!」




「おおおおお!!!」




鬼はあちこち焼かれながらうめき声をあげる。だが俺も耐性なんてとっくに通り越し、身体は端から灰になっていく。




クソ!このままだとギリ俺の方が早く燃え尽きる。それだけはダメだ。それじゃあアリスは帰れない。相打ちでいいんだ。それなら全てを燃やし尽くせ!




「、、、アリス愛してる」




声に出してみると簡単だった。早く言っておけばよかったかもしれない。でも十分だ。俺はちゃんと人を愛せた。




「さあデカブツ。お前は俺と一緒に逝くんだよ」




表面だけじゃなく体の中からも自分を燃やしていく。俺自身が炎になるんだ。俺はこいつと一緒に灰になる。




「灰になれ」




―火葬―




自分が燃え尽きていく。だが満足だ。愛する人を守って死ねたんだから。あとは目を瞑って楽になろうとしたが、その瞬間目にまだ光りを残している鬼が目に入った。




くそ!これでもダメなのかよ!どうする!?このままじゃアリスが!くそくそくそ!




どうしようか考えを駆け巡らせていると、もっと見たくなかったものが目に映った。




「シドは死なせねぇ!かかって来やがれ!クソ鬼!」




なんで!麻痺はまだしばらく続くはずだろーが!




「シド!俺を置いて死ぬなんて許さねぇぞ!」




なんで!なんで!俺はお前を守りたくて!




「お前が居ねーならクソなんだよ!」




何で泣いてるんだよ。お前らしくねぇ。




「うごああああ!」




次の瞬間、鬼が振り下ろした鉈がアリスを切り裂いた。嘘だろ。嘘だ。




「はぁはぁはぁ、ちゃんと聞こえてたぞ、シド。ごはっ!俺もお前が好きなんだよ。愛してんだよ。だから俺のために絶対死ぬんじゃねぇ。はぁはぁはぁ、死んじゃいやだ」




血を吐きながらも必死に笑顔を作ってアリスが俺に言った。




俺はこんな顔が見たいんじゃない。なんで俺はアリスにこんな顔をさせてる?俺は強くなくてもいいんだ。アリスと一緒にいられれば。でも強くなければアリスと一緒にいられないなら。




「おい!俺を強くしやがれ!神、悪魔、クソ野郎ども!何でもいい!アリスを奪うなら全て消し炭にしてやるぞ!」




身体が灰になって崩れていく。それでもひたすら温度を上げる。いつの間にか俺を包んでいた炎は赤から青へと変わっていた。








シド




魔力総量 ∞


有効魔法範囲 0


属性 火




スキル


火耐性 強








「アリス以外の全てを焼き尽くせ!くそがぁぁぁ!」




―蒼炎―




その蒼い炎は鬼を燃やし尽くした。今にも倒れそうだが、まだ倒れるわけにはいかない。絶対にだ。




目の前には虫の息のアリスが横たわっていた。燃えることしかできない俺にはどうすことも出来ないはずだが、やるしかない。俺は幼いころからアリスの治癒魔法を数えきれないほど受け続けてきた。だから体内の感覚では何となくわかる。だがそれを体外へ出すことができない。炎と混ぜ合わせなきゃな。今までの赤い炎なら無理だったろう。だけどこの蒼い炎なら可能かもしれないと思った。




全身を包む蒼い炎に体の奥底に浸みこんだ治癒の力を混ぜ合わせていく。だんだんと蒼に白が混ざりだす。それと同時に炎の熱も下がっていく。いつの間にか温かいぐらいの温度になった青白い炎を纏って俺はアリスを抱きしめる。


アリスの傷は焼けるように塞がっていき、アリスの顔に生気が戻って来た。よかった。これでいい。そこで俺は意識を失った。








シド




魔力総量 ∞


有効魔法範囲 0


属性 火




スキル


火耐性 強




エクストラスキル


不死鳥の炎

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る